第32話『獣王バルガス戦/三位一体』
【プロローグ】『獣王決戦』
――南部山岳地帯。
砕けた岩と倒れた巨木が、
この地がすでに戦場であることを物語っていた。
霧の奥から、獣王バルガスの巨大な影がゆっくりと動く。
バルガス
『小さき命よ……貴様らの覚悟、試させてもらおう』
その一歩で、大地が沈む。
リオ
「……冗談抜きで化け物だ」
アリア
「正面からだと、押し潰される……!」
ユウト
「だから役割を分ける」
蒼核が光り、三人の間に戦術図が浮かぶ。
ユウト
「リオ。お前は機動力で撹乱。足を削れ」
リオ
「了解。死ななきゃいいんだろ?」
ユウト
「アリア。紅炎で装甲を溶かせ。防御を壊す」
アリア
「分かった。……全力でいく」
ユウト
「俺が、核を叩く」
バルガス
『策など不要。力こそが、全てだ』
獣王が前脚を振り上げる。
バルガス
『来い。その“力”を見せてみろ』
ユウト
「望むところだ」
蒼光剣が形成され、
紅炎がアリアの周囲を舞う。
リオ
「じゃあな、でっかいの」
三人は同時に踏み出した。
ユウト
「行くぞ!!」
赤黒い空の下、
獣王バルガスとの決戦が始まる。
――開戦。
獣王バルガスが地を蹴った瞬間、
山そのものが揺れた。
バルガス
『潰れろ』
巨大な前脚が振り下ろされ、
大気が圧縮される。
ユウト
「散開ッ!!」
三人は同時に跳ぶ。
次の瞬間、地面が粉砕され、
岩と土砂が爆発のように舞い上がった。
リオ
「当たったら即死だな……!」
リオは岩壁を蹴り、
獣王の背後へ回り込む。
リオ
「――《疾風連斬》!!」
高速の斬撃が脚部を襲う。
バルガス
『小虫が……』
しかし分厚い鱗に弾かれる。
リオ
「くそ、硬すぎだろ!!」
アリア
「なら――溶かす!」
アリアが両手を広げ、
紅炎が渦を巻く。
アリア
「《紅炎解放・熔鎧》!!」
灼熱の炎が獣王の脚を包み、
鱗が赤熱してひび割れる。
バルガス
『……ぬぅ』
ユウト
「今だ!!」
蒼核が唸り、
ユウトは一直線に突進する。
《無詠唱魔法》――《蒼穿》!!
蒼光の一閃が、
ひび割れた鱗を貫いた。
バルガス
『ぐぉおおおッ!!』
獣王が咆哮し、
尻尾を振り回す。
リオ
「ヤバッ――!」
リオは間一髪で跳び退るが、
衝撃波に吹き飛ばされる。
リオ
「がっ……!!」
ユウト
「リオ!」
アリア
「大丈夫!?」
リオ
「まだ……いける……!」
バルガス
『良い連携だ。
だが――まだ足りぬ』
獣王の全身が黒く輝き始める。
ユウト
「……第二形態か」
バルガス
『影王様より授かりし力――
《獣王解放》』
筋肉が膨張し、
背中から黒い魔力の角が生える。
アリア
「魔力が……倍増してる……!」
バルガス
『次で終わりだ』
獣王が跳躍。
山影が覆い被さる。
ユウト
「防御――!」
だが間に合わない。
――その瞬間。
アリア
「ユウト!!」
アリアが前に出る。
紅炎が、
盾のように展開される。
アリア
「《紅炎障壁・焔守》!!」
激突。
ドォォォン!!!
衝撃で、
アリアが吹き飛ばされる。
アリア
「……っ!」
ユウト
「アリアァ!!」
バルガス
『守るために前に出る……
嫌いではない』
ユウトの視界が赤く染まる。
ユウト
「……よくも」
蒼核が、
これまでにない速度で脈動する。
リオ
「ユウト……落ち着け……!」
ユウト
「――三人で、倒すって決めただろ」
ユウトは深く息を吸う。
ユウト
「リオ、アリア。
最後の一撃、合わせるぞ」
アリア(立ち上がり)
「……うん。
まだ、戦える」
リオ
「言われなくてもな」
三人が、一直線に並ぶ。
ユウト
「蒼核、最大出力――」
アリア
「紅炎、限界解放――」
リオ
「剣、全霊――」
三人
『――《トリニティ・ブレイク》!!!』
蒼光・紅炎・白刃が重なり、
巨大な光の槍となって放たれる。
バルガス
『な……に……!?』
光が、獣王の胸を貫いた。
バルガス
『影王……様……』
巨体が崩れ落ち、
山が静まり返る。
――南部支点、崩壊。
◇
静寂の中。
リオ
「……勝った、のか?」
ユウト
「ああ。
でも……」
蒼核が、再び不穏に脈打つ。
ユウト
「……嫌な予感がする」
アリア
「まだ……終わってない」
赤黒い空は、
依然として晴れない。
世界崩壊まで、残り35時間。
【エピローグ】『残る影』
――獣王バルガスの巨体が、
黒い砂となって風に散った。
山岳地帯に、静寂が戻る。
リオ
「……マジで、倒したんだな」
アリア
「うん……でも、胸がざわつく」
ユウト
「俺もだ」
蒼核が低く、不規則に脈動している。
ユウト
「影王の術式……
まだ、止まってない」
空を見上げると、
巨大な魔法陣は形を変えながら、
より禍々しく輝いていた。
リオ
「支点を二つ潰したのに、
勢いが増してる……?」
アリア
「そんな……!」
ユウト
「……影王が、出力を上げた」
その時――
ピシッ……
空に、細い亀裂が走る。
アリア
「……空が、割れてる……?」
リオ
「冗談だろ……」
裂け目の向こうから、
冷たい声が降ってくる。
???
『順調だ。
実に、想定通り』
ユウト
「……誰だ」
空の裂け目から、
黒衣の少女が降り立つ。
白い髪、無表情な瞳。
影のように、存在感が薄い。
黒衣の少女
『初めまして、蒼の転生者。
私は――《観測者》ノア』
アリア
「観測者……?」
ノア
『影王様に仕える者。
そして、この世界の“結末”を見届ける存在』
リオ
「嫌な肩書きだな」
ノアは淡々と続ける。
ノア
『あなたたちは、よくやっている。
だからこそ――』
ノア
『次は、“選択”を迫られる』
ユウト
「選択……?」
ノア
『残る支点は二つ。
だが、時間は足りない』
アリア
「……どういう意味?」
ノア
『どちらか一方を止めても、
もう一方は必ず起動する』
リオ
「……二択、かよ」
ノア
『救えるのは――
“世界”か、“誰か一人”』
沈黙。
ユウトの拳が、強く握られる。
ユウト
「……ふざけるな」
ノア
『選びなさい。
それが、物語の分岐点』
ノアの姿が、
風に溶けるように消える。
アリア
「……そんなの、選べない……」
リオ
「くそ……」
ユウト
「……選ばない」
二人がユウトを見る。
ユウト
「全部、救う。
それが俺の答えだ」
蒼核が、強く輝いた。
アリア
「……うん。
一緒に、抗おう」
リオ
「決まりだな」
赤黒い空の下――
運命は、最終局面へと動き出す。




