第2話「負け相手を探して三千里?〜スライム、初めての修行〜」
ぷるぷるぷる……。
俺は森の中をひたすら進んでいた。
目的はただひとつ。
「負けてくれそうな相手」を探すこと。
「……勝つより負けるほうが嬉しい人生って、俺どんな世界線にいるんだ?」
森の風がざわめく。
すると――
「きゃああああああああ!!」
聞き覚えのある声。
アリアだ。
木の陰から覗くと、アリアが必死に逃げ回っていた。
後ろからは――
デカいウサギ。
いや違う。
可愛い見た目してるくせに目がバチバチに殺意。
「ラビィィィィィッ!!(撲殺)」
「た、倒せない……近接は苦手なのにぃ!!」
アリアは完全にパニック状態。
……正直、助けたくはある。
でも勝つと強くならねぇんだよなぁ。
「……いや命には代えられないか」
俺はぷるぷると跳ねてアリアの前に出た。
「おい、下がれアリア!」
「ひゃっ!? しゃべるスライム!?
ていうか、なんで来るの!? 勝てないよこの子、強いよ!」
「大丈夫。俺は――」
ラビが俺を睨む。
「ウサァァアッ!!(撲殺)」
ぼふんッ!!!
棍棒みたいな足でぶん殴られ、俺は飛んだ。
木を5回くらいバウンドして停止した。
「……ぐふっ……!」
視界が暗くなる。
(あ、これ死んだやつだ)
――そして復活。
「はい復活っと」
体を確認すると……驚くほど強くなっていた。
Lv. : 5 → 15
HP:50 → 120
攻撃:20 → 45
防御:30 → 70
魔力 : 10 → 50
特有スキル : 【勇者の加護】 → 【大勇者】
「いや伸び方エグいって!!
俺、もう雑魚って名乗れないレベルじゃん!」
アリアが俺を見て固まった。
「え、え……えええ!?
一回死んだら……なんでそんな強く……?」
「俺の成長システム、負けるほど強くなるので」
「意味わからないけどとにかく強くなってるぅ!?」
ラビは再び突撃してきた。
「ラビィィィ!!」
「ごめん。今回は勝たせてもらうわ」
俺は跳ねてラビの顔面へ体当たり。
どごん!!
ラビは吹き飛んで気絶した。
アリアは呆然。
「ス、スライムが……上位モンスターを……?」
「いや俺もびっくりしてる。
勝っちゃうと伸びないから複雑だけど」
「贅沢すぎる悩み!!」
アリアは息を整えると、深々と頭を下げた。
「ありがとう……本当に助かった……」
「まあ、ついでだけどな。アリアが死ぬと寝覚め悪いし」
「つ、ついでって言うなぁぁ!」
ぷるぷる。
ちょっとだけ、アリアが笑った。
「でも……強くなるために、負け続けるって……変なスライムだね」
「変とか言うな。俺は“敗北者の未来を切り開く男”なんだよ」
「響きダサっ!!」
「言うな!」
二人の声が森に響いた。
その木の上で――
黒いフードの影が、スライムをじっと見つめていたことに、
誰も気づかなかった。
「……あれが例の“特異個体”か。
スライムのくせに、負けるたび強くなる……」
風が揺れ、影は静かに森の奥へ消えた。
「放っておけば……世界が動くな」
(第2話・終)
【エピローグ②】
夜の森。
月明かりが地面を淡く照らす。
その中心に、ぽつんとスライムの足跡……いや、ぷるぷる跡が続いていた。
ザッ……。
「……これが、問題の軌跡か」
黒ローブの男がその痕跡を指でなぞる。
ただのスライムの通った跡――
そのはずが、魔力の残渣が濃すぎる。
「魔力値……Cランク相当。
スライムの分際で、どんな進化をしたらこうなる?」
隣に控えるフードの少女が震える声で答えた。
「報告では……“一度死んだあと、急激に強くなった”と」
「死んだら強くなる……? ギャグ漫画みたいな能力だな」
男は笑った。
だが目は笑っていない。
「スライム程度なら放置でいいと思っていたが……
これは一度、直接見に行く必要があるな」
男は立ち上がり、森の奥を見つめる。
その視線の先には――
アリアと、そして復活したばかりのスライムが小さく見えた。
「特異個体スライム。
もし噂どおり無限に強くなる存在なら……」
風が森を切り裂く。
「――ギルドでも、王国でも、制御できなくなる」
月が雲に隠れた瞬間、二人の姿は夜に溶けて消えた。
静かに、しかし確実に――
世界はひとつ、危険な芽を見つけていた。
(2話エピローグ・終)




