4. 歪んだ告白
出会いから、三ヶ月が経った、ある雨の夜。
二人は、義成の、ホテルのスイートルームで、二人きりだった。窓の外では、雨が、上海の街を、優しく濡らしている。
「…青木さん。私、あなたのことが、好きです」
湛吟は、震える声で、その想いを告白した。
義成は、彼女を、優しく、抱きしめた。
「…僕もだよ、湛吟。僕も、君の、その純粋な魂を、愛している」
それは、嘘ではなかった。彼は、彼女の純粋さに、強く惹かれていた。彼女といると、自分が、かつて失ってしまった、光の世界を、垣間見ることができるような気がした。
だが、それは、決して、本当の愛ではなかった。彼の行動のすべては、彼女の背後にいる、兄・鳴風に近づくための、冷徹な計算に基づいていた。
唇が、重なった。
湛吟は、初めての、深い口づけに、うっとりと、身を委ねた。
義成は、彼女の、華奢な体を、ベッドへと、優しく導いた。
彼は、彼女の服を、一枚、また一枚と、まるで、聖なる儀式のように、丁寧に、脱がせていく。
現れた、彼女の、若く、清らかな裸体。それは、彼が、これまで抱いてきた、どの女の体とも、違っていた。そこには、何の駆け引きも、欲望の匂いも、なかった。ただ、無垢な、信頼だけがあった。
義成の心に、一瞬だけ、鋭い痛みが走った。
(俺は、今、何をしようとしているんだ…?)
李殷の、面影が、脳裏をよぎる。この、純粋な魂を、自分の、薄汚れた目的のために、利用し、そして、いずれは、踏みにじることになる。
その、罪の意識。
だが、彼は、その感情を、心の奥底へと、ねじ伏せた。
これは、戦いなのだ。そして、戦いに、感傷は不要だ。
彼は、彼女を、激しくではなく、どこまでも、優しく、愛した。
初めての、結合の痛み。湛吟の、か細い悲鳴。
義成は、そのすべてを、自らの罪として、受け止めた。
「…痛かったかい?」
「ううん…大丈夫。だって、青木さんと、一つになれたのだから…」
彼女は、涙を浮かべながらも、幸せそうに、微笑んだ。
その、無垢な笑顔が、義得の心を、ナイフのように、抉った。
その夜、彼は、彼女を抱きながら、眠ることができなかった。
彼の心は、歪んでいた。
純粋なものを、求めながら、それを、自らの手で、汚していく。
この、矛盾。この、痛み。
それこそが、龍である、彼に課せられた、宿命なのかもしれない。




