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台湾事変   作者: 独楽犬
7/11

七.台湾政府の復活

 アフマドは総統府の防備を整えるように命じると、すぐに台湾軍駐屯地に戻った。

 台湾軍駐屯地では台湾行政院長がアメリカ軍の通信網を通じて大統領と会談をしていた。

<それで台北政府の閣僚たちの動静は判明したのですか?>

 行政院長は首を横に振った。

「いえ。総統以下何人かの要人はどうやら中共軍によって逮捕されたようです。その後、どうなったのかは分かりません。しかし地方に出払っていた閣僚たちとは何とか連絡がとれました」

<それで決断していただけますかな>

「連絡のとれた閣僚たちと会談をして方針を固めました。私が臨時総統として総統閣下の身柄を保護するまで中華民国政府を掌握します」

<分かりました。我々、アメリカ合衆国は貴方の政府を支持することを確約します>

 台湾政府が再び動きだそうとしたが、既にそれを打ち砕くべく中国が動き出していた。

「大変だ!テレビを見ろ!」

 台湾軍将校の1人が突然、叫んだ。行政院長が慌てて近くのテレビに近寄ると、見たことも無い男がテレビで演説をしていた。

<現在、台北は極めて混乱した状況にあります。私はこの問題を大陸と協同で解決しなければならないと考え、本土に緊急の部隊派遣を要請しました>

 行政院長とアフマドは互いの目を見合わせた。

「どうやらアイツが中共の選んだ指導者らしいですね」

 行政院長が指摘した。テレビで緊急事態への対処と中国との連帯を訴える人物こそ中国の傀儡政府の指導者なのだ。傀儡政府は中国に支援を要請して、中国はそれを口実に正規軍を台湾に上陸させる。中国の台湾侵攻作戦は最終段階に突入しつつあった。

<なにがあったのだ?>

 国防長官の声が通信機から聞こえてきた。アフマドは慌てて通信機のところへ駆け寄った。

「中国の傀儡政府指導者と思われる人間がテレビで演説を行なっていました。中国本土に支援を要請したと言っています」

 アフマドの報告に国防長官が唸るのが聞こえた。

<今、NSAがテレビ放映を傍受したと言っている。これからこちらでも確認する>

「しかし長官、傀儡政府が支援を要請したということは中国正規軍の介入は時間の問題です。我が軍はどうなっているのですか?」

<増援派遣の準備を進めているが、到着にはまだ時間がかかるそうだ。聞いたところによれば投入できるのは戦闘機とコマンド・ソロとかいう特殊機だけでな。なんとかそちらの兵力で事態を掌握できないのかね?>

 大統領が尋ねると、行政院長とアフマドは台湾軍基地司令官に目を向けた。海兵隊だけでは無理なのは分かりきったことである。台湾軍が行動しなくてはならない。

「アメリカ軍の協力を得て通信系統は回復しつつありますが、最高司令部の方がまだダウンした状態です。指揮系統を早急に立て直しませんと」

 それを聞いた行政院長は瞬時に決断して躊躇することなく命じた。

「ならば君が司令部となれ。君に台北周辺の軍部隊全ての指揮権を与える。ただちに台北の中共軍を討伐するのだ」

 その命令に基地司令官は目を丸くした。

「私がですか?」

「その通りだ。臨時総統として私は軍を統率する立場にある。その私が命じたのだ」

 基地司令官は頷いて敬礼をすると、台北周辺の駐屯地に繋がる通信機に向かって走っていった。それを見届けた行政院長はアフマドと向き合った。

「中佐。貴方はこれからどうするのかな?」

「私はこれから総統府に戻って防御体制を見てくるつもりです。敵の傀儡政府が動き始めた以上、台北の象徴である総統府を敵に渡すわけにはいきませんから、直接指揮を執るつもりです」

 それを聞いた行政院長はまるで自然なことのように切り出した。

「実は私も総統府に同行したいと思っています」

 突然の申し出にアフマドは顔を顰めた。

「なにを言っているんですか!総統府には敵が迫っているんですよ。危険です。もしものことがあったら!」

「しかし、貴方が言ったように中共の傀儡政府が動き出したのですから、私が総統府で踏ん張らないと我が政府の正当性を示せない」

 アフマドは悩んだ。確かに行政院長の主張には一理ある。中国軍とその傀儡政府はテレビ局を占拠して放送を通じて台湾を支配しようとしている。こちらもそれに対抗するために何らかの行動をしなくてはならない。台湾政府が総統府を手中に収めているというのは良いアピールになるであろう。しかし危険な上に、放送局が中共軍に占拠されている状態ではアピールする手段などない。分の悪い話だ。

「やはり認められません。貴方が総統府に居たところで…」

 アフマドはそこまで言いかけたが、あることを思い出して止まった。それから少し考えてから、アメリカ本土に繋がる通信機に飛びついた。

「まだ通信は繋がっているのか?」

「はい」

 通信兵がそう言って受話器をさし出すと、アフマドは奪い取るように手に取った。

「国防長官。さきほどコマンド・ソロが使えるとおっしゃっていましたよね」

<うむ。確かにそう言ったが>

「1つ提案があります」

 アフマドが考えを説明すると、ホワイトハウスの首脳達はそれを気に入ったようであった。

<よろしい。直ちに手筈を整える。アフマド中佐。総統府を守るのだぞ>

「お任せください。大統領」

 台湾事変は最終段階に突入しようとしていた。

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