11. 共犯のベッド
彼女は、彼のネクタイに手をかけ、ゆっくりと、それを緩めた。
「今夜だけ…私を、ただの女として、扱ってくれないかしら」
その声は、懇願だった。
義成は、何も言わずに、彼女の細い腰を抱き寄せた。
彼女の唇は、ウイスキーの香りがした。最初は、優しく、しかし、やがて、お互いの孤独を埋め合うように、激しく、深く、求め合った。
彼女は、義成の手を取り、寝室へと導いた。
キングサイズのベッドの上で、二人は、互いの服を、焦るように剥ぎ取っていった。現れた祖苑の体は、完璧に鍛え上げられ、しなやかな曲線を描いていた。
それは、愛情から来る行為ではなかった。
少なくとも、男女の恋情とは違う。それは、師匠が、最も大切な奥義を、弟子に引き継ぐための、濃密で、神聖で、そして倒錯的な、最後の儀式だった。
彼女は、自ら、彼の腰に跨った。
「教えてあげるわ、義成…これが、本当の『交渉術』よ…」
彼女は、喘ぎながら、彼の耳元で囁き続けた。
「相手の、一番弱いところを、攻めるの…プライドを、徹底的に、愛撫するのよ…」
「そして、最後に、相手が、もうこれなしでは生きられないと、思わせる…それが、支配の、極意…」
彼女の言葉と、体の動きが、シンクロする。
義成は、彼女のすべてを、その体と、魂で、受け止めた。彼は、ただの快楽に溺れているのではなかった。彼は、学んでいたのだ。この、恐ろしくも美しい、孤高の師から、闇の世界で生き抜くための、最後の教えを。
夜が、白み始める頃。
激しい嵐が過ぎ去り、二人は、汗と、酒と、体液にまみれて、ベッドに倒れ込んでいた。
祖苑は、子供のように、彼の腕の中で、静かな寝息を立てていた。その寝顔は、初めて見る、無防備で、愛らしいものだった。
義成は、眠れなかった。
彼は、この夜の出来事を、その重みを、生涯、忘れることはないだろう。




