表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

14.未来



中央区に入る橋の前までは、 肩を並べて歩いた。

今日も俺に財布を渡したエリアに、昨日の分も含めたお礼をすると「昼に何を食べたか後で聞かせて」と、変わらない笑顔を向ける。本当に感謝してもしきれない。

どうにか、したい。と、強く財布を握りしめた。


エリアの左手を指した指先を見つめる。

しばらく歩いて橋を渡った先が、北区らしい。

やはり、この街は川で区が区切られているのか。

どこから流れてきている川なのだろう。

ぼうっと北区の方を見つめていると、中央区の方から8時を知らせる時計塔の鐘の音が、微かに耳に入り込んだ。


「やば!僕もう行くね!」

「いってらっしゃい、転けるなよ」

「トオルもね!」

「ありがと、いってきます」


駆け足で、こちらを振り向きながら橋を渡る姿と共に、「いってらっしゃい」の声が遠ざかる。

背中を見つめて、北区へと続く道へと向かった。

昨日よりも、ずっと足取りは軽い。



――――――――



言われた通り、そのまま真っ直ぐ、道を進んでいると、しばらくして真っ白なレンガ造りの橋が見えてきた。

西区と中央区にかかる赤レンガの橋とは違い、こけや劣化による欠けが一切ない。どこか現実感のない薄さに、唾を飲み込んだ。恐る恐る、足を進める。


朝一番、一面に広がる雪に足跡を着けるように、1歩ずつ進む。半分くらいまで来てから、後ろを振り返った。

何も、ない。

真っ白なレンガには、靴跡のひとつも、付いていなかった。なんだか、胸が小さく締め付けられる。

それも一瞬の事で、理由を考えるより前に、前を向いた。


ようやく北区に足を踏み入れる。


整備された石畳の道が、広く続いて、綺麗に手入れされた街路樹が、街全体に広がる白を彩っている。

一色で統一した街並みの異様さとは裏腹に、人の気配を多く感じて、辺りを見渡した。商店街などの店が連なった中央区とは違い、同じ形の建物が立ち並ぶ姿は、住宅街を想像させる。マンションなどの団地も目に付いた。

生活の色が、かなり濃いんだな。


大きな道に、脇道が何本も枝分かれしている。

とりあえず大きな道を進んでみようと、真っ直ぐ歩いた。

仕事に行くサラリーマン風の男、でもスーツは白い。

ランドセルのような、もっと薄いカバンを背負った子供たち。女の子はピンクだが、男の子は白。

いろんな人たちとすれ違う。


ずぅっと、歩いた先に大きな公園の入口が見えた。

遊具がある訳でもなく、季節の花が植えられた花畑や、大きな池があると、入口横の石碑に地図が刻まれている。

つい、立ち止まった。


しばらくみつめ、公園に足を踏み入れる。

遊歩道を囲む芝生は、どこか、最初の場所を彷彿させ、進む道は、相変わらず、白い。

ベンチに座る老人、犬を散歩させる人。

またいろんな人がいる。


ここで暮らすのは、きっと、

そんなに難しくない。


ふと、そう思った。

なぜそんなことを思ったのか分からない。

でも、きっとそうなんだ。


しばらく歩いてると、ピンク色の小さな花畑の真ん中で、老人の背中を支える青年の姿が目に入る。

白いロングコートを羽織った男。

エリアが着ていた軍服のような威圧感はなく、装飾も最小限で、街に溶け込む色をしている。

老人の体を労わるように、彼は笑った。


なぜか、その光景が、離れない。


銀色の留め具が、光で反射した。

思わず、目を細める。

男と、目が合った。


黒が混ざったような、灰色。

違う。

まるで、黒だったものに、白が溶けたような。

そんな色。


なんだか、自分を見ているような気がして、俺から目を逸らした。風で揺れた自分の髪は、変わらずに黒い。

それでも、なぜか、心が微かに揺れた。


頭を緩く振り、また歩き始める。

ようやく公園の中心に来たようで、先程よりも人が多い。

コテージのような建物があり、そこで食べ物を売ってるようだ。匂いに釣られそうになるが、お昼にするには、時間が早すぎる。


ぐるりと見渡して、地図とは違った掲示板が立っていることに気がついた。そっと近づいて、覗く。

いろんなイベントのチラシが貼ってある、街の掲示板のようだ。明るいポスターを順番に目を通して、ある一点で、止まった。


「渡界者 就労支援窓口のお知らせ」


思わず、声に出して見出しを読んでしまった。

声が緑に吸い込まれて消える。

どきりと、心臓が音を立てた。


『セレスティア北区では、渡界者の就労、及び生活支援サービスを行っています。

新しい人生を、セレスティアで過ごしてはいかがですか?

お気軽に窓口までお越しください。ご相談だけでも!』


窓口の場所も丁寧に書かれている。

他のポスターと違い、地味めな色で印刷されたポスター。


ずっと疑問だった。

1人で天界にたどり着いた渡界者が、どうやってここで暮らしているのか。このような支援サービスが、もしかしたら他の街でもしてくれているのかもしれない。

セレスティアは、それでも、渡界者の数は少ないようだけれど。


「行ってみようかな」


ズボンのポケットに突っ込んだ、エリアの財布を触る。

いつまでも頼ってばかりではいられない。

俺は、隣に沢山入っていた、同じ印刷をされたチラシを1枚貰う。目を凝らし、とりあえず公園を出ようと、目的地に近そうな出口を目指すことにした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ