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龍の傳人―光と闇の羅針盤(青木家サーガ第3作)  作者: 光闇居士


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2. 第一印象 - 混沌の坩堝(るつぼ)

飛行機が高度を下げ始めると、灰色のスモッグの向こうに、巨大な龍のように横たわる大陸が見えてきた。長江が海へと注ぐ、広大なデルタ地帯。そこは、二十一世紀の富と欲望を、すべて飲み込もうとする、巨大な口だった。

上海浦東国際空港に降り立った瞬間、義成の全身を、もわりとした湿気と、独特の匂いが包み込んだ。それは、石炭の燃える匂い、香辛料の匂い、そして何百万人という人間の汗と熱気が混じり合った、混沌の匂いだった。日本の清潔で、整然とした空気とはまったく違う、生のエネルギーに満ちた匂い。義成は、その匂いを、懐かしいと思うでもなく、ただ全身で受け止めた。

「うおー!すっげえ!これが上海か!」

同行メンバーの一人、制作局の若手ADである佐々木が、子供のようにはしゃいだ声を上げた。彼は、いかにも業界人らしい、派手な色合いのシャツを着て、首から一眼レフをぶら下げている。

「佐々木、はしゃぐな。田舎者だと思われるだろうが」

彼をたしなめたのは、制作局のトップであり、今回のプロジェクトの責任者である涌井部長だ。五十代半ば、恰幅のいい体つきに、日焼けした顔。豪放磊落を絵に描いたような男だが、その目の奥には、クライアント受けのいい計算高さがちらついている。

「いやあ、部長!空気が違いますよ、空気が!なんか、こう、金儲けの匂いがプンプンしますねえ!」

「馬鹿野郎、下品なことを言うな」

涌井は笑いながらも、その目は、空港のあちこちで目にする美しい女性たちを、品定めするように追っていた。

チームは、義成を含めて五人。涌井部長と佐々木。そして、口数の少ないベテランデザイナーの村松。彼は、業界でも有名なクリエイターだが、海外の仕事には慣れていないのか、不安げな表情で周囲を見回している。もう一人は、紅一点のプロダクション・マネージャー、美咲だ。彼女は、几帳面な性格で、分厚い資料の束を抱え、必死にスケジュールを確認している。典型的な、日本の広告代理店の海外出張チームだった。

彼らは、リニアモーターカーで市内へと向かった。最高時速430キロ。車窓の外を、開発途中の荒涼とした土地が、猛烈なスピードで過ぎ去っていく。その近未来的な乗り物と、窓の外に広がる前近代的な風景のギャップが、今の中国という国そのものを象徴しているようだった。

「いやあ、青木君!君がいてくれて本当に助かるよ!」

リニアの車内で、涌井が義成の肩を馴れ馴れしく叩いた。

「郷田の奴から、すごい新人がいるとは聞いていたが、まさかこれほどとはな!君がいれば、百人力だ。今夜あたり、さっそくすごい店に案内してくれよ。なあ?」

下心丸出しの笑顔。義成は、当たり障りのない笑みを浮かべて応じた。

「お任せください。ですがまずは、現地パートナーとの打ち合わせが先ですね」

「はは、真面目だなあ!そこがいい!頼りにしてるぞ!」

ホテルにチェックインし、息つく間もなく、一行は現地協力代理店「ソエン・プランニング」のオフィスへと向かった。オフィスが入っているのは、租界時代の古い洋館をリノベーションした、趣のあるビルだった。

ドアを開けると、そこは日本のクリエイティブ・エージェンシーと何ら変わらない、モダンで洗練された空間が広がっていた。そこで彼らを待っていたのが、彼女だった。

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