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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

残酷なる「姫と七人の小人の話」

「てめーら、さっさとミルク持ってこいよ。リンゴパイもつけて」

白雪姫は小人の一人「鼻曲がり」をハイヒールの先で小突きながらきつく当たりました。

「すいません。まだ焼けてなくて……」

「はあ?あんた、馬鹿にしてるの?あんたたちが無許可で鉱石の採掘してるの知ってるんだからね。あんたたち、毎日いそいそと掘りに行くあの場所が他にばれたら喰いっぱぐれるんでしょう?」「へえ、へえ、仰るとおりで」

鼻曲がりはキッチンに戻りました。

「姫様、相変わらずだな」

「不貞腐れ」が鼻曲がりを慰めました。

「いやあ、本当に。どうやって育てたらあんなのが出来上がるのか」

「全くだな。しかし、姫様を逃がしてやった従者がやって来て、採掘許可を出していない、城の人間に知らされて牢屋に入れられたくなければ姫様を丁重に扱えと言ってきた時は、何て女をかくまっちまったんだと思ったね」

鼻曲がりがうんうんと頷きました。

「本当に儚げで礼儀正しい子だと思ったから、親切にしてやったのに、突然態度を変えて。本当怖い子だわ」

「お釜」が話に割り込みます。

「いやあ、本当、本当」

白雪姫のがなり声が聞こえました。

「あんたたち、聞こえてるんだけど!」

「へえ、すいませーん」

小人たち三人は白雪姫の方に向かって謝りました。

夜になると、小人たちは恐怖に怯えながら浅い眠りに就きます。つんつんと長い木の枝の先で「出目金」の瞼が突かれました。

「おはよ~」目を開けると、残酷な笑みを浮かべた白雪姫が薄闇の中にしゃがんでいました。自分たちのベッドが全て、白雪姫のデラックスベッド用として奪われていた小人たちは、床の上に粗末な麻の布を敷いて、要らない服を縫い合わせた毛布にくるまって寝ていました。

「今日はわちしの番ですか……」

諦めのいい出目金は俯いて呟きます。「そうだよ~。分かってるじゃん」

白雪姫は枝で小人の頬を執拗に突きました。

「もうちょっと怯えてくれた方が面白いのにな~。そうだ、もう一人起こそうっと」白雪姫は「吹き出物」を起こしました。「出番だよ~」白雪姫は立ち上がりました。

「二人ともロープを持って外に出なさい」

「はい」

二人は悲しい顔をして従いました。

「枝の下に立って」小人たち二人はそれぞれロープを一本ずつ片手に持って木の下に立ちました。二人は月明かりに背後から照らされました。

「はい。じゃあ、お互いを縛って。腕もまとめてグルグル巻きにね」

今日はどういう遊びだろう。姫様は自分たちには意味の分からないサディスチックな遊びを考案する。先に縛られた吹き出物は、出目金にロープの端を持たせながら、その周りをぐるぐる回って何とか出目金を縛りました。

「はい。じゃあ、出目金はロープを引きちぎって、ちぎったロープで吹き出物の首に輪をかけて。身体を縛っているロープの先はかなり余るようにしておいてね。じゃないと後で困るから」

出目金は、吹き出物を縛っている太いロープを力一杯引きちぎりました。手の皮が破けて血が出ました。

「じゃあ、出目金は口と、腕を縛られた手を使って、吹き出物の身体をしばったロープを枝に引っ掛けて、そのままロープの先を引き下ろして吹き出物を枝に吊るしてやって」

出目金は手を使って吹き出物を縛るロープの先を枝の上から向こうに放り投げようとしましたができませんでした。仕方なく、ロープを口にくわえて、首を大きく斜めに振り上げてロープを枝に引っ掛けようとしました。なかなかうまくいかず、十回目でやっと成功しました。口が乾いて、口蓋にロープのくず糸が張りついていました。その間白雪姫は「いいよ、いいよ~。頑張って」と言いながらにやにや笑っていました。そして枝の上を通ったロープを口に咥えて、足を上げて体重をかけました。吹き出物の足が浮いて枝に吊り下がりました。「いいよ、いいよ~。そのまま。放したら折檻するからね」姫様の目にきらりと意地悪い白い光が宿りました。「う~」出目金はロープを咥えたまま半泣きで承諾を示して唸りました。姫様は吹き出物の正面に回りました。「あはは。首吊ってるみたい。吹き出物、自分の仲間に殺されちゃった。これって裏切りなんじゃない?」吹き出物の脇から出目金の方に顔を出しました。「ねえ。あんた殺しちゃったよ。仲間を」そして、吹き出物に向き直って言いました。「吹き出物、おしっこを出目金に引っ掛けてやって。死体は死ぬ前に身体の中身を全部排出しちゃうの」「姫様、今はおしっこは出ないです。さっき便所に行ったばかりで」姫様の顔色が変わりました。「ああ!なんだってぇ!」吹き出物は怯えて身体を細かく震わせました。「何で、私の許可なく排泄してるんだ!」「へえ、へえ、すみません」

「あ、そうだ」姫様は急に何か思いついたように怒りを忘れました。「お水持ってくるよ。二リットルくらい飲んでね。態勢はそのままで待ってて」そして吹き出物は二リットルの水を無理やり飲まされて、パンツとズボンを引き下ろされてそこらに投げ捨てられ、泣きながら出目金の顔に尿をかけさせられました。「はーい。今日はここまで。また今度も楽しみにしててね」サディストの白雪姫は二人をその場に放置して家に戻って、デラックスベッドに入って、気分良く満ち足りて眠りに就きました。虐待を受けた小人二人はお互いの肩をさすって、屈辱と我が身の情けなさにしくしく泣きながら慰め合って帰りました。


「おい、本当にやるのか?」

「目やに」が「助平」に尋ねました。「やるとも。もうあんなお姫様は我慢ならねえ」

「だけども、おらたちが作業できなくなったら……」鼻曲がりが心配を示しました。

「いんや、女王に姫がいる場所を教えれば、褒美の代わりに仕事は続けさせてくれる。もしかしたら採掘許可もくれるかもしんねえ」

「そうだ。そうだ」

「やるぞ。やるぞ」

小人たちが言っているのは、姫をとっくに殺してしまったと思っている女王に姫が生きて自分たちの家にいることを教えようという話です。もちろん女王にそのことを教えれば姫はきっと殺されるということは承知しています。

 小人たちは雷鳴とどろく厚い雲に覆われた灰色の日に、城に出かけていきました。その時白雪姫はロッキングチェアーに座って、小人の一人に買いにいかせたマカロンに舌鼓を打っていました。

「何しに来た?小汚い小人め」門番が槍の先を出目金に向けました。

「へえ。実は死んだことになっている白雪姫が実は生きて、私どもの家に居座って甚だ困っていることを教えに参ったのです」

「何?いい加減なことを言うな」「しかし、本当のことで」門番は小間使いの女を呼びつけました。「姫が生きていると申す者が門にいると女王に伝えにいけ」

「かしこまりました」小間使いはすぐに戻ってきました。「謁見の間に通せとのことです」

 小人たちは女王の前に出ました。「跪いて話せよ」女王は仰りました。

「へえ。へえ。白雪姫様は従者によって逃がされ、今は我らの家にいます」

「はあ」女王は手の平を額に当ててため息をついた。

「あれは本当に我儘で異常な子で、自分より可愛い子がいると聞けば、連れてこさせて裸にむいて鞭打ったり……、私の側近の従者たちを次々と骨抜きにして都合よく利用したり……目に余るどころじゃなかった」小人たちは納得したようにうんうん頷きました。

「すぐに私があの子を処分します。ただ、既に病で死んだというふうに国民には伝えてあるので、遺体が城で誰かの目についたりしたらすごく困るの。だから、私が手にかけるけれど、場所は提供してもらえないかしら、あなた方の家を」

「へえ。へえ。結構です。白雪姫から解放されるなら安いもんです」

「わかったわ。血で部屋を汚したりすることはないから安心して。本当は禁じられていることなのだけれど、私は趣味で魔法をやっていて、自分の顔かたちや姿を変えることも、毒りんごを作ることもできるから円滑にことを運べるわ」

「へえ。へえ。頼もしいことで。ほんに、ほんに」小人たちは喜びました。

 そして数日後、小人たちが仕事から帰ると、白雪姫が玄関先に、右手の中に齧った痕のあるりんごを持ったまま倒れていました。お釜は喜びが隠せず跳ね上りました。玄関口の傍に壁にもたれた老婆がいました。出目金は老婆の顔を覗き込んで言いました。「果て……一応お聞きしますがどちらさんで……?」ローブの下から抜け目のない視線を輝かせて老婆は答えました。

「女王よ。白雪姫は始末したわ。私の変化はもうすぐ解けてしまうから、死体の処理を任せられないかしら?骨も残らないくらい燃やしてやりたいけれど、さすがに可哀そうだから土葬でいいわ。あなたたちなら死体くらいに大きいものが入っているずだ袋を脇に置いて庭仕事をしていたとしても大して不審に見えないから、姫を土に埋めるのにも都合がいいでしょう。あと、よろしく」さっぱりした顔をして女王は、老婆になった身体でゆっくりと不自由そうに歩きながらその場を去っていきました。

「あー、良かった、良かった。さっぱりした」吹き出物は白雪姫の遺体を何度も跨いでふざけました。「しかし、女王様、仕事を一個残していってくれたな」

「さっさと、片付けよう」

「言い忘れたわ」突然元の姿になった女王が窓から顔を出しました。「へっ?いつの間にまた戻ってきたんで」「走って戻って来たのよ。あなたたち浮かれすぎて気づかないのだから。銀貨100ターレルをあなたたちに取らせます。それと、あなたたちの事を調べさせると、無許可で採掘をしているようなのがわかったけれど、目をつぶります」「ありがとうごぜえます」女王は再び去っていきました。

「さて、これどうする?」不貞腐れが遺体を指差しました。「なんか、ただ埋葬しても溜飲が下がりきらないな」「ゴミ捨て場から拾った肉保管用のガラスケースがあったよな」「そうそう。それに入れて置け。そんで思い出すたびに蹴りつけたり小便かけてやったりしてやれ」「ああ、そりゃあいい。お姫様は死んだ後に屈辱っていうものを知るといいんだ」

 そして、白雪姫の死体は生臭い肉の臭いが染みついたガラスケースに入れられました。不思議なことに白雪姫の死体は腐敗していかず、小人たちは時々ガラスケースの蓋を開けては、小便を引っ掛けたり、唾を吐きかけたりしていました。毒りんごでもたらされる死は他と違うのかもしれません。死んだ後、消滅するという救いすら与えられないということでしょうか。

 白雪姫が死んで数か月後。ある知らせが鼻曲がりの耳に入りました。隣国の王子様が、亡くなった白雪姫に似た女性がいたら結婚したい、そういう女がいたら教えてほしい、その女が本当に白雪姫に似ていたら、紹介した者に銀貨1500ターレルを褒美として取らす、というのです。おそらく王子は会食などの機会に白雪姫にたぶらかされて、すっかりぞっこんになってしまい、そして姫が死んだと分かった後も、彼女を追い求めるほどになってしまっていたのでしょう。「あんなおっそろしい女のどこがよかったんだか」鼻曲がりはこの話を仲間に話しました。「隣国の王子か」「姫様も、最低な女だが大したもんだな。腐っても『姫』か」「なんでか腐らないけれどな」「おい、この動かなくなった姫様を見せれば銀貨もらえるんじゃないか?」「そうだな。1500もらえれば、おらたち全員一生遊んで暮らせるな」「そうなりゃ、こんな汗臭い上に、重労働な鉱石掘りの仕事なんかしなくていい」「でも死んでるぞ」「しかも女王の耳に入ったら、絶対にお怒りを買うぞ」「それは悲惨だ。全員首を吊らされる。おらたちなんか死んでも新聞にすら載りやしない」「そうだなあ」小人たちは天井を仰ぎました。

「明後日、隣国の王子はここの森で狩りをするそうだ」鼻曲がりが言いました。「よくそんなことまで聞きつけたな」「飯屋の女が王子の現地妻だったんだ」「なんで分かった?」「女が自分で自慢していた」「明後日、おらたち七人で森の中を探して王子か王子の側近や勢子に、死んだ姫様はいかがかと聞いてみようか。こんな町はずれの辺鄙な森、めったに人は来ないんだから、誰かいたら王子かそのお付きに決まっている」「女王のことはどうする?」

「だからよ、先にお金を貰ってしまえばいいんだ。そんでガラスケースに入った姫の所に案内したら、後はほっといて、金持って森越え、山越え、街に出たら馬車を雇って、遠~くへ逃げちまえばいい。王子の国は北だから、反対の南にでも行こうか。南の島で悠々自適のご機嫌な暮らしをするんだ」「女王の耳に入る前にとんずらしちまうってわけだな」小人たちは俯いたり、お互いの顔を見たりして、実際に行動に移すか否か悩みましたが、白雪姫の居所を女王に知らせて銀貨が手に入ったという経験が、彼らの背中を押しました。つまりこういうことに味をしめていたのです。彼らは心を決めて、南の島に持っていく荷造りをしながら、やがてきっと手に入ると信じている銀貨1500ターレル思い浮かべて舌なめずりをしたり、南の島での優雅な暮らしを想像して涎を垂らしたりしました。

 その日から見て二日後、小人たちは一時間後に家に戻るとお互い約束して、暖かくうららかな日の光が枝の間からあちこちに差し込む森の中を王子の一行を探しました。小人たち七人は全員が王子か王子の側近や侍従を捕まえました。そしてお釜が王子と金額の相談をしているところに、側近たちが他の小人たちを王子の所に案内してすぐにやってきました。「僕は姫が死んでいるからって銀貨をけちるつもりはないんだ。なんてったって僕はこの近辺の国では一番金持ちな国の王子だもの。しかし、姫の死体が腐っていないというお前の話が本当だったらの場合だ。あの可愛らしい小憎らしい娘が動くことができずに、僕に屍姦されるってのも悪くない。でも腐った死体じゃさすがにそれも無理だろう。生理的に。なあ、当然だよなあ?」王子は勢子に言いました。「はい。仰るとおりで」「本当のことです。王子様」お釜が、王子の酷薄で我儘そうでいながら整った美形と、それに付随する「王子」というステイタスが後光のように見えて、うっとりしながら申し上げました。「ふ~ん。しかし信じられないなあ。先に死体を見せてもらわないと、銀貨はあげられないよ」「そうですかぁ」お釜はがっくりとうなだれました。そこで出目金が言いました。「王子様、姫はこの近くの我らの小屋で永遠の眠りに就いています。もし姫の死体が腐っていないことを確認したら、その場ですぐに銀貨を頂くことはできるでしょうか?」

「ああ、それなら構わないよ」「それでしたら我々はすぐにでも王子様をご案内いたします。しかしどうかその場で、確認が取れたら即座に銀貨1500ターレルを頂けますか?」

「くどいな。わかったって」「ありがとうございます。こちらです」出目金は頭を下げて、下賤な自分が出来る精いっぱいの優雅な立ち居振る舞いの歩き方をして(不自然で歪で気味悪く見えたが)、王子たちを自分たちの家へ案内しました。出目金は、そう言えば、白雪姫が死んでから掃除もしていないし、台所の洗い場には汚れた食器が山ほど積み重なっていて、蠅がぶんぶん周りを飛んでいるのを思い出しました。

「王子様、中は散らかっていて、とてもあなた様のような高貴な方に入って頂ける場所ではありませんので、こちらでこの差し込む光の中で凛々しい立ち姿で皆にご威光を示しながら待っていてもらえませんか?そう、そうです。王子さまはなんとハンサムなことか。では少々お待ちください。ほら、吹き出物も一緒に来て手伝ってくれ」出目金は吹き出物と一緒に家の中に入っていきました。ふたりは白雪姫が中に横たわったガラスケースを引きずりながら玄関の外に運んできました。中に入った白雪姫は小人が吐きかけた唾も引っ掛けた小便もあらかじめきれいにふき取ってありました。白雪姫はただ瞳を閉じて横たわっていると、信じられないような意地の悪さはなりをひそめて、本当に美しくて無垢な天使に見えました。不貞腐れは、この女は中身と外身が間違えて作られて生まれてきたんだ、と本気で思いました。

「ああ、美しい白雪姫」王子は苦しそうに顔を歪めて、ガラスケースの横に跪いてケースの蓋を開けました。「あの……、腐ってないでしょう?」「ああ、全く腐っていない。元の美しい姫のままだ」王子は泣きながら姫の死体を起こして抱きかかえました。「あの、お金を……」出目金は遠慮がちに言った。「今、取り込み中だ!」王子は出目金に向かって怒鳴り付けました。「まあ、待っていてやろう。取り込み中らしい」不貞腐れが出目金に囁きました。「王子はちょっと演技性障害かも知れん」

「どうして僕に断りもなく死んだんだ!」王子は怒りに任せて姫の胸をこぶしで叩きました。すると、死んでいた姫の口からぷっとりんごの欠片が吐き出されました。「げほっ。げほっ。あー苦しい」姫は起き上がってきょろきょろと周りを眺め渡して状況を把握しようとしましたが、あまり明確にはわかりませんでした。しかし、女王に殺されかけたのだろうということは察しがつきました。

「姫!」王子は姫を抱きしめました。

「あなたが生きていて良かった。私は少し前に晩餐会でご一緒したホラン王子です。あなたに求婚に参りました。ああ、それにしてもあなたは本当に愛らしい。気分屋のじゃじゃ馬、容易に捕まえられないかごから逃げ出したカナリア、いたずらっ子な猫のような貴方。雪のように白い肌。黒檀のように黒々とした髪。血のように赤く官能的な唇。どれをとってもあなたは最高だ」

「よく言われるわ」白雪姫は微笑んで王子の頬をつんと突きました。王子は何かそれが快かったのか、ふにゃふにゃと笑って、赤い顔をしました。しかし、次の瞬間白雪姫は、顔を覆って泣き出しました。

「王子様。ごめんなさい。私あなたの求婚を受けられるような自分ではないの。私、ずっとこの小人たちに端女のように扱われてきましたの。掃除、飯炊き、洗濯、風呂の用意をして、彼らの身体も洗ってやって、足も拭いてやって……」

「何!なんとひどい!」王子は小人たちを睨みました。

「でも、何の関係もない私をおいてくれているのだからと、私、必死に尽くしましたの。慣れない仕事は本当に大変で……」さめざめと泣き真似をする姫からは「しくしく」という擬態語が聞こえてきそうな感じがしました。

「それなのに……それなのに、みんなして私をいじめてくるんです」

「何?例えば、例えばどうやって?」王子は姫に聞きました。「食事がまずいと言っては、皿ごとスープを投げつけられたり、這いつくばって床を拭いている時にお尻を蹴飛ばされたり、それにとても下品で卑猥な言葉を毎日浴びせられました。それにそれだけじゃなくて、実際に身体も汚されてしまいました。私、汚れてしまった自分が恥ずかしくて、恥ずかしくて……」いかにも薄幸そうな儚げな俯いた顔をする姫の口からは次々と嘘が飛び出してきます。それも非常に流暢にすらすらと。小人たちは皆、青い顔をしてその様を眺めて、茫然と姫の言葉を聞いていました。

「私、清い身体ではありませんの。ごめんなさい」姫は王子の腕の中で泣き崩れました。

「おまえらぁ!」王子は姫をガラスケースに突き放すようにして、姫から手を放して小人たちに怒った顔を見せました。

「この高貴で美しいお方を家にかくまえるなんて名誉を得ておきながら、それにそんな無礼と無遠慮で応えるとは。万死に値する」王子は舞台俳優のように豊かな身振り手振りと表情で言いました。小人は半ばしらけましたが、相手は一国の王子という自分たちよりもはるかに大きな権力を持つお方だったので「万死」と言われて恐怖しました。頭を打った白雪姫は起き上がって、立膝をついてせせら笑って小人たちを見ていました。

「この小さな卑怯者どもをひっ捕らえろ!」王子の合図で側近たちが小人らを捕えました。そして小人たちは縄でつながれ、隣国までの道を歩かされました。

「王子様ぁ。もう疲れました。その白雪姫は大嘘つきです。どうか帰らせてください」小人の一人が物申すと全員が鞭で打たれました。そして泣きながら歩き切った小人たちは隣国の城の牢に閉じ込められ、王様の審判を待つ身になりましたが、看守らの話によると、王は白雪姫を大層気に入っており、息子の嫁に来るなら小人らは首吊りでも斬首でも姫の望む刑を下してやろうと言っていたそうです。昨日白雪姫が牢の檻の前に来ました。「一人だけ首を吊らせて、後は私のおもちゃになってもらうわ。でも気に入らないことをしたり、私のご機嫌を取るのを怠けたりしたら、生き残った人も容赦なく殺させることにするわ。私はこの国でお母様から守ってもらえるし、王子様は私の操り人形みたいなもの。残念だったわね。最初に首を吊るのを誰にするか決めておきなさい」そして白雪姫は王子様と結婚して幸せになり、小人らは誰が最初に首を吊るべきか、それはもう壮絶な喧嘩、言い争いをして看守らに人間の醜さの極致だと呆れられ笑われていましたとさ。


(了)


読んでいただいてありがとうございます。良ければ、感想、評価いただけると幸いです。

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