運命の出会い
季節は巡り、舞桜が高校二年生になった春。
再び、桜の花が舞い散る季節がやってきた。
舞桜は、拓斗への複雑な思いを抱えながらも、すっかり高校生活にも慣れ、友人たちと充実した日々を送っていた。
新しい学年になって初めての朝、舞桜は一人、通学路を歩いていた。
桜並木の下を通るいつもの道。
ひらひらと舞い落ちる薄紅色の花びらが、舞桜の心を癒してくれる。
舞桜が毎年のように、桜に夢中になりかけていたその時、目の前に、一人の男子生徒が立ちはだかった。
真新しい制服に身を包んだ、まだあどけなさの残る顔立ちの彼。
どうやら、新一年生のようだった。
彼は舞桜をじっと見つめると、はにかんだように笑った。
「あの……すみません。同じ制服なので、もしかして、鳳花高校の方ですか?」
舞桜が頷くと、彼は少しホッとしたような顔をした。
「実は僕、昔っから方向音痴で……。今日が初登校で、ちょっと道に迷っちゃったんです。なので、もしご迷惑でなければ、学校まで一緒に案内してもらえませんか?」
そう言って、困ったように眉を下げた彼に、舞桜は「私で良ければ……。」と優しく頷いた。
まさか、一年生に声をかけられるとは思わず、舞桜は少し驚きながらも、彼と共に桜並木の道を歩き出した。
「桜、お好きなんですか?」
突然、彼が隣で、はにかんだように尋ねてきた。
その問いに、舞桜は、あの幼い日の思い出が頭をよぎり、小さくも力強く「うん。」と答えた。
「やっぱり!さっきからよく桜の方ばっかり見てるから、そうなのかなーって思ってたんですよ。あっ、ちなみに僕も桜って好きなんですよね。なんか、ホッとするっていうか…………」
そんなたわいのない会話をしながら歩いていると、彼はふいに立ち止まり、突然、ひょこっと舞桜の顔を覗き込んできた。
彼の瞳は、満開の桜の花びらが舞い落ちる光を受けて、キラキラと輝いている。
「あの……、今更で失礼なんですけど、お名前なんて言うんですか?」
彼の真っ直ぐな問いかけに、舞桜は少しだけ戸惑いつつも、「えっと、小林舞桜です。」と答えた。
すると、少し食い気味に、「えっ、まおってどう書くんですか?」と彼は興味津々といった様子で尋ねてきた。
舞桜は少し驚きながらも、微笑んで、ゆっくりと答えた。
「舞う桜って書いて、舞桜です。」
舞桜がそう告げた瞬間、彼の顔がパッと輝き、まるで感動したかのように目を丸くした。
そして、満開の桜を見上げながら、舞桜の瞳をまっすぐに見つめて言った。
「舞う桜って書いて舞桜なんですね! とっても素敵なお名前ですね!」
その瞬間、舞桜の時間が止まった。
彼の言葉は、幼い頃、あの桜の木の下で、初恋の男の子が自分に言ってくれた言葉と、寸分違わず同じだったのだ。
彼の可愛らしい雰囲気と、どこかあざとさを感じるほどの積極的なアプローチ。
まるで、あの日の記憶がそのまま形になったかのような出会いに、舞桜の心は再び激しくざわめいた。
(まさか……。これって運命の出会い……?)
舞桜は、目の前の年下の男の子に、またしても運命を感じずにはいられなかった。
拓斗への想いと、初恋の記憶。
そして、目の前に現れたもう一人の「運命の彼」。
舞桜の恋心は、さらに複雑な迷路へと足を踏み入れていくのだった。




