12. エピローグ - 新たな龍の誕生
翌朝。
上海浦東国際空港の出発ロビーは、別れを惜しむ人々の喧騒に満ちていた。
そこに、祖苑が、何事もなかったかのように、現れた。彼女は、完璧なメイクを施し、颯爽としたビジネススーツに身を包んでいた。昨夜の、乱れた姿の面影は、どこにもない。
「涌井部長、皆様。短い間でしたが、お世話になりました」
彼女は、完璧なビジネススマイルを、一同に向けた。
「いやいや、林さん!こちらこそ!本当に、ありがとうございました!今度、東京に来る時は、必ず声をかけてくださいよ!最高の接待をしますから!」
涌井が、最後まで名残惜しそうに、彼女の手を握る。
一行が、出国ゲートへと向かう。その最後に、義成は、彼女と向き合った。
二人は、何も言わなかった。ただ、視線を交わしただけ。しかし、その視線には、千の言葉よりも、多くの意味が込められていた。
祖苑の唇が、かすかに動いた。
(頑張りなさい、弟分)
義成は、小さく、しかし強く、頷いた。
ゲートを抜け、飛行機に乗り込む。窓から、遠ざかっていく上海の街並みを見ながら、義成の心は、不思議なほど、静かだった。
感傷はない。あるのは、これから始まる戦いへの、冷たい高揚感だけだ。
彼は、この10日間で、別人になっていた。
日本のパスポートを持つ、ただの優秀な広告マンではない。
中国の闇を知り、そのルールをマスターした、危険なプレイヤー。
闇の教典を携えた、新たな龍が、今、誕生した。
その翼は、かつてないほど、力強く、そして黒く、輝いていた。




