5. 宴の裏側
その夜、打ち合わせの成功を祝して、上海市内の高級レストランで、盛大な宴会が催された。円卓の上には、フカヒレの姿煮、アワビのオイスターソース煮、北京ダックといった、これでもかというほどの高級料理が並ぶ。
「いやあ、林さん!今日は、本当にありがとうございました!乾杯!」
涌井部長は、アルコール度数の高い白酒を勧められるままに呷り、すっかり上機嫌になっていた。
「特に、青木君!君は、今日のMVPだ!いやあ、すごい!本当にすごいよ!君がいなかったら、どうなっていたことか!」
「いえ、僕は自分の仕事をしただけです」
義成は、謙遜しながらも、次々と注がれる酒を、断ることなく受けた。彼の顔色は、少しも変わらない。
一方、佐々木は、ソエン・プランニングの若い女性社員に狙いを定め、片言の中国語とボディランゲージで、必死に口説きにかかっていた。
「ウォ、アイ、ニー!ビューティフル!ベリー、ベリー、カワイイ!」
その姿は、滑稽そのものだった。
宴会がお開きになると、涌井部長は「二次会だ!」と息巻いた。
「林さん!もちろん、付き合ってくれますよね?上海で、一番ゴージャスなKTVに連れて行ってくださいよ!」
祖苑は、困ったように、しかし、きっぱりと首を横に振った。
「申し訳ございません、涌井部長。私は、仕事が終われば、すぐに帰る主義ですので。お店なら、ご紹介いたしますが」
「ええーっ!そんなこと言わずに!そこを何とか!」
食い下がる涌井を、祖苑は巧みにかわし続ける。その時、義成が、そっと涌井の耳元で囁いた。
「部長。ここは、僕に任せていただけませんか。林さんには、明日の打ち合わせの件で、少し確認したいこともありますので」
「おお、そうか!よし、青木君、任せた!林さんを、必ず口説き落とせよ!」
涌井は、そう言い残すと、佐々木や他のスタッフを引き連れて、夜の街へと消えていった。
後に残されたのは、義成と、祖苑の二人だけだった。




