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台湾事変   作者: 独楽犬
6/11

六.博愛特区の奪還

 大統領はホワイトハウスに篭り台湾有事の推移を見守っていた。

「それで台北の情勢はどうなんだ?」

 国防長官が説明した。

「台湾の行政院長を保護しました。まもなく台北と回線が繋がりますので、直接お話になられては」

「そうだな。中国の方はどうなっている?」

「上陸部隊を乗せた中国艦隊が出撃しました。4時間で台湾に到達します」

「台湾の本格的制圧に動き出したようです」

 国防長官の説明に国家安全保障担当補佐官が付け加えた。

「つまり、その連中が上陸したらアウトなんだな」

 大統領の言葉に国防長官と補佐官は無言で頷いた。



 北京の中南海でも中国の首脳部が台湾での作戦の進行状況について説明を受けていた。

「なんだと!アメリカ軍が介入しただと!」

 主席が説明を聞いて声を荒げた。

「アメリカは介入しない筈じゃなかったのか?」

 主席は国家安全部長を睨みつけた。アメリカ不介入を説いていた国家安全部長は黙り込んでなにも言おうとしなかった。

「だから状況を見るべきだと言ったのだ」

 対照的に国防部長は得意げであった。

「それでどのような対応をする?アメリカと全面戦争をするつもりではありまいな?」

 国防部長の言葉にその場に居た全員が頷いた。

「うむ。当然だ」

 主席が言った。

「それでアメリカ軍はどの程度展開しているのかな?」

「まだ詳しい事は分からないが、前線に現れたのは海兵隊らしい。沖縄から飛び込んできたのだよ」

 国防部長が説明した。それから閣僚達は押し黙り考え込んだ。難しい問題であった。アメリカとの全面戦争を避ける最も簡単な方法は作戦を中止し、部隊を撤退させることだ。それは分かりきったことだ。だが誰もそれを口に出さない。面子を最も重視する彼らにとって簡単にできることではない。

 すると国家安全部長が呟いた。

「そもそもアメリカ軍が介入したというのは確実なのかな?戦場では情報の混乱が起こるのはよくあることではないか」

 黙り込んでいた閣僚達がそれを聞いて一斉に口を切り始めた。

「その通りだ。まだアメリカが介入していると決まったわけではあるまい」

「これは中華人民共和国建国から60年以上に渡る悲願が達成するか否かの重要な問題だ。早急に結論を出すべきではない」

 次々と楽観論を唱える閣僚達に国防部長は反論した。

「アメリカ軍が介入したとすれば早急に対応を決めなくては間に合わなくなる。全面戦争に突入してからでは遅いのだ」

 しかし主席も楽観論に傾いていた。

「ともかく現地の詳細はまだ明らかになっていないのだ。まず情報収集が大事ではないかな?」

 主席が提案すると閣僚達はみな頷いて賛成した。誰にとってもありがたい決断であった。それがただの先送りに過ぎないという事を理解していてもだ。



 台北では壮絶な銃撃戦が行なわれようとしていた。

 アフマドは一部の通信部隊とその護衛を残して海兵遠征隊のほぼ全力を博愛特区にぶつけた。中国側も増援部隊を派遣していたので、どちらが先に着くか時間との競争であった。そして勝ったのは海兵隊であった。

 最初に博愛特区に到着した小隊は親中隊と合流し、引き続き一撃離脱攻撃を繰り返した。それまでの攻撃は威力偵察を目的にしたものであったが、それからは海兵隊主力の行動を欺瞞するための牽制攻撃であった。つまり海兵隊の攻撃方向を悟らせずに、主力を以って弱点を一気に突破するのである。

 牽制中隊の攻撃で中国の守備兵たちが博愛特区の南に集まったところに海兵隊主力が北側から突入した。完全に虚を突かれた中国軍守備隊はほぼ同数の海兵隊に完全に圧倒された。

「いいぞ!一気に攻め落とせ!」

 ホフマン大尉は自らの中隊の先頭に立って突入した。相手の中国兵は完全に混乱しているようであった。

 ホフマン中隊は左右をビルに挟まれた重慶南路を南下していた。やがて左右のビルが切れて開けた場所に出た。右には灰色の石造りの古い建物があった。それは日本統治時代から続く台湾銀行である。そしてさらに進むと、台湾銀行の隣に赤茶色の煉瓦造りの巨大な建物が見えた。

「総統府だ!」

 かつて日本統治時代に台湾を支配した総督の行政府として建てられ、戦後に台湾に進駐した国民政府軍に接収されて総統府となったその建物は、今でも台北を象徴するランドマークの1つである貴重な文化遺産として国定遺産にも指定されている。

「突入するぞ!」

 ホフマン大尉を中心に海兵隊主力は一気に台北の中枢部に突撃していった。



 対する中国軍は虚を突かれたこともあり、崩壊しつつあった。中国軍部隊指揮官は海兵隊が一撃離脱戦法を繰り返したこともあって相手の規模を掴めず、主力が突入してきた時点で自分達が自らの部隊よりも遥かに強大な敵を相手にしているように思い込んでしまったのである。指揮官は戦意喪失し、中国軍は完全に主導権を奪われた。末端の兵士にはまだまだ戦意のある者が幾らでもいたが、軍隊とは組織となって初めて威力を発揮するもので、指揮中枢が崩壊した時点でもはや結果は確定してしまっていた。

 海兵隊が戦場を支配し、中国兵はちりじりになって散った。中国軍部隊は完全に崩壊し、一部の兵士が戦いを続けていたが、海兵隊の前にすぐに沈黙させられた。



 アフマド中佐は総統府確保の報を聞き、すぐに現地に向かった。総統府前にハンヴィーが出迎えると、指揮官達がアフマドを出迎えた。

 総統府を見るよ兵士達が掲げられた五星紅旗を引き摺り下ろして、代わりに青天白日満地紅旗と星条旗が掲揚されていて、掲揚されると周りの兵士達が一斉に拍手をした。

「やりましたよ。中佐」

 ホフマン大尉が中隊長達を代表して言った。

「だが戦いはまだ終わっていないぞ。すぐに増援がやってくる」

 アフマドが指摘した。事実、中国軍の増援部隊がすぐそこまで迫っていた。

 昨夜の午後11時過ぎにJAXA宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機<はやぶさ>が7年ぶりに60億キロに及ぶ小惑星イトカワとの往復を終えて帰還しました。<はやぶさ>そのものは大気圏で燃えつきてしまいましたが、イトカワの試料が入っているかもしれないカプセルは無事に大気圏を突破し、オーストラリアで回収されたそうです。成果があれば良いのですが。

 ともかく、<はやぶさ>の帰還は日本の宇宙開発史に金字塔を打ち立てたのは間違いありません。特に<はやぶさ>に搭載されたイオンエンジンは今後の各国の衛星に装備されることが見込まれるので、<はやぶさ>の実績を持つ日本企業にとっても世界市場に食い込むチャンスになるらしいです。<はやぶさ>が日本にもたらすものは大変大きなものになりそうです。

 というわけで、<はやぶさ>帰還おめでとうございます。そして独楽犬はJAXAを応援しています。


 また、時事通信によりますと今日、TK-Xが正式に“10式戦車”として富士学校で公開されたそうです。いよいよ正式採用に至ったわけです。写真を見ますと迷彩塗装が施されており、初登場の時とは違う趣がありました。全国に恙無く配備されることを願います。

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