011話 キスマーク
第12話 次回予告
ナレーション:サニー→ イリアス → シックス
サニー:「みんな、サニーだよ! 主さまと王都を目指してレッツ・ゴー!……のはずが、いきなりの別行動!? 呉越同舟の馬車からは不穏な笑い声が聞こえるし、背後からはシュール・ガルドの残党が迫ってくるし、もう、前途多難すぎ!」
イリアス:「シルヴィア殿、僕たちの街を……領民を助けてください。君の持つ『未来の力』があれば、きっと……!」
サニー:「任せな、イリアス! 時代遅れの戦術なんて、オレの鉄砲隊がまとめてブッ飛ばしてやるぜ。たとえ『悪魔の杖』って怖がられたって、主さまの隣に胸を張って帰るために、オレは止まらない!」
シックス:「サニィちゅわぁぁぁん! その覚悟、マジでダイヤモンドより輝いてるっす! 俺も愛の遊撃隊として、全力でバックアップしちゃうっすよ~!」
サニー:
「次回、アオハル転生! 第12話――」
全員(唱和):
『響け、近代兵器の咆哮! 硝煙の向こうに微笑む勝利の女神、サニー』
サニー:
「主さまへの愛、フルスロットルだよっ!★」
「姉さん! またこんなところで寝て……ハァ、枕にヨダレがついてます! 行儀が悪すぎ!」
鼓膜を震わせる鋭い声に、机に突っ伏していた上半身を跳ね上げたオレ。視界がぼやける。目の前には、怒りで肩を震わせるシリルが仁王立っていた。
「……んあ? ああ、シリルか……。悪い、ちょっと計算に熱が入っちまって」
「ちょっと、じゃありません! 昨日の夕飯も抜いたよね。倒れたらどうすんです。軍師が過労死したなんて前代未聞の不名誉ですからっ!」
軍師……いい響きだな。
小言を言いながらも、シリルは手際よくオレのボサボサ髪を梳かし始める。オレは「痛い痛い」とこぼしながら、机の上に広げた羊皮紙を愛おしげに眺めた。そこには、王都オーデンス・クラウンまでの最短ルート、各宿営地への補給物資の配分、そして天候予測までを網羅した完璧な行軍スケジュールが記されている。
「おい見てくれよ、シリル。このロジスティクス。かつて歴史上、これほど効率的な上洛計画があったか? あの舗装された天下の『サニー・ロード』をフル活用すれば、予定より三日は早く着く。これなら、あのプライドの高い亡命王子様も文句は言えねぇはずだ」
「サニー・ロード……とうとう自分の名前を使っちゃってるし。はいはい、灰の道ね。姉さんが仕事ができるのは分かりましたから。でもね姉さん、鏡を見てください。顔に羊皮紙の跡がついてますよ」
「げっ、マジか」
鏡を覗き込む。――と、そこには軍師というよりただの寝不足の小娘がいた。目の下のクマがかなり痛々しい。転生前のオレは凛々しいサッカー部員、溌溂元気な男の子だった。……はずなのに。それがどうして、こんなにも妹に呆れられる、だらしのない「お姉ちゃん」になっちまったのか。
だけどもなシリル、この騒がしくも温かい日常こそが、今のオレが守るべき「戦場」なんだぜ。大目に見てくれよな。
「じゃ、ちょっとひとっ走りノヴァンさまに朝の報告をしてくらっ」
「わああぁ! 寝間着のまま出掛けるつもりなのッ、姉さんッ!」
◆◆
昼前。ディワール辺境領、オルドー家の居城。その大広間は、熱病に浮かされたような空気に包まれていた。ずらりと並んだ重臣たちの視線の先。一段高い席に座るノヴァン・ド・オルドー――かつてのオレの幼馴染、野畔希が、腰の剣をゆっくりと引き抜いた。
「皆に告げる。……時は来た」
氷のような、だが、芯に熱を帯びた声が広間に響き渡る。
「我らが戴くは、尊きアレクシス殿下なり! これより王都オーディンス・クラウンを目指し、不退転の決意で殿下が拓く王座への道の先鋒を担う。逆賊どもを一人残らず排除し、突き進むのだ。……異論のある者は前に出よ!」
静寂。しかしそれは拒絶ではなく、爆発寸前の期待だった。
「異論など、あろうはずがございません! 閣下が殿下へ抱かれる篤き忠誠心、このバルカス、しかと感服つかまつりました。 命を賭して、必ずや殿下の道を切り拓いてみせましょう!」
重臣代表のバルカスが深々と頭を下げる。それを合図に、広間は歓喜の渦に飲み込まれた。
「うおおお! ついに王都に行く時が来たぞ!」
「サニー嬢! お嬢の造った道があれば、俺たちはどんな輩にも負けはしねぇよな!?」
「あったりまえだ!」
オレは腕組みし、「フフン」とドヤってみせた。
「このオレ様が整備した道は、ただの舗装道路じゃあないぞ。勝利へと続く超高速道路だ! 鉄砲も、塩も、酒も、すべてはこの日のために揃えてきた。オレたちオルドー軍の力、中原ヤローどもに見せつけてやるぜい!」
「サニー! サニー! サニぃぃぃ!」
サニー。いつの間にか定着したオレのニックネーム。『お天道様みたいに光り輝く明るい子』って愛情をこめて呼んでいるんだよ、と母親が言っていた。だからオレも気に入って、サニー、サニーって自称してんだ。
ノヴァンさまが、熱狂する家臣たちの隙間から、オレに視線を投げた。
「……サニー、か」
彼の唇が、音もなくそう動いた気がした。何とはなしに心臓の鼓動が強まり、戦の太鼓のように激しく鳴りだした。
◆◆
その夜、遅く。
城内では盛大な上洛祝いの宴が開かれていたが、オレは騒がしさを逃れて回廊に出ていた。まん丸に満たされた月が、銀色の瞳のように煌々と光っている。
「ほう……。こんなところに、野に咲く可憐な花がいるとはな」
不意に背後からかけられた声に、ブルッと肩が震えちまった。そこには金色の刺繍が施された贅沢な法衣を纏う男――アレクシス・アスコット卿が立っていた。
「アレクシス様……か。宴の席に戻らなくておよろしいんですか?」
「余を誰だと思っている。あのような下等な田舎連中の集まる宴など、ただ不快なだけよ。……それよりそなた、近くで見ると中々愛らしい顔をしておるな。……女かと思っていたが、その立ち振る舞い、もしや美少年か?」
アレクシスの瞳が、ねっとりとオレを舐めるように動く。
「まぁどちらでも良い。余は両方イケる性質だ。今から余の寝所に来い。今夜は少し冷えてな。暖房代わりに余の傍らで仕えさせてやろう。光栄に思え」
「はあぁ!? あんた、何言って……!」
何をカン違いしているのか、このバカ王子はオレの腕をムリヤリ掴んだ。不快感で鳥肌が立つ。殴り飛ばしてやろうかと思ったその時、アレクシスの背後から、甘く、重厚な香りが漂ってきた。
「あら、殿下。この子はダメよ。わたくしが先に唾をつけてあるんだから」
回廊の影から現れたのは、ヴォルカン・マッツ子爵だった。
豊満な肢体を強調するような真紅のドレス。溢れ出る色気を隠そうともしない彼女は、アレクシスの手を優雅に押し退けると、オレの背後に回り込み、耳元で吐息をついた。
「サニーちゃん。あなたのその頭脳……解剖して中身を見てみたいわぁ。前世……じゃなかった、故郷の知恵かしら? ねえ、今夜はわたくしの部屋で『夢の魔法』実験、してみない?」
「ち、ちょい、タンマ! ヴォルカンさん、近すぎ……オレはそういうの興味ねぇから!」
中身が男子であるオレにとって、ヴォルカンのような美女に迫られるのは、本来なら「ご褒美」のはずだ。だが、彼女の瞳の奥にある、観察対象を見るような狂気に、本能が警鐘を鳴らす。
「あら、逃がさないわよん。……これは、わたくしの独占欲の印」
抵抗する間もなかった。ヴォルカンがオレの首筋に顔を寄せ、熱い唇を押し当てた。
「チュッ」
「ひゃっ……!?」
首筋に、吸い付くような感触と、わずかな痛みが走る。
パニックに陥るオレの前に、アレクシスとヴォルカン、二人の強烈な個性が火花を散らす。
「ヴォルカン、貴様。余の獲物に横槍を入れるか」
「あら、殿下。権力で女を囲うのは古いわよ? 時代は愛と……知的好奇心だわ」
◆◆
「――私の所有物に、何をしている」
廊下の突き当たりから、凍りつくような低い声が響いた。
振り返る必要もなかった。その圧倒的な威圧感、そして場を支配する空気。ノヴァン・ド・オルドーだ。
彼は大股でこちらへ歩み寄ると、オレの腕を強引に引き寄せ、自らの背後に庇った。アレクシスとヴォルカンを、獲物を狙う鷹のような眼光で射抜く。
「ヴォルカン、戯れが過ぎる。それとアレクシス殿、あなたに忠告しておく。この『女』は、私の半身であり、オルドーの至宝だ。……私以外、何人だろうと触れることは許さん」
ノヴァンの背中は近くで見るとすごく大きく、頼もしかった。
「……チッ、興醒めだ、ノヴァン。そなたの独占欲は相当なものだな。余は寝る」
アレクシスは忌々しげに背を向け、去っていく。
「あらあら、怒っちゃった。サニーちゃん、また今度ゆっくりね」
ヴォルカンも、挑発的なウィンクを残して闇に消えた。
静寂が戻った回廊で、ノヴァンはオレを顧みることなく、掴んでいた腕をゆっくりと離した。
「……サニー、不用心だ。隙を見せれば骨までしゃぶられるぞ」
「……分かってるよ。悪かったな、助けてくれて」
礼を言いながら、彼の背中を見上げた。すると背けていた彼の顔が、半分こちらに向いた。
月光に縁取られた横顔は、恐ろしいほどに整っていた。
……なんだよ、希のくせに。カッコ良すぎるだろ……ッ!
悔しいが、顔が火照るのをどうしても止められない。
激しく刻まれる鼓動に何かが上書きされそうな心持ちがした。
「ごめんっ。部屋に帰るっ」
オレはつい、逃げちゃったのだった。
◆◆
命からがら自室に辿り着き、心臓を落ち着かせようと冷水を一気飲みした。
「落ち着け、オレ。あいつは今、男だ。希であって希じゃないんだ……」
その時、部屋の扉がノックもなしに開いた。
「姉さん! ……って、ひっ!?」
シリルが、持っていたティーカップを落としそうになり固まっていた。彼女の視線は、オレの首筋に釘付けになっている。
「ね、姉さん……その、首元……」
「え? ――あ、これはさっきヴォルカンに……」
慌てて鏡を覗き込む。見れば首筋に、痛々しいほど鮮やかな「キスマーク」が。
「……あ、いや、これは、その! ヴォルカンのオバさんが無理やり!」
「いやんウソ! ノヴァンさまでしょう!? ノヴァンさまがさっき、姉さんの後を追いかけて行ったってサイラスさんが言ってました! 姉さん、ついに? ついにご領主さまに見初め……!?」
「ち、違うんだシリル、誤解だ! ノヴァンさまは助けてくれただけで……っていうか、なんでお前、そんなに嬉しそうな――」
「……姉さん。明日からの上洛、お腰の具合は大丈夫ですか?」
「お前、何を想像してんだぁぁぁ!」
夜のオルドー城に、オレの絶叫が響いた。
次回予告
【ナレーション:シルヴィア・フォレスト(=サニー)、シックス・ハズラード、イリアス・リヴァース】
サニー:
「みんな、サニーだよ! 主さまと王都を目指してレッツ・ゴー!……のはずが、いきなりの別行動!? 呉越同舟の馬車からは不穏な声が聞こえるし、シュール・ガルドの残党は迫ってくるし、もう、前途多難すぎ!」
イリアス:
「シルヴィア殿、僕たちの街を……領民を助けてください。君の持つ『未来の力』があれば、きっと……!」
サニー:
「任せな、イリアス卿! オレの鉄砲隊がまとめてブッ飛ばしてやるぜ」
シックス:
「サニィちゅわぁぁぁん! その覚悟、マジで輝いてるっす! あーしも全力で応援しちゃうっすよ~!」
サニー:
「次回、アオハル転生! 第12話――」
全員唱和:
『響け、近代兵器の咆哮! 硝煙の向こうに微笑む勝利の女神サニー』
サニー:
「主さまへの愛、フルスロットルだよっ!★」




