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親友の葛藤
翌日、舞桜の少し腫れた目を見た咲希は、何も言わずに舞桜の頭をそっと撫でた。
舞桜が拓斗への想いと初恋の間で苦しんでいることは、咲希には痛いほど分かっていた。
拓斗が記憶喪失であることを舞桜に隠していること……。
あの時、舞桜の気持ちを考えて、拓斗に口止めをした選択が、本当に正しかったのかどうか……。
咲希の心は、激しい葛藤に苛まれていた。
(舞桜、あんなに苦しんでる……)
(私が話せば、もしかしたら……)
何度、拓斗の秘密を舞桜に打ち明けようと思ったことか。
しかし、そのたびに、舞桜が真実を知った時に受けるであろう衝撃を想像し、口を閉ざしてしまった。
舞桜の純粋な心を守りたい。
その一心で、咲希は自らの口を固く閉ざし続けたのだった。




