4. 過去からの系譜
由紀との、関係が、深まるにつれて、義成は、彼女の中に、ますます、強く、李殷の、面影を、見るようになっていた。
もちろん、由紀は、殷ではない。
殷が、太陽のような、華やかさと、カリスマ性を持っていたとすれば、由紀は、月のように、静かで、穏やかな、光を放つ、女性だった。
だが、二人の、魂の、根底に流れるものは、驚くほど、似ていた。
その、曇りのない、誠実さ。
相手の、痛みを、自分の痛みとして、感じることのできる、共感能力。
そして、何よりも、相手を、無条件に、信じ、受け入れる、深い、愛情。
義成は、時々、恐ろしくなることがあった。
これは、神が、自分に、与えてくれた、二度目の、チャンスなのだろうか、と。
殷を、守れなかった、自分への、償いの、機会を、与えてくれたのだろうか、と。
ある夜。ベッドの中で、由紀は、ふと、義成の、背中にある、いくつかの、古い傷跡に、気づいた。
「…この傷、どうしたのですか?」
彼女は、その傷跡を、慈しむように、指で、そっと、なぞった。
それは、義成が、高校生の時、挫折と、絶望の中で、自らを、傷つけた、若き日の、痛みの、痕跡だった。
「…若い頃の、馬鹿げた、過ちだよ」
義成は、そう言って、誤魔化そうとした。
だが、由紀は、何も言わずに、その、一つ一つの、傷跡に、まるで、その痛みを、吸い取るかのように、優しく、口づけを、落としていった。
その、温かい、感触に、義成の、心の奥底の、固く、閉ざされていた扉が、軋みを立てて、開いていくのが、わかった。
彼は、この女性になら、話せるかもしれない。
自分の、本当の、過去を。
自分が、何者で、どこから、来たのかを。
中国人・張義成として、そして青木義成となって、生きた、光と、闇の日々を。




