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台湾事変   作者: 独楽犬
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八.電波ジャック

 嘉手納飛行場から1機の航空機が飛び立った。その機体の外見は傑作戦術輸送機であるC-130に似ていたが、機体のあちこちにアンテナが設置された。

<リヴェット・ライダー、こちらスワロー中隊。援護する>

「スワローリーダー、こちらリヴェット・ライダー。援護を感謝する」

 コールサイン・リヴェット・ライダーの機長は女性であった。彼女、リンジー・オコーネル大尉の所属は在日アメリカ空軍である第5空軍ではなくペンシルバニア州兵空軍となっていた。しかし州兵だからと言って軽く扱うことはできない。彼女はアメリカ空軍である任務を実行する唯一の特殊部隊の一員なのだから。

 EC-130Eコマンド・ソロII心理作戦用電子戦機は台湾を目指して南へと飛んだ。




 行政院長とアフマド中佐と大隊本部通信チーム、そして台湾駐屯地に居た台湾軍から選出した護衛チームを乗せた車列が総統府に滑り込んだ。幸い大規模な戦闘はまだ始まっていなかった。ホフマン大尉が中隊長たちを代表して向かえた。

「状況はどうなっている?」

 先頭のハンヴィーから飛び降りたアフマドはホフマンに尋ねた。

「先ほど中国軍の小規模なチームを撃退しました。おそらく偵察チームでしょう。まもなく本番が始まります」

 そこまで報告するとホフマンは後ろのハンヴィーから行政院長が降りるのが見えた。

「あれは何ですか?中佐。一体どうなっているんですか!」

「なんでもないさ。ただ自分の職場を訪れて職務をしようとしているだけだ。それより中隊長たちを集めてくれ。最終ブリーフィングだ」

 アフマド中佐が中隊長たちを訪問し、防御作戦の詰めをし始めた。同じ頃、行政院長は護衛チームと通信チームを引き連れて執務室に入った。

「では早速、はじめよう」

 行政院長がそう指示すると、通信チームが持ち込んだ様々な通信道具を組み立て始めた。その中にはテレビ会議用のカメラが含まれていた。

「しまったなぁ。メイクをしていない」

 行政院長はその光景を見て呟いた。政治家はテレビに出演する時には見栄えをよくするためにメイクをするものだ。

「大丈夫です。このカメラはテレビ局のカメラほど上等じゃありませんから、誤魔化せますよ」

 通信チームの指揮官が冗談を言い返した。

「よし。準備ができました」




 EC-130Eコマンド・ソロIIは台北沖上空で旋回していた。護衛のF-15飛行隊が周囲を守っているが中国軍が攻撃を仕掛けてくる気配はない。

<リヴェット・ライダー、こちらマリーン36。応答せよ>

 コールサインは海兵遠征隊司令部のものであった。リンジーはすぐに応答した。

「ハロー、こちらリヴェット・ライダー。準備はよろしくて?」

<万端だ。これよりデータリンクを接続します>

 総統府の通信チームから衛星回線経由でデータリンクが接続されると、貨物室内に設けられた電子戦室のモニターに映像が映された。どこかの部屋の執務机に座る台湾行政院長の姿が映った。

 コクピットのオコーネル機長は貨物室の作業チームに機内電話で命じた。

「作戦開始よ」

「了解。ショータイムの始まりだ」

 オペレーターが貨物室に載せられた様々な通信機器を操作すると、機体のあちこちに備えられたアンテナから様々な周波数の電波が発信された。




 執務室の面々は行政院長を筆頭に壁にはめ込まれたテレビを注視していた。テレビでは相変わらず傀儡政府のプロパガンダ放送を繰り返している。今、台湾の人々はこれを見て将来を不安がっているはずである。

 すると突然、画面が乱れて映像が変わった。それは今、彼らがいる執務室、机に座る行政院長の姿であった。

「成功です。始めてください」

 通信チーム指揮官が言うと、行政院長が頷きカメラに向かって話し始めた。

「国民の皆さん、大変な事態が起こりました」




 上空のEC-130Eコマンド・ソロII、コールサイン・リヴェット・ライダーには地上の通信チーム指揮官から作戦成功の報告が届いた。

「電波ジャック成功よ。放送を続けて」

 オコーネルは貨物室のオペレーターたちにすぐに知らせた。

 コマンド・ソロIIはアメリカ空軍の誇る“空飛ぶ放送局”である。その任務は敵国の放送網をジャックし、プロパガンダ放送を流して相手国民の戦意を挫く事にある。勿論、今回のように占領下の友好国民を励ますような目的でも使われる。




<私は現在、連絡のとれている閣僚と協議をして、所在不明の総統閣下が保護されるまでの間、行政院院長である私が臨時総統として中華民国政府を統率することを決断しました。現在、国軍とアメリカ軍が敵軍と戦っています>

「これはどうなっているんだ!」

 中国主席が国家安全部長を怒鳴りつけた。中南海の執務室に置かれているテレビにはコマンド・ソロIIが流しているプロパガンダ放送が映っていた。中国の通信傍受チームが捉えたものである。

「分かりません。しかし、台湾の叛乱分子が我々を陥れるために…」

「テレビ局は我が軍が確保している」

 国防部長が国家安全部長の言葉を遮った。

「台湾軍に通常のテレビ放送を妨害し、これだけの電子戦を行なえる能力はない。沖縄にはアメリカ軍の心理戦部隊が居た筈だ。これはアメリカの仕業だ」

 全ての証拠がそれを示していた。アメリカは台湾を見捨てない。しかし主席と国家安全部長は心中ではそれを認めつつあったが、しかし口から出る言葉は楽観論ばかりであった。

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