5. 契約の儀式
その夜、二人は、李霃帘が、密かに使う、別宅の、豪華なマンションへと、場所を移した。
二人の間には、もはや、言葉は、必要なかった。
李霃帘は、これまで、数多の男たちを、その権力と、知性で、支配してきた。だが、彼女は、今、自らの意思で、目の前の、この若い男に、支配されることを、望んでいた。
それは、彼女にとって、初めての、敗北であり、そして、最高の、快感だった。
彼女は、自ら、その、シャネルのスーツを、脱ぎ捨てた。
現れたのは、彼女の、その、強い意志を、そのまま、体現したかのような、無駄な肉が一切ない、しなやかで、引き締まった、アスリートのような、裸体だった。
彼女は、義成の前に、跪いた。
それは、昼間の、監察チームの前で、彼が、彼女を救った行為への、返礼の儀式だった。
「あなたの、その、素晴らしい頭脳と、度胸に、敬意を表するわ」
彼女は、そう言うと、女王としての、最後のプライドを、捨て去り、彼の、熱く、硬くなった欲望を、その、知的な唇で、恭しく、迎え入れた。
その夜の、二人の交わりは、これまでの、どの女との、セックスとも、違っていた。
そこには、支配と、服従だけではない。
対等な、二人の、知的なプレイヤーが、互いの、能力を認め合い、魂の、最も深い部分で、共鳴し合うような、スリリングな、チェスゲームにも、似ていた。
二人は、互いの体を、探り合い、その、弱点と、快感の、在り処を、暴き合い、そして、共に、堕ちていった。
夜明け前。
ベッドの中で、李霃帘は、満足げに、そして、どこか、名残惜しそうに、義成の胸に、その頭を、預けていた。
「…あなた、一体、何者なの…?」
「さあ…ただの、投資家ですよ」
義成は、笑って、そう答えた。
彼は、この、最強の女帝を、手に入れた。
それは、彼の、国家に対する、そして、母に対する、二つの、重い十字架を、背負い、進んでいくための、最も、強力な、武器となるだろう。
龍は、巧妙な罠を、仕掛けた。
そして、その罠に、自らも、かかろうとしていた。
彼の、孤独で、危険な、チェスゲームは、今、ようやく、その、序盤を、終えたばかりだった。




