5. 偽りの病
作戦決行の、二日前。
義成は、まず、李霃帘を動かした。
「ディアオリェン、君に、頼みがある」
彼は、河北省にいる彼女に、電話をかけた。「僕の、日本の、大事なクライアントの、親族が、上海の、提籃橋刑務所に、冤罪で、収監されている。病気を患っており、危険な状態だ。君の力で、僕の息のかかった医者を、特別診療の名目で、刑務所に入れることは、できないか?」
李霃帘は、最初、難色を示した。それは、あまりにも、リスクが高すぎる。
だが、義成は、彼女の、アキレス腱を、巧みに、突いた。
「これは、君の、海外への、資金移転ルートを、確保するための、重要な、テストケースでもある。僕が、どれだけ、困難な状況を、コントロールできるか、君の、その目で、確かめてくれ」
その言葉に、李霃帘は、動いた。彼女は、王書記の、さらに上の、北京の中央政法委員会に、手を回し、「日中友好医療交流」という、もっともらしい名目で、外部の医師が、刑務所へ立ち入るための、特別な許可を、取り付けた。
次に、義成は、王麗紅を、呼んだ。
「麗紅、君の、力が必要だ」
彼は、彼女に、偽の「紅」役となる、一人の女性の写真を見せた。その女性は、祖苑が、香港の裏社会から探し出してきた、本物の紅と、背格好や、年齢が、よく似ている、末期癌の、天涯孤独の女性だった。彼女は、多額の報酬と引き換えに、この、危険な役を、引き受けた。
「この女性に、本物の紅さんが患っている、『多発性硬化症』と、同じ症状を、一時的に、作り出してほしい。歩行困難、視力障害、そして、全身の痙攣。君の、その、神の指なら、可能だろう?」
王麗紅は、義成の、その、冷たい、しかし、どこか悲しげな瞳を見て、すべてを、察した。
「…承知、いたしました。青木様の、龍の、お望みとあらば」
彼女は、その日から、つきっきりで、偽の「紅」の体に、鍼と、指圧、そして、特殊な薬草を使い、まるで、本物の難病患者であるかのような、完璧な「演技」を、仕込んでいった。




