第10話「アリアを取り戻す。たとえスライムの命が尽きても…」
痛い。
硬い。
冷たい。
気がつくと、俺は瓦礫の中で潰れていた。
体の半分はひび割れ、色も薄い。
生きてるのが不思議なレベルだ。
俺「……アリア……どこだ……」
声を出すたび、体が軋む。
リリアとグランが駆け寄ってくる。
リリア「スライム!! 生きて……生きてるの……!?」
俺「……あぁ……まだ……死んでねぇ……」
グラン「アリアは……暴走したあと、白い光に包まれて……
そのまま、何者かに連れ去られた……!」
リリア「間違いない……あれは“影法師”の術式……!」
俺「……っ……やっぱり……リオ……」
体は限界なのに、胸の奥が燃える。
アリアが泣いていた。
怖がっていた。
手を伸ばしていた。
なのに――届かなかった。
俺「……ごめん、アリア……!」
地面を叩こうとして、体が崩れかける。
リリアが咄嗟に抱き上げた。
リリア「動いちゃダメ! 今は魔力がほとんど残ってないのよ!」
俺「……アリアが……いないのに……止まってられるか……っ!」
リリアの手が震える。
リリア「行かせたくないよ……
だって今のあなた、魔力ゼロどころかマイナスなのよ!?
また戦ったら――本当に……壊れちゃう……!」
俺「壊れてもいい!!」
リリア「っ……!」
俺「アリアが……ひとりで怖がってんだぞ!!
俺が助けなきゃ……誰が助けんだよ!!」
その瞬間――
グランが俺の前に立ち、静かに言った。
グラン「スライム。お前……男だな」
俺「スライムだけどな!!」
グラン「同じだ。覚悟があるなら、それでいい」
リリア「ちょ、ちょっとグラン!? 止めないの!?!」
グラン「止めたい。しかし――
“助けたいと思う気持ち”に嘘はつけん」
リリアは唇を噛んで、俺を抱えたまま震えた。
リリア「……ほんと……バカ……。
でも……アリアを助けたい気持ち、私も同じ」
俺「リリア……」
リリア「だから――やり方を教える。
スライムの魔力を“強制再起動”する方法」
グラン「なに!?」
リリア「ただし……成功率は3割。
失敗したら……スライムは消える」
俺「上等だ……やってくれ……!」
リリアは涙をこらえながら、魔法陣を展開した。
リリア「……スライム。
心から“守りたい”って思う存在を、強く強く思い浮かべて」
俺「……アリア……」
アリアの泣き顔。
アリアの笑顔。
アリアの“友達になろう”って言葉。
全部が胸に溢れる。
リリア「いくよ……“魔力核・再点火”!!」
魔法陣が光り、俺の体が焼けるように熱くなる。
俺「ぐ……ぁあああああ……!!」
体が割れ、結晶が砕け、魔力が逆流する。
リリア「耐えて!! ここで諦めたら……アリアが……!」
俺「アリア……!!
絶対助ける……!!
絶対……!!」
――ドクンッ!!
スライムの体の中心で、青い光が再点灯した。
リリア「成功……した……!?」
俺「……ハァ……ハァ……
よし……動ける……!」
Lv. : 15 → 999
HP:120 → ∞
攻撃:45 → ∞
防御:70 → ∞
魔力 : 50 → ∞
特有スキル : 【大勇者】 → 【"神"】
※進化可能条件が成立しました
進化先 : 神スライム
立ち上がった俺は、昨日よりも強い魔力が体の中を巡っているのを感じた。
“痛み”が“力”に変わっていた。
グラン「お前……進化したのか……?」
俺「そんなのどうでもいい。
アリアを取り戻す。
あの白面から――必ず」
リリアが涙を拭きながら笑った。
リリア「よし! 行こう!!
アリアを助けに!!」
グラン「俺も行く。あの少女の命は、お前に託した」
俺「任せろ。
アリアは……俺が救う」
夜空を切り裂くように、俺たちは走り出した。
スライムの身体から青い光がほとばしり、
その光が闇を切り裂いて進む。
アリア――
待ってろ。
必ず迎えに行く。
(第10話・終)
【エピローグ⑦】
……しん……。
耳が痛くなるほどの静寂の中で、
アリアはゆっくり目を開いた。
天井は白い。
壁も白い。
床さえ白い。
寒いほど無機質な部屋だった。
アリア「……ここ……どこ……?」
体は重く、魔力は乱れたまま。
胸がまだ痛む。
そのとき――
カツ、カツ、と靴音が響く。
アリア「だれ……?」
扉が開き、
白い仮面の少女が静かに入ってきた。
リオ「目が覚めましたか、アリアさん」
アリア「リオ、ちゃん……?
ここ……どこ……なの……?」
リオは何も答えず、ベッドのそばに腰を下ろした。
リオ「怖かったでしょう。
痛かったでしょう。
もう大丈夫。
あなたはここで休めばいいんです」
アリア「っ……!
連れてきたの……リオちゃん?
どうして……?」
リオは仮面を傾け、優しく微笑む。
リオ「だって……あなたは“壊れそうだった”から」
その声は優しいのに、
なぜか背筋が凍る。
アリア「帰りたい……
みんなのところに……スライム……どこ……?」
リオの声が少しだけ低くなった。
リオ「スライムは……あなたを守れませんでしたよ?」
アリア「……っ……!」
リオ「あなたを苦しませただけです。
暴走を止められなかった。
助けられなかった。
あなたを泣かせただけ」
アリアは首を振る。
アリア「ちがう……!
スライムは……助けようとして――」
リオ「してません」
ピタリと遮られた。
リオ「本当に助けたいなら、あなたを危険に近づけません。
あなたの心が壊れる前に止めるはず。
彼は……なにもできなかった」
アリア「……スライムは……悪くない……」
リオはアリアの手を優しく包む。
リオ「アリアさん。
あなたは優しすぎるのです。
だから……傷つくんです」
アリアの瞳から一滴、涙が落ちた。
リオ「安心してください。
ここでは誰もあなたを傷つけません。
私だけが、あなたの力になれますから」
アリア「……かえりたい……
みんなの……ところに……」
リオ「帰れませんよ。
アリアさんはもう――“境界”に触れたのですから」
アリア「……境界……?」
リオは立ち上がり、背を向けた。
リオ「あなたの心は、とても美しい。
だから……もっと見たい。
もっと深く……
もっと、壊れる瞬間まで」
アリア「リオちゃん……やめて……その言い方……怖いよ……!」
リオは扉の前で振り返る。
白い仮面の奥から、
耳元に直接触れるような声で囁いた。
リオ「大丈夫。
あなたを壊すのは……“私だけ”です」
扉が閉まる。
ガチャン――。
鍵の音がやけに大きく響いた。
アリアは白い部屋にひとり取り残され、
肩を震わせたまま呟いた。
アリア「スライム……助けて……
こわいよ……」
その声は、誰にも届かなかった。
(第10話エピローグ・終)




