第14話「影法師、本隊集結」
暗い塔に、金属がこすれるような不気味な音が広がる。
俺
「……来る」
床下から黒い霧が噴きだし、影がゆらゆらと形を成していく。
影の兵「……侵入者、確認……抹殺対象……スライム」
俺「名前で呼べよ!俺は“アオ”だ!」
影の兵「記録……不要……消去する」
俺が叫んだ直後、塔の壁を破壊するほどの衝撃音が響く。
ドガァァンッ!!
楼閣の外から跳び込んできたのは――
漆黒のローブに身を包んだ、巨大な影法師。
影将「よくぞ来たな、青い異物め。
我ら“影法師本隊”が直接処理してやる」
俺「本隊……!」
影将「白面の少女リオ様より伝達。
“アリア・ルミナスを傷つけるな。ただしスライムは破壊せよ”」
俺「……やっぱり狙いはアリアか」
影将の周囲に、十を超える影兵が現れる。
影将「今のアリア様は、リオ様の“器”として再構成中。
邪魔者は排除する」
俺「ふざけんな!アリアは道具じゃねぇ!!」
影将「叫んでいられるのも今のうちだ」
影兵が一斉に襲いかかってくる。
ガシャァァッ!!
俺は跳躍し、身体を分裂させ、影にまとわりつく。
俺「分裂・高速粘着!」
影兵「動……け……な……」
次々と固め、床に叩きつける。
だが影将は動じず、俺を冷たい目で見ていた。
影将「強くなったな、スライム。
だが――その力こそ、我らが欲する“核心”だ」
俺「……は?」
影将「お前の“青核”――
あれは、古代王族が失った《創世核》に酷似している。
我ら影法師は、それを求めている」
俺「……俺のコアを奪う気か」
影将「当然だ。
アリアの魔力と、お前のコアを融合させれば……」
影将が腕を広げると、塔の最上層の光景が映し出された。
そこには――
白い結界に包まれ、目を閉じたアリア。
傍らにはリオが立ち、淡々と呪式を描いている。
リオ『……もう少しで完成します。アリアさん』
アリア「……リオ、ちゃん……?」
俺「アリア!!」
影将「見えるか?
アリアはすぐに“完全な器”となる」
俺の体が震え、青い光がまた脈打つ。
俺「……お前ら、絶対に許さない」
影将「ならば示せ。器でないことを」
影将が腕を振るうと、空間全体が黒く染まる。
影将「影牢・降臨」
無数の影が俺を縛ろうと伸びてくる。
俺「こんなもん……!」
スライムの体が光り、影を溶かすように焼き切る。
影将「その光……やはり《創世核》の片鱗……!」
俺「片鱗だろうが何だろうが関係ねぇ!
俺はアリアを助ける!!」
影将「来い、スライム!」
黒い魔法陣が足元に広がり、影の触手が一斉に飛び出す。
俺は跳び、避け、壁を蹴り、天井を突き抜ける。
影将「逃がすと思うか!」
影兵が群れになって追いすがる。
俺「上だ……!アリアのところへ……!」
青い炎のような光が、俺の体を包む。
俺「――《蒼迅スライムフォーム》!!」
一気に加速し、塔を突き抜けて最上層へ。
蒼い尾を引くスライムが、夜空を切り裂く。
影将「……形態変化……?
あれは……未知の領域だ」
俺(心の声)
「待ってろアリア。
今度こそ……必ず助ける」
夜空の下、蒼い流星が塔の上階へ向かう。
アリアの元へ。
リオの元へ。
奪われたすべてを取り戻すために――。
(第14話・終)
【エピローグ⑩】
塔の最上層は、外の戦いが嘘のように静まり返っていた。
白い結界の中心で、アリアはゆっくり目を開ける。
アリア「……ここ……どこ……?」
視界はかすんで、焦点が合わない。
胸の奥が冷たく、呼吸だけがやけに重い。
そこへ――
白い仮面をつけた少女、リオが席に座ったまま笑みを浮かべる。
リオ「起きましたか、アリアさん。
もうすぐ“完成”しますよ」
アリア「……完成? わたしが……?」
リオは優しく、まるで子どもに話しかけるような声で続ける。
リオ「あなたは特別です。
この世界を変える光になれる。
だから……少しだけ痛むかもしれませんが……耐えてください。」
アリア「光……? わたしが……?」
ふと、頭の奥に 青い光の影 がちらつく。
アリア「(……誰か……呼んでる……
あの青い光……ホントは……知ってる……)」
胸に手を当てた瞬間、激痛が走った。
アリア「っ……! 痛……っ!!」
結界が脈動し、白い紋章が肌に浮かび上がる。
リオ「もう少し……もう少しで“あなた”と“あの青い核”が分離できます」
アリア「青い……核……?
あれ……スライムと……関係……」
リオの表情が少しだけ曇る。
仮面の下で、目が細められた。
リオ「……やはり、あなたは覚えているんですね。
あのスライムを」
アリア「……スライム……」
その名前を口にした瞬間。
不意に――
涙がぽろりと落ちた。
アリア「なんで……泣いてるの、わたし……?」
自分でも理由がわからない。
リオは結界に触れ、淡々と波紋を広げる。
リオ「大丈夫。
泣く理由も、その涙の意味も……すぐに“消えます”。」
アリア「……消える……?」
リオは囁くように、しかしはっきりと言った。
リオ「あなたの心が完全に“白”になれば、
もう何も迷わなくて済みます」
アリア「……白……?」
少し間をおいて、
アリア「わたし……本当に……白くなりたいの……?」
リオは黙ったままアリアに近づく。
その影が、アリアの手を優しく包む。
リオ「なるべきなんです。
あなたは“器”なのだから」
アリアの指が震える。
アリア「……器……
でも……
スライムは……」
リオの表情が一瞬、揺れた。
リオ「アリアさん。
その名前を言うと、心が痛むでしょう?」
アリア「……痛い……苦しい……のに……
でも……」
小さく、かすれた声。
アリア「……あの子の声……聞きたい……」
リオの瞳が、わずかに陰を帯びる。
リオ「……本当に厄介ですね。
“心”というものは」
その瞬間、塔全体が大きく揺れた。
ドォンッ――!!
リオ「……来ましたね。
スライムが上階へ突入しました」
アリア「……!」
アリアの胸が激しく脈打つ。
アリア「スライム……来てくれたの……?」
リオは立ち上がり、アリアを結界の中心へ押し戻す。
リオ「アリアさん。
あなたは希望を持たない方がいい。
次に会うとき――
“あなた”はもう、あなたじゃないのだから」
アリア「……いや……いや……!」
涙が溢れた瞬間。
白い結界が、強い光を放ってアリアを包み込む。
リオ「――完成まで、あと少しです」
外では、青い流星が階段を駆け上がってくる。
俺『アリアァァァァ!!』
その叫びは、まだアリアに届かない。
だが――
アリアの胸の奥で、小さな“青い光”だけが脈打っていた。
(第14話エピローグ・終)




