第2話 入学準備
迷子の少女を助けるーー
それだけの出来事なのに、僕の世界は少しだけ広がった気がした。
今日は、僕にとって特別な日でもある。 魔法学校へ入学できる年齢になった、記念すべき誕生日だ。
魔力測定で自分の力を確認し、これから始まる新しい 日々への期待に胸を膨らませる。
でも、ただ力を測るだけの日常ではない。
小さな勇気、ちょっとした好奇心、そして人との出会いーー
そんな些細な出来事が、俺にとっては大きな冒険にな る。
「あ、ありがとうございます」
少女は怯えながらも、俺の手を握った。その手は少し震えている。俺に対しても不信感があるのだろう。
「大丈夫ですよ。貴方のお名前を聞かせて貰えますか?」
少女が立ち上がったあと、俺も柔らかい笑みを浮かべる。少女も少し安心したのか、硬かった表情が自然になったように思えた。
「スフィア……です」
「スフィアさん、私はシャーロット・エルヴィスです。お母さんかお父さんはいないのですか?」
やはり、可憐な少女だ。綺麗な黒髪のボブで、透き通った赤い瞳。怯えているはずなのに、何故か不思議と目を奪われた。
「いるけど、はぐれちゃった」
「そうですか。一緒に探す……とは言え、私もまだ五歳ですもんね。うちに来させるわけにもいかないし、よし」
目をそっと閉じ、神経を集中させるーー。
(魔力は誰しも持っている。それを感じ取ることも可能だ。ならば、魔力の流れを読み取り、何かを探すような人を探せば……見つけた)
「こっちに来てください、スフィアさん」
「えっ、私たちだけで?」
「はい。任せてください」
「……」
スフィアも俺も年はさほど変わらない。スフィアも五歳ならば、エルヴィス家の紋章のことも知らないだろう。しかし、大人であれば知っている。
「ちょっと通りますね」
そう言って群衆をかきわけ、ひとりの女性の元へ辿り着く。
「ママ!」
「スフィア! どこ行ってたの! 心配したじゃない!」
「この人が助けてくれたの」
「えっ? エルヴィス様……?」
「はい、スフィアさんが迷子だったので」
「ありがとうございます。このご恩は忘れません!」
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
「ばいばい!」
「ばいばい」
ぺこぺこする母親を傍らに、手を振るスフィア。純粋さに羨ましく思いつつ、手をふりかえす。エルヴィス家として、人として当然のことをしたまでだ。
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「ただいま帰りました……」
重厚な扉を押し上げ、こそっと入る。なにせ、こんな時間に五歳児が出歩くものではない。
「シャルお嬢様、どこへ行かれていたのですか?」
「アガサ……内緒にしてください」
深々と頭を下げて、ちらっと顔を見つめる。‘もう’と言いたげな表情だが、父には告げ口しないだろう。
「……わかりました。お風呂の準備が出来ているので、入りますよ」
「はい」
「それと、今日は私もご一緒します。聞くことがたくさんありますからね」
「……はい」
この家の風呂は無駄に豪華だ。前世の俺の家とは雲泥の差である。
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「入りますよ、シャルお嬢様」
「どうぞ」
「タオルを巻いているのですね。私もまくべきでしたか?」
「いえ、シャルお嬢様は不要です。シャルお嬢様に私の裸を見せるわけにはいきませんので」
「気にしなくて良いのに。無礼講ですよ」
「無礼講? 難しい言葉を知っているのですね」
(しまった! 前世の口癖が出てしまった)
「え、ええ。小説で覚えました」
「そうですか。そういうことでしたら、失礼します」
「ところでシャルお嬢様。今日は町に何を?」
「ええと、散歩に出たら迷子の子がいたので、その子を助けました」
「そうですか。しかし、聡明かつ強力な魔法使いであるとはいえ、五歳児がひとりで夜道を出歩いてはなりません。いいですね?」
「はい、わかりました」
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今日は良い目覚めだ。なぜなら今日は、誕生日である。つまり、魔法学校へ入学できる歳だ。試験対策はぬかりなく、実技試験も余裕で通るだろう。
「今日も頑張るか」
そう言って立ち上がり、背伸びする。社畜時代から積み上げた早寝早起きは、今でも習慣になっている。
寝巻きから着替えていると、扉がノックされる。アガサだろう。恐らく入学準備。実は入学準備のためにしなければならないことがひとつ残っている。それは、魔力測定だ。六歳の誕生日の日に魔力量を測り、それを書類に記入しなければならない。
「シャルお嬢様。おはようございます。失礼します」
「おはようございます、アガサ。魔力測定ですか?」
「ええ、器具を持ってきたのでよろしくお願いします」
自宅で行う魔力測定は簡略化されたもので、常識外な数値が出なければだいたい測れる。入学後はしっかりしたもので測るらしいが、これは不正防止らしい。
魔力測定では、水晶に手を添えるだけで終了だ。
「流石に緊張します」
「ええ、しかし入学後にも行うものですから、気楽に臨みましょう。300を超えれば充分、5,000に到達すれば万々歳です」
(もし、低い数値だったらどうしよう、父上は許してくださるのだろうか)
もし、数値が低ければ面接すらさせて貰えない可能性がある。それはごめんだ。エルヴィス家としての矜恃がそれは許さない。
「ではいきます、アガサ」
「はい、頑張って」
少し震えた手でそっと水晶に添える。だんだんと水晶は赤く光っていき、やがて数字が映し出される。
400
数字を見て、ほっと息をつく。300を超えていれば充分良いだろう。
(この器具じゃ俺の最大値の魔力量を測れないのだろう、きっと)
アガサも控えめに微笑む。
「順調ですね。これだと入学試験も大丈夫でしょう」
小さく拳を握る。簡易測定で出せる限界の数値だとしても、自分の魔力の底力を自覚できた。
本番では、さらに力を見せることができる 一一心の中で、自然と期待が膨らむ。
――しかし。
(俺の本気は、きっとこんなもんじゃない)
見て下さりありがとうございます。
今回は迷子少女の救出と、風呂場シーン、魔力測定を盛り込んでみました。まだまだ拙い文章ですが、読んでいただけると嬉しいです!コメントや感想もぜひよろしくお願いします!