第26話『影王領域決戦 ― “光なき光”の雨』
【プロローグ】『影王領域 ― 奪われた空』
──落下する。
三人の身体は、影の渦へと飲み込まれた瞬間、
“上”も“下”も失った。
アリア
「キャッ──!? ユウト!!」
ユウト(スライム)
「うわわわわ!! 落ちてるのか浮かんでるのかわかんねぇ!!」
リオ
「気を抜くな!ここは影の王の“領域”だ!
物理法則なんて意味を成さない――!」
ズンッ……!!
足場のないはずの空間に、突然足が着く。
実体化した黒い大地が、三人を受け止めた。
アリア
「ここ……どこ……?」
視界が開ける。
空は完全な黒。
星も光もなく、ただ、巨大な“目”のような紋様がゆっくりと回転している。
地面は黒の岩盤がひび割れ、そこから蒸気のような影が立ち上る。
ユウト
「……この気配、前とは桁が違う……」
リオ
「あぁ。ここは影の王の“体内世界”……
**影王領域**だ」
ズ……ズズズ……
遠くから、地鳴りが響く。
それは地面ではなく、“世界そのもの”の脈動。
アリア
「あの脈……どこかで……感じたような……」
リオ
「アリア。お前の“欠片”が共鳴しているんだ。
影の王は……お前の覚醒を取り込み、再臨を果たそうとしている」
アリア
「……そんなの、絶対イヤ……!」
ユウト
「影の王……アリアに触れてみろ。
ぶっ潰すぞ」
蒼核が脈動し、周囲に青光が広がる。
影王領域が青く染まり、空気が震えた。
その瞬間──
空に浮かぶ巨大な影が“目”を開いた。
影の王
『……ようやく……来たか……蒼の器……』
アリア
「っ……!」
ユウト
「上だ!!」
空全体が裂け、黒い人影――いや、“巨大な影の王”が姿を現した。
無数の腕。
幾重もの瞳。
世界の形をもねじ曲げる気配。
影の王
『……アリア……近くへ来い……
キサマの覚醒は、我が“心臓”となる……』
アリア
「誰が行くもんですか……!!」
ユウト
「アリアに近づくな……!」
蒼光と影がぶつかり、空間がゆがむ。
影の王
『ならば……奪おう……力も、意志も……
キサマらの光……すべて我が闇に沈める……』
リオ
「ユウト、アリア!
ここから先は一瞬の隙が命取りだ!
気を引き締めろ!」
ユウト
「あぁ……!」
目の前に広がるのは、
“王”が支配する絶望の世界。
アリア
「ユウト……怖いけど……でも一緒なら……行ける」
ユウト
「行こう、アリア」
影の王の瞳が無数に開き、光なき光が降り注ぐ。
──影王領域、開戦。
◆影王領域・天頂空間
影の王の無数の瞳が開いた瞬間、
空一面から黒い光――“光なき光”が降りそそいだ。
ユウト(スライム)
「まずい!防げるか──
無詠唱!!」
蒼光の障壁が展開され、黒い雨を受け止める。
バチィィィィッ!!
まるで世界を裂くような衝撃音が響き、シールドが軋む。
アリア
「すごい……けど……こんなの長くは──!」
リオ
「ユウト!受け流せ!
影の王の攻撃は“面”じゃなく“線”で避けるんだ!」
ユウト
「言うのは簡単なんだよ……ッ!!」
黒光が針のように変化し、三人を狙い撃つ。
ユウト
「無詠唱!!」
蒼光が身体を包み、“半透明化”。
針がすり抜けるように通り抜ける。
アリア
「それ……初めて見る……!」
ユウト
「蒼核が勝手に……いや、今は使える!」
リオ
「その調子だ!
アリア、ユウトが空けた隙へ攻撃を──!」
アリア
「わかった!」
アリアの足元に黄金の魔法陣が展開される。
アリア
「光穿!!」
黄金の光線が一直線に影の王へと放たれた。
影の王
『……その光……
まさしく“欠片”よ……』
黒煙が凝集し、巨大な腕が光線を握りつぶす。
アリア
「えっ!? 効いてない……!?」
影の王
『少女よ……キサマの光はただの“素材”に過ぎぬ。
力を貸しているのは、そこの“蒼核”よ』
ユウト
「……俺……?」
影の王
『それは“核心”だ。
我を倒す唯一の光でもあるが……
我を再臨させる鍵でもある』
リオ
「……ユウト、お前の蒼核が揺らげば“王”は完全に復活する。
絶対に深層へ引きずられるな!」
ユウト
「そんな簡単に引きずられたくねぇよ!」
だが――
ドクン……
蒼核が脈動し、一瞬だけ視界がぶれた。
アリア
「ユウト!?」
ユウト
「だ、大丈夫……まだ意識はある……!」
影の王
『では、失わせてやろう……』
影の王の影が触手のように広がり、
“精神”を引き裂くような波動が放たれる。
アリア
「イヤ……来ないで……!」
リオ
「二人とも伏せろ!!」
ドオォォォォン!!
影波動が地形を歪ませ、地面が裂ける。
三人はギリギリで飛び退いた。
ユウト
「こんな化け物……どう倒すんだよ……!」
リオ
「倒すんじゃない。
核を破壊するんだ、影の王の“心臓部”を!」
アリア
「どこにあるの!?」
リオ
「それが問題だ……この領域では隠されている。
ほんの一瞬の“弱点の発光”を見逃すな!」
ユウト
「弱点探し……か。
やるしかねぇ!!」
蒼核が明滅し、蒼い火花が舞った。
影の王
『さあ……もっと足掻け……
それこそが我の糧となるのだから……』
アリア
「ユウト……怖い……けど……行こう、もう一歩!」
ユウト
「行くぞアリア。
ここを突破しないと前に進めない!」
リオ
「二人とも、俺が後衛から影の揺らぎを読み取る!
隙を見つけたら叫ぶ!」
三人は前へと駆け出す。
影の王の影が波のように押し寄せ、
蒼と金の光がそれを裂く。
世界が震える。
空が泣く。
そして、影王領域にて――
ついに“王”の本体への道が開かれようとしていた。
【エピローグ】『蒼核の裂け目』
影王領域――
崩れかけた影の大地の上で、ユウトの胸の奥が“チリッ”と痛んだ。
ドクン……
ドクン……ッ……
蒼核が、まるで何かを訴えるように脈打つ。
アリア
「ユウト……? 顔が……真っ青……」
ユウト
「……いや、大丈夫……のはず……」
言いながらも、痛みは徐々に強くなっていく。
リオ
「蒼核の反応が急激に上がってる……
さっきの影王の攻撃に共鳴したのかもしれない」
ユウト
「共鳴って……嫌な響きなんだよな……!」
次の瞬間。
バチィィィィッ!!
ユウトの胸が蒼く裂けるような光を放つ。
アリア
「ユウト!!?」
ユウト
「うあああああああッ……!?
熱い……でも、冷たい……!!」
地面に蒼いひび割れが走り、光が漏れ出す。
リオ
「これは……“蒼核の深層領域”への開門現象……!?
ユウト、お前の核が……内部から書き換えられようとしてる!」
アリア
「書き換え!? 影の王に……?」
リオ
「いや……違う。
これは――ユウト自身の“力の覚醒”の予兆だ」
アリア
「覚醒……!」
リオ
「だが同時に危険でもある。
核は覚醒のたびに“持ち主の精神”を揺らす。
今倒れたら意識を核に乗っ取られるかもしれない……!」
アリア
「そんなの……絶対ダメ!!」
アリアがユウトの手を掴む。
アリア
「ユウト、聞こえる? ここにいるよ。
私は……あなたを一人にしない!」
ユウト
「……アリア……?」
揺れかけていた視界が少しだけ戻る。
だが蒼核の痛みは増し、
ユウトの胸に**細い“蒼い亀裂”**が走った。
リオ
「……やばい、これは核暴走の初期症状だ。
このまま影王領域で暴れたら……
ユウト自身が“蒼の怪物”に変わる可能性がある!」
アリア
「そんなの……絶対にさせない!」
アリアはユウトの胸に手を当て、
黄金の光で蒼核を包み込む。
アリア
「お願い……戻って……!
あなたはユウトで、仲間で……
私の……っ」
ユウト
「……アリア……」
蒼光がゆっくり落ち着き、痛みが引いていく。
ひび割れも、少しだけ閉じた。
リオ
「……助かった。
今はまだギリギリ抑え込める」
ユウト
「はぁ……はぁ……
俺、そんな……バケモンみたいになるの……?」
リオ
「ならないように俺たちが支える。
だが覚えておけ。
蒼核は“究極の光”にも“究極の闇”にも変わる」
アリア
「大丈夫……ユウトはユウト。
どんな力でも、私がそばにいるから」
ユウト
「…………」
二人の手は自然と繋がれたままだった。
影王領域の空が、低く唸る。
影の王の声
『目覚めよ、核の持ち主……
汝の深淵はまだ、始まってすらおらん……』
三人の背筋に寒気が走る。
リオ
「……行くぞ。
“王の心臓部”は近い」
ユウト
「……ああ。
逃げねぇよ。俺は俺のままで、最後まで戦う」
アリア
「うん……一緒に」
蒼核に走った亀裂は――
これから訪れる激変の“序章”にすぎなかった。




