第8話「白面再来、アリアの魔力が"軋む音"を立て始めた」
翌日。
俺たちは昨日に続き訓練場へ向かっていた。
アリア「よーし今日も頑張るっ! あと腕立ては10回までにしてください……」
グラン「100回だ」
アリア「昨日より増えてるうう!!?」
リリア「グラン、アリアは人間なんだから……限度を考えなさいってば!」
俺「まぁ昨日より顔色いいし……成長してんじゃねぇ?」
アリア「う……嬉しいけど嬉しくない……!」
そんなやり取りをしながら訓練場に入ると――
そこに、すっと立つ白い影があった。
リオ(白面)「……おはようございます、アリアさん」
アリア「えっ、リオちゃん!? なんでここに……?」
リオ「あなたの魔力、また揺れていたから。
気になって……来てしまいました」
アリア「魔力って揺れるの?」
リオ「ええ。あなたは“心”で魔力が変わるタイプ。
だから……いつ壊れてもおかしくない」
リリア「ちょっと待ちなさい。“壊れる”ってなに?」
リオは微笑んだまま答えない。
その沈黙が逆に怖い。
俺(絶対こいつ敵だろ……)
アリアは一歩近づいて尋ねた。
アリア「昨日の魔法……もっと上手くなりたいの。
リオちゃん、教えてくれる?」
グラン「アリア、簡単に教わるのは危険だぞ」
リオ「大丈夫ですよ。
私はアリアさんを“強く”するだけ」
その言葉の“どこか”が引っかかるのに、
アリアだけは気づかず、少し嬉しそうに笑った。
アリア「じゃあ……ちょっとだけ!」
リリア「アリアっ!」
アリア「平気だよ、みんなのそばで教えてもらうから!」
リオはアリアの手を軽く握り、静かにささやいた。
リオ「――目を閉じて。
自分の心を覗いてみてください」
アリア「心……?」
リオ「そこにある魔力を、つまんで、少しだけ“引き出して”」
アリアは目を閉じ、集中。
すると――
アリアの身体から、白い光がふわりと立ちのぼった。
リリア「アリア!? 魔力が……!」
グラン「いや、昨日より明らかに強い……!」
俺(ただの強化じゃねえ。何か別の……力の質が変わってる)
リオは静かに微笑む。
リオ「そう……それがあなた本来の力。
本来なら、誰にも触れられないほど“澄んだ魔力”」
アリア「すごい……身体が軽い……!」
その瞬間。
ビキッ……!
アリア「っ……!?」
光が一瞬、赤みを帯びた。
俺「アリア!? 今のなに!?」
アリア「わかんない……けど……胸が、痛……っ」
リオ「大丈夫。
“使い慣れていないだけ”ですから」
リリア「違うわ。魔力の流れがおかしい。
無理やり外部から引き出してる……!」
アリアの肩が震える。
アリア「リ、リオちゃん……これ……痛い……」
リオは手を離す。
リオ「今日は、ここまで。
少しずつ、慣れていけばいいんです」
アリアは胸を押さえて荒い息をしていた。
俺「おいアリア、立てるか!?」
アリア「だ、大丈夫……ちょっと、ふらってしただけ……」
リオ「アリアさんの魔力は繊細です。
雑に鍛えると壊れます。
だから……私がいないと危ない」
リリア「危なくしてるのあなたでしょうが!」
リオは返事しない。
ただ、アリアを見つめた。
リオ「また……会いに来ますね。
アリアさんが“開花”するまで」
そう言い残し、リオは風のように姿を消した。
残されたのは、胸を押さえて座り込むアリアだけ。
アリア「……なんだろ。
リオちゃん……怖くないのに……
胸の奥がざわざわする……」
俺とリリアは同時に言った。
「「アリア、絶対気をつけろ」」
アリアは不安そうに、でもどこか嬉しそうに小さくうなずいた。
夕焼けが沈む訓練場に、
アリアの魔力がまだ“ビキッ”と震える音が残っていた。
(第8話・終)
【エピローグ⑤】
夜。
森の奥、光の入らない廃神殿。
その中心で、白い仮面の少女――リオが膝をついていた。
黒い影「進捗を」
リオ「予定通りです。
アリア・フォルネの魔力は、すでに“境界”に触れかけています」
影「ほう……では、あの少女は“器”として適格か?」
リオ「ええ。
彼女ほど純度の高い魔力は、百年にひとり……
歪ませるには、あまりにも都合がいい」
影はゆらりと触手のように形を変え、愉悦を含んだ声で笑った。
影「ならば“次の段階”に移れ。
スライムも魔力を共有し始めている。
あれも……利用できる」
リオ「スライム……ですか。
彼は予想以上に厄介です。
アリアの感情を安定させてしまう」
影「ならば引き離せ。
アリアを孤独に沈めろ。
魔力が歪む瞬間……心が壊れる瞬間……
その“叫び”だけが、我らの鍵となる」
リオは静かに頭を垂れた。
リオ「了解しました。
アリアを……“開花”させます」
影「忘れるな。“開花”とは――」
影とリオの声が重なった。
「――破滅のことだ」
蝋燭が一斉に消える。
そこに残ったのは、ひとつの白い仮面だけ。
リオ「……アリア。
あなたの魔力は美しい。
だからこそ……壊してみたい」
仮面の裏で笑った気配が、
暗闇に溶けた。
(第8話エピローグ・終)




