第9話「暴走アリアと、届かない俺の声」
その日、訓練場に着いた瞬間――
異変は始まっていた。
アリアの身体から、白い光が漏れている。
リリア「……アリア? どうしたの、その魔力……!」
アリア「あ、れ……なんか……苦しい……の……」
俺「ちょ、アリア!? 昨日の負荷が抜けてないんじゃ――」
アリア「う、うう……っ……!」
ビキィン!
空気が裂ける音がした。
次の瞬間、アリアの魔力が弾けた。
白い光が、石畳を抉るほど暴れまわる。
グラン「アリア! 意識を保て! 魔力が暴走している!!」
アリア「わか、らない……止まらない……っ!」
リリア「魔力循環が逆流してる……! このままじゃ体が!?」
俺「ダメだ、アリア!!」
アリアの目が――
色を失っていく。
涙なのか汗なのかわからない液が頬を流れる。
アリア「こわい……っ! 誰か……助けて……!」
俺「いる! ここに俺がいる!!」
飛びついた。
スライムの体でアリアの腕にまとわりつく。
俺「アリア! 落ち着け!! 呼吸しろ!!
俺を思い出せ!! “友達”って言っただろ!!」
アリア「スライ……ム……? あれ……声が……遠い……」
また。
ドンッ!!!
魔力の暴風が俺を吹っ飛ばす。
俺「ぐっ……!?」
リリア「この出力……もうアリア自身が制御してない……!」
グラン「このままじゃ魔力が体内で爆発するぞ!」
アリアは胸を押さえながら、涙をこぼした。
アリア「やだ……怖い……助けてよ……スライム……」
俺「助ける! 絶対助けるから!!」
必死で跳ねて戻り、アリアにしがみつく。
俺「アリア!! 俺がいるだろ!!
一緒にいてやるって言っただろ!!!」
アリア「…………っ!」
一瞬、アリアの光が弱まった。
俺「アリア! 大丈夫、聞こえてるんだろ!?」
アリア「……――」
……だが。
その瞬間。
誰かの声が、アリアの耳に囁いた。
白面の声(幻聴)「アリアさん……あなたはひとりじゃない。
私が力をあげます。
もっと……強いあなたに」
アリア「……リオ……ちゃん……?」
リリア「まずい! 幻聴が入ってる!!」
俺「アリア!! そいつは敵だ!!!」
アリア「リオちゃん……助けて……」
俺「アリアあああああああ!!」
だが。
バァン!!
光柱が吹き上がり、俺は弾き飛ばされた。
身体が砕けるような感覚。
俺の声は――もうアリアに届いていなかった。
アリア「…………ごめん……」
その言葉だけが、静かに漏れた。
アリアの瞳が完全に光を失い、
代わりに、真白の輝きが灯る。
リリア「アリアの魔力……完全に錯乱してる……!!」
グラン「逃げろ! この出力は危険すぎる!!」
俺「逃げない……ッ!! アリア……!!」
震える体を必死に動かし、俺はもう一度跳ね上がる。
だけど――
アリア「――来ないで」
その声とともに、
圧倒的な魔力の奔流が俺を吹き飛ばし――
俺は地面に叩きつけられて、動けなくなった。
視界がかすむ。
音が遠くなる。
俺
最後に見えたのは、
光の中で静かに涙をこぼすアリアの姿だけだった。
(第9話・終)
【エピローグ⑥】
夜。
世界のどこにも属さない空間――“境界回廊”。
光も影も、上下も存在しない無の領域。
その中心に、白面の少女リオが立っていた。
アリアの暴走の余波を、白い指先でなぞる。
リオ「……美しい。
歪んだ魔力ほど……心を震わせるものはない」
背後から、黒い人影が現れる。
その輪郭ははっきりせず、霧のように揺れていた。
影「報告を」
リオ「アリアの魔力暴走は、予定以上に成功しました。
スライムによる“感情安定”は……完全に遮断されています」
影「ふむ。では“繋がり”は?」
リオ「一時的に、すべて断たれました。
彼女は今――
自分がひとりだと思い込みつつあります」
影は低く笑った。
それは風音のようであり、骨を鳴らすようでもあった。
影「ならば良い。
アリア・フォルネは、我らの望む“器”に近づいている」
リオ「ただ……スライムの干渉は誤算でした。
アリアは、あれに心を預けすぎていた」
影「そのスライムは?」
リオ「……瀕死です。
もうアリアに届く声は持たないでしょう」
影「そうか。ならば“次の段階”だな」
リオは少しだけ顔を上げた。
リオ「アリアを……連れてくるのですか?」
影「ああ。
あの少女はすでに境界に触れた。
心が壊れる寸前こそが、もっとも美しい」
リオ「…………」
影「どうした?
お前はその瞬間が好きなのだろう?」
リオ「……ええ。
“美しいものが壊れる瞬間”……大好きです」
影が霧のように姿を消す。
リオはひとり残され、小さく笑った。
リオ「アリアさん……震えていましたね。
苦しそうに泣いていましたね。
でも……それでいいんです」
仮面に手を当て、静かに呟く。
リオ「――あなたはもっと孤独になればいい。
もっと弱くなればいい。
そして……私だけを“求めて”ください」
その声は、優しさと狂気が等しく混ざっていた。
リオ「もうすぐですよ、アリア。
“あなたの花”が咲く日が」
無の空間に、白い仮面がそっと消えていった。
(第9話エピローグ・終)




