第6話「アリア拉致未遂事件と、"怪しい教官"登場」
ギルドの朝は今日も騒がしい。
俺、アリア、リリアの三人は受付前で依頼を眺めていた。
アリア「今日は……これ! “安全なキノコ採取”!」
リリア「昨日のオークボアのあとに“安全”って言葉を信用できないんだけど」
俺「てかキノコ採取ばっかじゃない?」
アリア「初心者だから仕方ないよぉ……」
リリア「魔法の成功率上げるためにも練習が――」
アリア「そ、それ言わないで!!」
俺「まぁまぁ……」
そんなやり取りをしていた時だった。
???「――見つけた」
ぞわり。
背中を冷たいものが走った。
振り向くと、
黒いローブの男がギルドの奥からゆっくり近づいてきていた。
リリア「っ……!(昨日の霧の男!?)」
男は俺たちの目前で立ち止まり、
なぜかアリアだけをじっと見つめた。
男「魔力の揺らぎ……良い素材だ」
アリア「え……?」
リリア「“素材”? どういう意味よ」
男「お前には――“素質”がある」
俺「おい、ナンパにしては言い方がキモいぞ」
男「違う」
影が落ちるような低い声。
「君を、“魔導省特別研究班”にスカウトしに来た」
アリア「えっ!? す、すごい!?」
リリア「絶対嘘よ!?」
俺「アリア、これは罠の匂いしかしないぞ」
男は穏やかに笑った。
男「君の魔力は稀有だ。
今は小さな火花しか出せていないが、
“適切な導き”があれば――王都屈指の大魔法使いになれる」
アリア「わ、私が……?」
男「そうだ。君には“眠れる魔力”がある。
我々と来れば……本物になれる」
彼はアリアの手にそっと触れようとした。
リリア「触るな!!」
リリアが即座に短剣を抜き、男の腕を払う。
リリア「ギルド内で勝手なスカウトは禁止よ。
まして未成年の冒険者に。
ここは治外法権じゃないわ」
男「……やはり邪魔だな、“銀級候補”の娘よ」
リリア「どうして私の階級を……?」
男は笑った。
その笑みはひどく空虚で、温度がなかった。
「――予定変更だ」
次の瞬間。
空気が歪んだ。
アリア「え……?」
俺「アリア! 離れろ!!」
だが彼女の足に黒い霧が絡みつく。
アリア「きゃっ!? な、なにこれ!!?」
俺は飛び込む。
リリアも駆け出す。
男はアリアの肩に手をかけ――
男「来てもらうぞ、“特異点”」
リリア「アリア!!」
俺「やめろ!!」
その時、ギルド中に轟音が響いた。
バキィッ!!!
男の背中を、何かが蹴り飛ばしたのだ。
???「よくも、俺の教え子に……勝手にスカウトしてくれたな?」
床に降り立ったのは――
筋肉の塊みたいな青年。
肩にはギルドマークの刺青。
鋼のような瞳。
リリア「……ギルド教官、グランさん……!」
アリア「グラン、お兄ちゃん……!」
俺「兄ちゃんいたのかよ!?」
グラン「アリアに指一本触れさせねぇよ。
――ここは“ギルド本部の管轄”だ。
魔導省の犬が勝手に嗅ぎ回ってんじゃねぇ」
男の表情が歪む。
男「邪魔が入ったか。
だが……どのみち、お前たちは遅かれ早かれ“巻き込まれる”。」
リリア「はっきり言いなさいよ。誰に?」
男はアリアを見つめて言った。
「――“影律の魔導会”だ」
アリアは震えた。
アリア「なにそれ……私、狙われて……?」
男「君は“特異点”。
この世界を歪める可能性がある存在。
スライムと共鳴して、すでに“兆し”が出ている。
だから――」
グランが吠えるように怒鳴る。
「黙れ!!」
男「……愚かな連中だ」
黒い霧が立ち込め、男の姿は消えた。
残された静寂。
アリアの手は小さく震えていた。
俺「アリア、大丈夫か?」
アリア「わ、私……わたし……“特異点”って……?」
リリア「そんなの気にしなくていいわ。
あんな怪しい連中の言うこと、信じる必要ない」
アリア「でも……私……みんなに迷惑……かけちゃ……」
俺は、ふわりとアリアの頭に乗った。
俺「迷惑とか関係ねぇよ。
お前は仲間だから。
連れて行かれる前に俺が全部倒す」
アリア「スライム……」
リリア「……私も守るわよ。
アリアは泣き虫だけど……優しいし、私たちの魔法使いなんだから」
グラン「アリア。
お前は確かに才能ある。
だが、それをどう使うか決めるのは――お前自身だ」
アリアは涙を拭いた。
アリア「……うん。
怖いけど……二人が一緒なら……がんばれる」
俺たち三人は顔を見合わせた。
“影律の魔導会”――
ついに敵の名前が明かされた瞬間だった。
だが、これはまだ
始まりに過ぎない。
(第6話・終)
【エピローグ④】
薄暗い石造りの部屋。
蝋燭の炎が揺れ、壁に奇妙な紋章が刻まれている。
その中心にある大きな魔法陣の前で、
黒ローブの男がひざまずいていた。
影の声「――失敗、か」
男「ギルドの教官が介入を……読み違えました」
影の声は淡々としていた。
怒っている様子はない。
それが逆に、底知れない不気味さを漂わせる。
影「よい。
アリア・フォールト。
“特異点候補”としての価値は、確実に高まっている」
男「しかし……あのスライム。
すでにCランク相当の魔力量を――」
影「問題ない。
“繋がり”を得た特異点は、必ず歪む」
男「……繋がり、ですか」
影「心でも、魔力でも、依存でも……種類は問わぬ。
ただひとつ確かなのは――
世界は“二つ以上の特異点”を維持できない」
男は息を飲んだ。
影「特異個体スライムと、アリア。
どちらか一方だけが“残る”。」
影の声がわずかに笑みを帯びた。
「――いずれ、自然と“壊れ”始めるだろう」
その時、奥の扉が静かに開いた。
細身の少女が歩いてくる。
顔を覆う白い仮面。
淡い銀髪。
だがその歩みは、まるで生気がない操り人形のよう。
男「……“白面”を使うおつもりなのですか」
影「ええ。
彼女ならアリアに接触できる。
“友達づくりは得意”ですからね」
白面の少女が無機質に囁く。
白面「……標的……アリア……接近……誘導……破壊……」
影「行きなさい。
“特異点”を開花させるために」
白面の少女は、音もなく闇に消えた。
男はぞっとしたように背筋を伸ばした。
男「本気で動かれるのですね……」
影「世界が揺らぎ始めた。
歪みは広がる。
だから――」
魔法陣が黒く脈打つ。
影「“次の駒”を進める頃だ」
静かに、しかし確実に、
アリアたちの日常が“侵食”され始めていた。
(第6話エピローグ・終)




