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龍の傳人―光と闇の羅針盤(青木家サーガ第3作)  作者: 光闇居士


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第二部:龍、仮面を纏う 3. 闇への第一歩

佐藤の手引きを受け、日本のグッズ商社で短期の研修を経て、2004年の夏、香港、九龍クーロン。ヴィクトリア・ハーバーのきらめきを眼下に望む、高層ビルのサービスオフィス。青木義成が設立した「AOKI GLOBAL LINKS」の、城とも呼べる拠点だ。彼は、国家から提供された潤沢な資金を元手に、最初の戦いの準備を整えていた。

「…本当に、この方法でいくの?」

電話の向こうから聞こえるのは、彼のメンター、林祖苑の、相変わらずクールで、しかし心配の色を隠せない声だった。

「ええ。一番、手っ取り早い」

義成の声は、平坦で、感情がこもっていない。「この国の権力者たちが好む言語は、金と、欲望。それ以外にない。ならば、僕も、その言語を話すまでです」

「あなたという人間を、安売りするようで、私は気に入らないわ」

「安売りじゃありません。先行投資です」

電話を切った義成は、窓の外の景色を一瞥すると、もう一つの、暗号化された回線で、深圳の長安ホテルに電話をかけた。呼び出したのは、彼の「紅顔知己」の一人、炎の女神・楊楊ヤンヤンだった。

「俺だ。…ああ、今夜、上海に飛ぶ。お前も来い。…そうだ、一番派手なドレスでな」

その夜、義成は上海の地に降り立った。彼を空港で出迎えたのは、黒塗りのベントレー。運転手は、祖苑が手配した、口の堅い元軍人の亥元軍人だ。義成の身の周りのガードも兼ねる。車が向かう先は、ホテルではない。外灘バンドに新しくオープンした、上海で最も豪華で、最も退廃的な、会員制プライベートクラブ「紫禁城」だった。

挿絵(By みてみん)

クラブのVIPルームは、この世の欲望をすべて集めて煮詰めたような、むせ返るような熱気に満ちていた。紫煙が立ち込め、高級な酒の匂いが鼻をつく。ソファには、肥え太った中年男たちが、露出度の高い衣装をまとった若い女たちを侍らせ、下品な笑い声を上げている。彼らの多くが、上海市政府や、関連企業の幹部たちだった。

義成は、その光景を、冷たい目で見渡した。そして、意図的に、部屋の隅にある、最も目立たないテーブルについた。彼の腕には、深圳から駆け付けた、真紅のタイトドレスに身を包んだ楊楊が、これみよがしに絡みついている。彼女の圧倒的な美貌と豊満な肉体は、部屋中の男たちの、いやらしい視線を釘付けにした。

「あれは、誰だ?」

「知らん。見たことのない顔だな。だが、連れている女は、極上だ」

挿絵(By みてみん)

男たちの、ひそひそ話が聞こえてくる。義成の狙いは、それだった。自らは目立たず、しかし、自分の持つ「力」――金と、女――を、暗に誇示する。

やがて、一人の男が、義成のテーブルに近づいてきた。腹の出た、脂ぎった顔。上海市工商局の課長クラスの役人、李という男だ。

「兄弟、見ない顔だな。どこのお方だ?」

「青木と申します。香港で、しがない投資会社を」

義成は、立ち上がると、丁寧に、しかし相手を値踏みするように、名刺を差し出した。

李課長は、名刺の「代表取締役」という肩書と、義成の腕に絡みつく楊楊の胸の谷間を、いやらしく見比べた。

「ほほう、青木社長か。お若いのに、大したもんだ。隣の小姐も、素晴らしい」

「お褒めにいただき、光栄です。李課長、よろしければ、一杯いかがですかな?そこの、ドン・ペリニヨンのロゼを、ボトルでいただこう」

義成が指を鳴らすと、すぐにボーイが、最高級のシャンパンを運んできた。李課長の目が、あからさまに輝いた。この若い日本人は、金の使いっぷりがいい。そして、この国の「ルール」を、よくわきまえている。

その夜、義成は、李課長を徹底的に、もてなした。酒を浴びるように飲ませ、楊楊に、彼の膝の上で、際どいサービスをさせた。そして、帰り際には、分厚い現金の入った封筒と、ロレックスの最新モデルの腕時計を、「つまらないものですが」と、そっと渡した。

李課長は、完全に、骨抜きになった。

これが、義成の、闇への第一歩。彼は、自らの魂を切り売りするように、国家の資金を使い、最初の「駒」を、手に入れた。

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