第35話『影王第一形態/世界の否定』
【プロローグ】『影王、降臨』
――空が、落ちた。
砕けかけていた巨大魔法陣が、ついに“中心”から裂ける。
世界の上空に、底の見えない“闇”が開いた。
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◆全域・同時刻
大地が軋み、魔力の流れが逆転する。
人々
「なに……これ……?」
「空が……飲み込まれる……!」
蒼紅の紋様が、ユウトとアリアの胸で同時に強く輝いた。
ユウト
「……来る」
アリア
「……うん。“本体”だ」
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◆裂け目の向こう
闇の中から、“影”が、ゆっくりと形を成す。
それは人型でありながら、影そのものが王冠のように広がっていた。
影王
『――久しいな』
声は、世界全体に直接響く。
影王
『蒼の核。紅の核』
影王
『いや――今は“蒼紅”か』
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◆北方・蒼白の塔跡
ユウトは、空を睨み上げる。
ユウト
「……お前が、全部の元凶か」
影王
『元凶?』
影王
『違う。私は“結果”だ』
影王は、ゆっくりと腕を広げる。
影王
『世界が選び続けた“終わり”の形だ』
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◆西方・王都跡
アリアは、一歩、前に出る。
アリア
「それでも……私たちは、選ぶ」
影王
『ほう』
影王
『滅びを拒むか』
影王の視線が、アリアを射抜く。
影王
『ならば示せ』
影王
『蒼紅の力が、“運命”を超えられるか』
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◆宣告
影王の背後で、巨大な影が完全に実体化する。
影王
『残された時間は――』
影王
『12時間』
影王
『その間に、私を止められなければ』
影王
『世界は、終わる』
闇が、
さらに広がった。
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ユウト
「……アリア」
アリア
「……うん」
二人の声が、遠く離れていながら、重なる。
ユウト&アリア
「――止める」
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影王の影が、世界へと落ちる。
終局戦の幕が、静かに、しかし確実に上がった。
――闇が、落下した。
空の裂け目から零れ落ちた影は、地表に触れる前に“王”の姿へと定着する。
世界の重力が、歪む。
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◆影王・顕現
影王は、地に足をつけていない。
影そのものが、玉座のように彼を支えていた。
影王
『まず、示そう』
影王
『世界が、いかに脆いかを』
彼が指を鳴らす。
――パキン。
遠方の山脈が、“音もなく”崩れ落ちた。
リオ
「……っ!?
山が……消えた……」
アリア
「……消された……」
影王
『否定しただけだ』
影王
『存在を、な』
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◆迎撃
ユウトは、蒼紅の翼を展開する。
ユウト
「……否定?」
ユウト
「なら、俺は――肯定し続ける」
蒼紅の光が、一点に収束する。
ユウト
「蒼紅式・無詠唱連結魔法!!」
蒼と紅が交差し、巨大な光弾となって放たれる。
影王は、動かない。
光弾は――影に触れた瞬間、消滅した。
ユウト
「……!?」
影王
『魔法とは、世界のルールを借りる力』
影王
『ならば私は、そのルールを“否定”する』
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◆第一形態・展開
影王の影が、地面へと広がる。
次の瞬間、無数の“影の腕”が立ち上がった。
リオ
「来るぞ!!」
リオは剣を抜き、影の腕を斬り払う。
だが、斬った影は、すぐに再生する。
リオ
「……キリがねぇ!!」
アリア
「リオ、下がって!」
アリアの掌に、蒼紅の魔力が集まる。
アリア
「蒼紅結界・反転陣!」
結界が展開され、影の腕が弾かれる。
影王
『ほう……
否定を、弾いたか』
影王の声に、わずかな興味が滲む。
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◆世界の否定
影王は、アリアを見つめる。
影王
『では――“感情”を否定しよう』
影が、人々の足元から伸びる。
人々
「……あれ……?」
「……怖く……ない……?」
恐怖も、悲しみも、表情から消えていく。
アリア
「……感情を……消してる……」
影王
『争いは、感情から生まれる』
影王
『ならば感情なき世界こそ、完全だ』
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◆抵抗
ユウトの胸の紋様が、強く脈打つ。
ユウト
「……ふざけるな」
ユウト
「笑うことも、泣くことも……」
ユウト
「全部奪って、それを“完全”って呼ぶのかよ」
影王
『それは――進化だ』
ユウトは、影王へと突進する。
ユウト
「俺は……否定されるために生きてるんじゃない!!」
蒼紅の刃が、影王を貫いた――
ように、見えた。
影王の身体は、霧のように散る。
影王
『第一形態――確認、完了』
背後で、影が再構築される。
影王
『次は――少し、真面目に行こう』
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◆撤退命令
影王が、空へと浮上する。
影王
『蒼紅の器……想定以上だ』
影王
『だが、まだ“足りない”』
影王
『準備が整い次第――第二形態へ移行する』
影王の姿が、闇へと溶けていく。
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◆戦後
静寂。
壊滅は、免れた。
リオ
「……勝った、のか?」
ユウト
「……違う」
アリア
「……試された、だけ」
空の裂け目は、まだ、閉じていない。
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世界崩壊まで、残り10時間。
影王は、
まだ“本気”を出していなかった。
【エピローグ】『否定の残滓』
――戦場に、静かな余韻が残った。
影王の姿は消えたが、“否定”された痕跡だけが、世界に刻まれている。
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◆崩壊の余波
消えた山脈のあった場所は、ぽっかりと“何もない空間”になっていた。
岩も、土も、記憶すら、存在しない。
リオ
「……消えた、ってより……最初から無かったみたいだ……」
アリア
「……否定された存在は、戻らない……」
ユウトは、
その空白を見つめていた。
ユウト
「……なら」
ユウト
「これ以上、消させない」
蒼紅の紋様が、静かに脈動する。
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◆人々の異変
避難していた人々が、ゆっくりと動き始める。
だが――
女性
「……あれ?私、何で……ここに……?」
男性
「……怖い……って……感情……あったっけ……?」
アリア
「……完全じゃない……」
アリア
「感情を“否定された痕跡”が、残ってる……」
リオ
「取り戻せるのか?」
ユウト
「……時間は、かかる」
ユウト
「でも……
俺たちが生きてる限り」
ユウト
「否定は、上書きできる」
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◆蒼紅の代償
ユウトは、ふらりとよろめいた。
リオ
「おい!」
アリア
「ユウト!」
ユウト
「……平気……」
だが、
蒼紅の紋様が一瞬、黒ずんだ。
アリア
「……嘘」
アリア
「融合……安定してない……」
ユウト
「……分かってる」
ユウト
「俺の身体……器として、ギリギリだ」
リオ
「じゃあ、無茶すんなよ!」
ユウト
「……無茶しなきゃ、世界が持たない」
重い沈黙。
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◆影王の声
その時。
空の裂け目から、微かに“声”が落ちてきた。
影王
『……学習した』
影王
『蒼紅は、世界を書き換え得る』
影王
『だからこそ――完全に、消す』
空が、再び、暗くなる。
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◆決意
アリアは、ユウトの手を握る。
アリア
「……一人で、背負わないで」
ユウト
「……アリア」
アリア
「蒼紅は……二人の力」
リオ
「……俺もいる」
リオ
「影王に、世界を否定させない」
ユウトは、小さく笑った。
ユウト
「……ああ」
ユウト
「次は――否定を、否定する」
⸻
世界崩壊まで、残り9時間。
影王との最終局面が、確実に近づいていた。




