一一.終結
E-3Cは中国艦隊が針路を変えるのと同時に、中国空軍のスホイ27も基地への帰投コースに変針したのを捉えた。
「どうやら終わったようだな」
E-3Cに搭乗する指揮官が呟いた。海兵隊の迅速な介入がアメリカは決して台湾を見捨てないということを中国に知らしめたのである。
この後、事態は迅速に終息に向かった。
指揮系統が回復して、その能力を万全に発揮できるようになった台湾軍は海兵隊に代わって中国軍コマンド部隊掃討を進めて台北の治安を回復し、傀儡政府の面々は姿を消した。
翌日には最初の空母群である<ジョージ・ワシントン>空母打撃群が台湾海峡に入り、中国海軍の動きを完全に封じ込めた。さらにアメリカ空軍の攻撃部隊も到来して、中国がさらなる作戦を進めるならば、その中枢部に迅速な打撃を与えられる態勢を整えた。事前集積船が台湾に入港してアメリカ陸軍部隊が台湾の地を踏むことになれば、もはや中国の侵攻作戦が成功することはありえないことであろう。
中国も台湾制圧を諦めて沈静化を図った。特殊部隊の台湾への侵攻を一部過激分子の独断行動であると発表し、さらに中国海軍の異常な行動は警戒のための行動であると説明した。中国政府は責任者を処罰することを世界に宣言し、指導部は総辞職することになった。
中国が世界経済に対して大きな影響力を持つ国連常任理事国の大国であることもあって厳しい制裁は行なわれなかったが、各国の激しい批判に晒されることになった。
しかし本当に深刻なのは中国国内事情であった。台湾解放という中華人民共和国建国以来の悲願達成に失敗して国の面子を失墜させた政府へと中国国民の怒りは集中した。それに経済格差などのそれまでの不満も重なり、中国国内は内戦直前のような緊迫した状況が続く事になったのである。
それを見過ごせないのは周辺国である。もし中国政府が崩壊するようなことになれば、アジアの治安は急速に悪化して難民の流出や国際犯罪の多発、さらに中国軍の保有する核兵器の流出という最悪の事態にもなりかねない。周辺国は協調して中国国内情勢の推移を見守る事になった。
結局、この戦争は誰もが傷つき、誰にとっても益の無いものとなった。だが中国とアメリカの全面戦争という最悪の事態を防げたのは間違いない。それを成し遂げたのは、迅速に介入してアメリカのメッセージを伝えた海兵隊の他にありはしない。
台湾事変 終
というわけで、なんとか終わらせました。<鷲は舞い降りた>に引き続き、連載作品を書き終えることができました。読者の皆様、ご愛読していただき本当にありがとうございます。