第五章:悪魔との盟約
張書記との、最後の、会談。
それは、荘園の、奥深くにある、茶室で、行われた。
「青木君。君の、才能は、よく、わかった」
張書記は、静かに、言った。「君は、我々の、ファミリーの、一員となる、資格が、ある。君と、我々とで、レアアースの、供給に関する、より、強固な、盟約を、結びたい。君が、我々の、日本における、独占的な、代理人となるのだ。見返りは、君が、想像する、以上のものを、与えよう。金、女、そして、権力。君が、望むもの、すべてだ」
それは、悪魔の、誘惑だった。
この、盟約を、結べば、義成は、計り知れない、富と、力を、手に、することができる。
だが、それは、同時に、彼が、この、反人類的な、システムに、完全に、組み込まれ、その、共犯者となることを、意味していた。
彼の、魂が、試されていた。
義成は、目を、閉じた。
脳裏に、浮かぶのは、李殷の、最後の、笑顔。
父楡生と母京海の彼の身を案じたまなざし。
そして、奈落の底で、彼を、抱きしめてくれた、麗紅の、温もり。
祖苑の憔悴しきった、彼の地獄への帰還を迎えたときの心から喜んだ笑顔。またその他のすべての「紅顔知己」の彼を待ち侘びいたそれぞれの表情。
彼は、どちらを、選ぶのか。
光か、闇か。
人間か、怪物か。
彼は、ゆっくりと、目を開けた。
その瞳には、もはや、何の、迷いも、なかった。
「…光栄です、張書記。その、お話、謹んで、お受けいたします」
彼は、微笑んだ。
それは、すべてを、受け入れた、聖者の、微笑のようでもあり、すべてを、破壊することを、決意した、魔王の、微笑のようでも、あった。
その夜。
義成は、李霃帘の、ベッドの中にいた。
彼女は、満足げに、彼の、体を、求めた。
「…これで、あなたは、完全に、私のものよ、義成。もう、どこへも、行かせないわ」
彼女は、龍を、繋ぎとめる、鎖を、手に入れたと、思った。
だが、彼女は、知らなかった。
その鎖は、龍を、繋ぎとめるものではなく、龍が、自らの、意志で、その首に、かけた、枷で、あることを。
そして、その、枷の、重みこそが、龍に、最後の、そして、最大の、飛翔を、させるための、力と、なることを。
彼は、悪魔と、契約した。
だが、それは、悪魔に、魂を、売るためでは、なかった。
悪魔の、懐に、最も、深く、入り込み、その、心臓を、内側から、食い破るため。
彼の、聖戦は、今、まさに、始まろうとしていた。
それは、誰にも、知られることのない、たった、一人の、孤独な、そして、あまりにも、気高い、戦いだった。




