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【完結御礼】アオハル転生! 告ってフラれたあの子が「主さま」 ~TS女軍師になったオレは可愛がられてこき使われながら、彼に天下を取らせます~  作者: 香坂くら
サニー総監

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023話 再起2


 さかのぼる事、約2ヶ月ほど前――。


◆◆


「――う、うげぇ……。ヒューゴ。これ、相変わらずの修行だな」


 オレは鼻を突く強烈なアンモニア臭に顔を顰め、思わず袖で口元を覆った。


 ここはオルドー城下町の、地下秘密工房……その裏手。そこに広がっているのは、お世辞にも「天才美少女軍師さまのお仕事場」とは呼べない光景だった。積み上げられた糞尿、藁、そして人尿を染み込ませた土の山。


 ――いわゆる「硝石丘(しょうせききゅう)」だ。


「不敬だよサニー。これはさ。――人殺しの道具を活かす『特上のゆりかご』なんだぜ」


 ヒューゴは泥と汚物にまみれた手を合わせた。その瞳は、このところの不眠不休のせいで赤く充血している。


「いいかい。鉄砲の命である黒色火薬……その7割以上を占めるのが硝石。ボクが来るまでは普通にギルドから仕入れたり、天然の採取に頼っていたけど、それじゃあ今後、列強諸侯の軍勢を圧倒するほどの『物量』は確保できない。だからボクたちは、この汚い土の中から自前の火薬を産み出すんだ」


 ……オレは正直、何度その解説を聞いたか分からない。


 ――ヒューゴは今から1年以上前、オルドー家の陣営に加わってから暇を見つけては、鍬を持ってこの土の山を切り返していた。

 土の中にいる「硝化菌」という細菌に酸素を送り込むためだ。しばしばオレもその「苦行」に付き合ってたりしたんだけど、とても身が持たず、じきに音を上げて退散していた。それなのに彼は根気強く肥溜めに通い続けていた。周囲から「あの新参者、狂ってんのか」「糞尿を溜めて、こねて遊んでやがる」なんて嫌悪されたり陰口を叩かれても、全然気にせずにコツコツと……。


「菌も生き物なんだ。僕たちが息をするように、彼らにも空気が必要なんだよ」

「うんうん、そうだよな。コイツらも生きてるんだもんな」


 そんな彼の「健気な頑張り」に感化されだしたのは半年以上経ってからだが、誰よりも一番近くで彼を見てきたわけだから、オレも「汚い臭い」なんて言ってられないと。心を入れ替えて一緒に鍬を握るようになり、二人でひたすら土を混ぜる日がしばらくの間続いた。臭くても辛くても、爪の間に黒い泥が入り込んでも「構うもんか」と、美少女軍師を諦めた。いつかこれが花を咲かせる日を念じて。


 そして、ある冷えた朝。

 土の表面に、白い霜のような結晶粉がびっしりと浮き出ているのを、ヒューゴが見つけた。


「……勝った。勝ったよ、サニー!」


 ヒューゴが泥まみれの手で、その白い粉――『硝石の華』を愛おしそうに掬い上げた。

 さらにオレが『灰の道』事業で集めていた大量の木灰を混ぜる。灰に含まれるカリウムが反応し、不純物を取り除いた純白の硝酸カリウムが結晶化した瞬間、オレたちは地下工房で子供のように抱き合って喜んだものだった。


◆◆


 その一方、工房の奥ではブラムの親父さんが巨大な金槌を振るっていた。


「見てな、これがドワーフの執念だ!」


 作業台の上に置かれたのは、一本の鉄の棒。その端には驚くほど精緻な、螺旋の溝――「尾栓(ネジ)」が刻まれていた。

 ヒューゴが差し出したスマホのボルトを、親父さんとドワーフの細工師たちは文字通り「穴が開くほど」観察し、自作の旋盤で再現してのけたのだ。


「最初は信じられんかったわい。鉄を『ねじ込む』なんて発想、人間にはできん。だがな、この螺旋があれば、爆発の力を一滴も漏らさずに銃身の中に閉じ込められる。バルデルの空間波動だろうがなんだろうが、真正面からブチ抜く貫通力が得られるぞい!」


 満足そうに肩を揺らすと早速、完成した尾栓を銃身にねじ込んでいく。――キュッ、キュッ、と心地よい金属音のあと、最後には指一本入る隙間もなく密着を遂げた。この「密閉」こそが、魔法(不条理ファンタジー)に対抗するための、物理科学の極致だ。


「ブラムの親父っさん、ありがとう。これで……どうにか戦えそうだ」

「弱気になるな。魔法なんていうフワッとした怪奇現象に負けっぱなしじゃあ、死んでも死にきれねぇから、『今度はゼッタイに勝つ』って、胸張って言ってくれい!」


 親父っさんの喝に、工房に集まった魔法ギライの異端職人たちが一斉に拍手喝采した。彼らもまた、野望高きオレたちの戦友なのだった。


◆◆


 戦うための鉄砲(道具)はこうして揃った。

 だけど、それを使いこなすのは乱世の英雄を志すただの凡人だ。募集したのは、戦場で手柄を立てることを夢見る最下層の農民や、下級貴族とか商家の次男や三男坊たち。だいたいが、草莽の野心家ばかりだ。


 オレは彼らに、狙撃の精度なんて求めなかった。


「いいか! 敵の顔を見るな! 狙いを定めるな! 魔法使いが呪文を唱え始めたら、お前たちはただ、練習通りに引き金を引きまくれ!」


 工房周辺の広場では、木製の模擬銃を持った新兵候補生たちが、メトロノームのようなリズムに合わせて動作を繰り返していた。

 装填、構え、射撃。装填、構え、射撃。この繰り返し。

 魔法の詠唱には実測値で平均5秒かかる。ならば、オレたちは3秒間隔で撃つ。個の強さを誇る魔法使いに対し、オレたちは「チームプレイヤー」という名のオートマターになりきって弾を敵に送り続け倒す。チーム全体で戦果を掴む。皆で大手柄を立てるんだ。


 最初は文句タラタラ、イヤイヤのバラバラだった動きが、日夜の叱咤激励やなだめすかし、そして猛特訓を経て根性の続く人間が残り、精鋭となって一つの巨大な生き物のように機能し始めた。弾込めの「ガシャリ」という金属音が一つに重なりはじめた。


「オレたちは全員で立身出世する! 貧乏生活に戻ることなんて、もう決して許さないからな!」


◆◆


 オレとヒューゴは、夕闇に染まるトリリテ・プラトーの戦死者が葬られた墓標の前にいた。

 野ざらしとなり、土に還っていく死骸――それがこの世界の当たり前だったが、ノヴァンさまは、敵味方の別なくすべての遺骸を拾い集め、オルドー城を望む丘に運び、埋葬した。「敗北を誤魔化すための人気取りだ」「偽善者の虚飾だ」……そんな陰口をイヤと言うほど耳にしたけれど、主さまは一切の雑音をムシし断行した。

 ――そこには、名前も刻まれていない簡素な木の十字架がずらりと並んでいる。


「……コイツら、寒くないかな」


 ポツリと呟いた。人の命。オレの失策でこの人らをこんな冷たい土の下に送ってしまった。その事実は、どんなに虚勢を張っても、カラ元気を出しても、オレの中から消えてくれない。


「サニー。ボクらは決して立ち止まらない。……だよね?」


 ヒューゴが、眼鏡の奥から、瞳を鋭く射し問いかけてきた。


「ああ。オレはこの世界の戦いに終止符を打つ。好き嫌いがあってもそんなの関係なく共に生きて、共に笑える世界をつくる。……そのためならオレは幾らでも汚れられる。人殺しシステムも使う」


 オレは墓標に向かって深く頭を下げた。

 そして、顔を上げた時にはもう「迷い」はなかった。

 本当の覚悟が、腹の底で熱く燃えていた。


「ヒューゴ。最終確認だ。バルデルの魔法騎士団をハメる、新たな戦術……『三段撃ち』。その配置とタイミングを詰めるぞ」

「いいよ。今度のボクの計算には、一切の誤差はない」


 夕闇の中、オレたちは墓標に背を向け、城市へと歩き出した。

 明日オレはノヴァンさまに、必死に産んだ「勝つための策」を届ける。それは奇策ではないしミラクルを狙うのでもない。それはただ泥を掻き、糞尿にまみれ、昼夜精勤して生み出した地味でまっすぐな「科学」の戦法。「それこそが魔法を破ります」と大言壮語を吐き、背水の陣を張るだけだ。


 あとはノヴァンさま――主さまの承諾を祈るしかない。


次回予告

みんなぁ、サニーだよっ! つぎのおはなしはぁ――!


つよくてこわ〜い伝説の将軍が、なんだかベッドでぐったり中!?

一方そのころ王都では、ピリピリどきどきな軍議がスタートなのだっ☆


「必勝の策、ちゃんと用意してきましたよーっ!」……のはずが!?

なぜかサニーが先陣に!? しかもノヴァンさま、なんだか今日ちょっとコワい!?


戦場では街が燃えて、泣き出す子どもたち――

えっ、撃つ? 撃たない!? サニーのハートが、ぎゅーってなる瞬間が来ちゃう!


「お願い……それだけはダメぇっ!」


逃げた敵、深まる対立、そして動き出す、ほんもののタイガー!

戦いは、もう止まらない――!


――次回、第24話「ドキドキ大炎上!? コワコワ魔王さまと、やさしさ全力ガード大作戦なのだっ!」

「ノヴァンさまっ! オレの愛は迎撃不可っ! ハートに直撃、恋の全面支援いきまーすっ!!」

お楽しみにねっ!

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