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台湾事変   作者: 独楽犬
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四.海兵隊出動

 補佐官の提案に対して大統領は具体的な方法を尋ねた。それに答えたのは国防長官であった。

「ただちにアメリカ軍の地上部隊を派遣するのです。現在、台湾軍は指揮系統が破壊され麻痺状態にあります。それに代わって我々が中国の特殊部隊に対処するとともに、台湾の指揮系統を回復するのを助けるのです。沖縄には海兵隊が居て、それに備えた訓練をしております」

「兵力は?」

「第31海兵遠征隊です。1個海兵大隊を基幹とする諸兵科連合部隊です。兵力は1200ほどです」

 それを聞いた大統領は顔を顰めた。

「たったそれだけの兵力で事態を収拾しようというのかね?」

 国防長官が首を振った。

「いいえ。彼らだけでは不可能です。しかし、彼らは時間を稼ぎ、台湾軍の建て直しに協力することができます。台湾軍が回復すれば、彼らの豊富な兵力で十分に対応が可能です。しかし今は麻痺状態にありできません。回復のためには海兵隊の投入が必要です」

 さらに安全保障補佐官が別の観点から派兵の意義を述べた。

「それに海兵隊の派遣は我々の意思を中国に示すとともに、中国軍には作戦の更なる進行を躊躇させることができます」

 大統領はその意味がよく分からなかった。

「どういうことだね?」

「地上部隊がそこにいれば、中国が台湾を制圧しようとすれば海兵隊と戦わなくてはならなくなります。我々はその事実を以って台湾への介入を既成事実化できますし、中国は我がアメリカとの全面戦争を覚悟しなくてはならない」

 そして中国もアメリカとの全面戦争を恐れていると考えられている。大統領をはじめ主要な閣僚はその説明に頷いたが、納得しかねぬ者もいた。

「なるほど」

 それは商務長官であった。

「貴方の意見はわかる。しかし、介入の意思を示すなら空爆や巡航ミサイル攻撃で十分なのではないかね?」

 補佐官は首を横に振った。

「いいえ。海軍や空軍の攻撃は懲罰に過ぎません。しかし地上戦力の衝突は戦争です。意味がまるで違います」

 空軍や海軍は機動力が高いので簡単に投入も撤退もできるという利点があるが、この場合にはそれが仇となる。簡単に撤退できる兵力の投入は、不退転の意思としては弱すぎるのだ。まだアメリカが空爆や巡航ミサイル攻撃を戦争の手段としてだけではなく懲罰的な使用を多用していることがこれを強める。テロリストの拠点や協定違反の軍事行動をした基地に爆弾を落すだけで、それ以上の行動はしないという過去を見れば、アメリカ空海軍が攻撃してきたからと言って全面戦争の前触れだとは捉えないだろう。

 それを聞いて大統領は覚悟を決めた。

「よろしい。では直ちに実行したまえ」




 海兵隊に大統領命令が下った。それと同時にアメリカ陸海空軍に対しても中国との全面戦争を想定して準備を開始した。

 第7艦隊に空母打撃群が増強され、複数の原子力空母が台湾海峡に向かって動き出した。アメリカ本土から空軍や陸軍の使う装備を載せた事前集積船が極東に向けて移動を開始した。しかし彼らはあくまで準備をしているだけで、実戦に投入可能なのは海兵隊だけであった。




 沖縄のキャンプ・シュワブでは第31海兵遠征隊が中国の台湾侵攻の第一報を受け取ってからすぐに準備を進めていた。部隊の中核となる海兵大隊の指揮官であるアフマド中佐は完全武装の兵士達をトラックに乗せると、普天間基地に向けて出発した。

 深夜の国道329号線を南下し、1時間かけて50キロほどの道程を進んで普天間基地に到着した。普天間基地には第一海兵航空団に所属する20機のCH-53Eスーパースタリオン大型へリコプターが待機していた。この西側最大の大型ヘリコプターの航続距離は最大で2000キロに達し、沖縄からでも直接台北に乗り込むことができるのだ。しかも1機で50人の兵士を運ぶことができるこの機体は、20機揃えば大隊を丸ごと運ぶ事も出来た。

 アフマド中佐は兵士たちをヘリコプターのキャビンに押し込むと、自らも乗り込んだ。コクピットの予備座席にアフマドが座るとヘリが一斉に動き始めた。前進をはじめて滑走路上に踊り出たのだ。

 ヘリコプターが滑走すると奇怪に聞こえるかもしれないが、しかし垂直離着陸機がそうであるようにヘリコプターも滑走を併用することで揚力をより高めて効率よく上昇することができる。ヘリコプター群は一列になって滑走路を進み、先頭の機体から次々と大空に舞い上がった。

<イングリッド編隊へ、こちらスワロー中隊。護衛につく>

 無線機から管制塔とは違う相手から入電が入った。嘉手納に駐留する空軍の戦闘機部隊である。彼らはヘリコプター部隊を護衛するためにやってきたのだ。中国軍に積極的な攻撃を仕掛ける許可は得ていなかったが、攻撃を受ければただちに反撃する手筈であった。

 アフマドは護衛のF-15戦闘機の姿を見つけようとしたが、闇夜の中にジェットの炎がかすかに見えるだけであった。

 かくして台湾有事へのアメリカの介入が始まったのである。

 というわけで例によって台湾事変を連続投稿。4話目です。日韓大戦もようやく筆が進んでいますが、次の投稿には暫く時間が必要です。

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