表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アオハル転生! ~告白直後にTS転生。フラれた相手を天下人にする話~  作者: 香坂くら
サニー参謀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/21

018話 撤退


◇サニー麾下、サイラス・トーンの視点


 黄昏色の枯草が波打つ断層の絶壁が折り連なる秘境、通称『グロッケン・シュピッツェ』。

 その地でおこなわれた祝宴場から離れた空き家で、数人の小領主たちが声を潜めていた。彼らの中央に立つのは、我々が討伐目標にしていたバルドゥイン大公の密使だった。


「――合図と共にオルドーの背後を突け。教皇庁の御心は我らにある」


 密使が毒々しく笑った時、天井の梁から黒い影が降り立つ。


「……こんな時分に布教活動か? あーしにも説けよ」


 シックスの短剣が密使の喉元を掠め、家の周囲を私の精鋭が包囲する。


「宴の時間は終わりだ」


 ――さて、宴会の間。

 さっきまで取り乱していたらしいサニー殿が、シックスに捕まり引きずり出されてきた。


「サニー殿。あなたの懸念通りです。裏で手筈を整えておりました。バルドゥイン大公の密使はその場で自害しましたが、逆心を抱いた領主らが自供し拘束しております」


 サニー殿は弾かれたように顔を上げると、再び広間へと駆け戻って行った。


◆◆


◇サニー視点


「ノヴァンさま、今すぐ撤退です。一刻も猶予はありません!」


 上座で愛想笑いを浮かべていたノヴァンさま。キッと目を見開く。


「サニー。さっきまでオイオイ泣いていたろうが、その変わりようは何だ。だしぬけにまた『信じろ』と言うのか?」


 オレは四の五の言う主さまの手を取った。無礼は承知だ、深く頭を下げる。


「攻撃目標としていたバルドゥイン大公領の方が一枚上手でした。お願いです……オレを信じてください。……オレはもう二度と失敗したくない。あなたを失いたくないんです!」


 ノヴァンさまの『ブレない仮面』が揺らいだ気がした。微かにまぶたを震えさせた。野畔希の表情だ。


「……分かった。では直ちに反撃態勢を――」

「いえ、既に敵の包囲が進んでいます」

「だからただちに撤退しろと……!? 」

「その通りです。突破口を開きます」


 オレを凝視する主の目は真剣そのものだった。緊張、葛藤、思案。その思考過程の末に、コクリと首肯してくれた。


「……承知した」


 ノヴァンさまの一喝が広間に響き渡る。


「全軍、グロッケン・シュピッツェを逆走する。撤退だッ!」


◆◆


 バルドゥイン大公は、オルドー軍のあまりに早い撤退判断に狼狽したと言う。激高した彼はこう叫んだらしい。


「一兵たりとも逃がすなあ! 泥にまみれて死ねいッ、成り上がりの徒どもめッ!」


 崖上から容赦なく射降ろす矢雨は、その激情を裏打ちするようだった。

 繰り出すのは宴の席から豹変した万余の連合軍。まさに「鉄の鋏」にはさまれた絶望的な退却戦が展開した。


「右翼崩壊ッ、 敵の重装騎兵が来ます!」


 ぬかるむ湿原に自慢の鉄砲の機動力が奪われる。


「シックス、盾を捨てろ! 地面に突き刺して壁にしろ、一歩も通すな!」


 サイラス殿の怒号に応え、女獣シックスが「オオオーッ」と吠えた。

 大盾を三枚、地面深くに叩き込み、その余勢を駆って敵兵数人に蹴りをかます。


「通んなよ、ここから先は、オルドー軍の専用道だかんね!」


 両軍激突。軍馬の骨が砕ける音にサイラス殿はまったく動じず、一歩たりとも引かない。その隙に気配を消していたヒューゴが「科学戦法」を仕掛ける。


「今日の授業は光の屈折率だよ」


 彼が撒いた特殊な鉱石粉末と急速加熱した石灰の煙。

 夕刻の斜光がそれに反射し、濃霧中に「数千の鉄砲隊」の虚像が浮かび上がった。


「なっ…… オルドーの増援か!?」


 敵が怯んだ瞬間、若手兵士レオが、過熱して歪み始めた銃身を濡れ雑巾で強引に掴み、至近距離から火を噴かせた。どうと団子状態に敵兵が転がる。恐怖心に駆られたのか、明らかに敵の追撃の手が止まった。


「どうだっ、セーラー戦士の底力、存分に見せてやる!」


 レオ、格好いいぞ! セーラー戦士ってのには力が抜ける。


「今のうちに全速力で逃げろ、グズグズすんなッ!」


 決め顔のヤツの首根っこを引っ掴んで走った。


◆◆


 包囲網の突破口で待ち伏せしていたバルドゥイン大公自らが、数十騎の親衛隊を率い、ノヴァンさまを急襲した。


「逃がさぬと言ったはずだ、不遜なる成り上がり者め」


 バルドゥインの長槍が、ノヴァンさまの喉元に迫る。

 顔を引き攣らせながらも、ノヴァンさまはヤツの攻撃を避けた。魔王の仮面は急迫した死の手前ですら、不動を保つのか。バルドゥインは底の知れない冷静さに気圧された。

 その刹那を狙い、馬ごと体当たりしたオレ。落馬しかけたバルドゥインに言い放つ。


「――オレの……ノヴァンさまに触れるなッ!」

「サニー」


 オレは馬上で、銃身が真っ赤に焼けた鉄砲をバルドゥインの眉間に突きつけた。引き金にかかった指は火傷で水膨れになっている。


「……ノヴァンさまにそれ以上近付くと撃つぞ。もし何かしようとしたら、オレがお前を地獄の底まで追い詰めてやるよ」


 たぶんその時のオレの目はかなりイッてたに違いない。オレの狂気に、さしもの戦歴を誇るバルドゥインが明らかに動揺しているのが判った。ヤツは反射的に身をひるがえし、馬を引いた。そして仲間を増やそうとした。

 その僅かな時間の空白こそが、結果的にオルドー軍のグロッケン・シュピッツェを脱出するための、黄金の数秒となった。

 今だとばかり、オレたちは呼吸を合わせて引き下がった。


「あらま、息ピッタリ。お熱いわねぇ、二人とも! じゃま、ここは大人に任せなさいな」


 横合いからヴォルカンが私兵団を押し立てて割って入り、バルドゥインの再追撃を遮断した。彼女はハンカチで肩にかかった返り血を払いながら、


「貸しにしておくわよ、お嬢ちゃん」

「それって高そうだな」

「分かってるわね、なんてお利口さん」


 フフフと歯を見せない嗤いに、敵よりもずっと恐ろしく感じ、思わずオレは首をすくめた。


◆◆


 やがて月が昇る頃。

 満身創痍のオルドー軍は死地を抜けた。

 野営地の草むらに倒れ込んだオレは震える手で焼けた銃を離し、天を仰いだ。

 ノヴァンさまがゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。


「サニー、お前の手……」


 オレの手は、過熱した銃身を握り続けていたせいで無残な火傷を負っている。ついそれを見せまいと隠してしまったが、かえってノヴァンさまは気にしたらしく、拒絶を許さない強さで取られた。


「すまなかった、サニー。私が甘かった。判断をすべてお前に委ねてしまった。だからこんな目に」

「違います。二人で、いや皆で頑張ったから、ここに居るんです。生きてここに辿り着けたんです。オレはラッキーですよ。それに、申し訳ない気持ちならオレの方がずっと上だし」

「なぜキミが申し訳ない気持ちなんだ?」


 ノヴァンさまを一度死なせてしまったから。多くの仲間を見捨ててしまったから。

 それを呑み込んで「何でもないです」と答えた。そしたら「ヘンなヤツだなキミは」と頭を撫でられた。

 そんなオレらの間に静寂が訪れた。

 細い月がグロッケン・シュピッツェを逃れ出た、泥に汚れたオルドーの将兵らを静かに照らしていた。


次回予告

ナレーション:サニー&ヒューゴ&ノヴァン


サニー:「みんな、サニーだよ! 九死に一生を得て帰ってきたけど、オレの心はボロボロ……って、なんで主さまがオレの手を握って、そんな切ない顔してるわけ!? もう、そんな風にされたら、心臓が持たないってば!」


ヒューゴ:「はいはい、お熱いところ悪いけど、こっちは大事件だよ。ボクの諜報部が掴んだ情報によると、あのエロ親父……アレクシスが、ノヴァンさまを切り捨てる算段を立ててるんだって!」


サニー:「……それとボッチのノヴァンさまに目をつけたエルゼ姫だ。主さまと毎晩、部屋で二人きりでお喋りしてんだよ!? ……キィィィーッ! 知的な交流だかなんだか知らんけど、鼻の下伸ばしてんじゃねーよ、この魔王っ!!」


ノヴァン:「サ、サニー!? なぜ怒る!? 私はただ、古代兵法の話をしていただけで……! それに私はぼっちではないっ!」


ヒューゴ:「……やれやれ。これじゃ戦いの前に自滅しそうだね。

次回、アオハル転生! 第19話――」


三人同時:『嫉妬の嵐は火薬の香り!? さよならアレクシス、決別の王都オーデンス・クラウン!』


サニー:「主さまへの愛、フルスロットルだよっ!★」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ