表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『桜舞う記憶、紡がれる恋』  作者: うさえり
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/21

秘密と決断

ある日の放課後、咲希は拓斗が教室に残っているのを見計らって、舞桜を先に帰らせた。


そして、拓斗の元へと向かった。


「拓斗くん、ちょっといいかな?」


咲希の突然の問いかけに、拓斗は少し驚いたような顔で頷いた。


「あのさ、拓斗くんって、舞桜の初恋のこと、何か知ってる?」


咲希は単刀直入に尋ねた。


その問いに、拓斗の表情が、一瞬だけ固まった。


「うーん、……なんとなくかな。ずっと想ってる男の子がいるってことだけは、聞いて知ってるよ。」


拓斗は、少しだけ俯きながら答えた。


咲希は、その反応に何か引っかかるものを感じた。


「そっか。それで、本題なんだけど、舞桜がずっと探してる、桜の木の下で出会った男の子。それって、あなたなの?」


咲希の真っ直ぐな視線に、拓斗はゆっくりと顔を上げた。

だが、その瞳には、何かを迷うような、複雑な色が宿っていた。


「それは……、分からない。僕かもしれないし、僕ではないかもしれない……。」


拓斗は、まるで自分に言い聞かせるかのように、ぽつりと呟いた。


咲希はその言葉の真意を測りかねていたが、拓斗は小さく息を吐き出すと、意を決したように続けた。


「実は……僕、幼い頃の記憶がないんだ。小学生の頃、交通事故に遭ってから、それより前の記憶が全部、抜け落ちてしまってるんだ。」


その言葉に咲希は息を呑んだ。

まさか、そんな事実があったなんて。


舞桜が彼に惹かれている理由、そして彼が真実を語れない理由が、今、一つに繋がった。


「だから、小林さんがずっと想ってるその男の子が、僕なのかどうか、僕には分からないんだ。」


拓斗の表情は、どこか諦めに似た色を帯びていた。

咲希の胸に、様々な感情が渦巻く。


舞桜の初恋の相手が今、目の前にいるかもしれない。

けれど、彼はその事実を知らない。


そして、もしこの事実を舞桜が知ったら、彼女はどれほど深く傷つくのだろう。


初恋を大切にしたい舞桜の気持ちと、彼女がこれ以上苦しむ姿を見たくない咲希の思いが、激しくぶつかり合った。


咲希は、しばらく沈黙した後、拓斗をまっすぐに見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「……ねぇ、拓斗くん。そのこと、舞桜には、あなたから言わないで隠しておいてくれないかな。」


拓斗は驚いたように目を見開いた。

咲希の言葉は、彼の想像とは全く違うものだったのだろう。


「どうして?」


呆気にとられている拓斗を他所に、咲希は覚悟を決めた。


「舞桜は、ずっとその初恋に囚われている。でも、私は、そんなことに縛られずに、舞桜には心から幸せになってほしい。

もし今、あなたからその事実を言われたら、舞桜はきっと、自分の気持ちが分からなくなってしまう。

……だから、お願い。舞桜には、舞桜の気持ちのままに、恋をしてほしいの。」


咲希の瞳には、舞桜への深い愛情と、親友としての強い願いが宿っていた。


拓斗は、咲希の言葉の真意を測るように、じっと彼女を見つめた。


そして、やがて静かに頷いた。


「……分かった。小林さんには絶対、僕からは言わないよ。」


咲希は安堵の息を漏らした。


果たして、この選択が、舞桜にとって本当に良いことだったのか……。

それは分からなかった。


けれど、今は舞桜の気持ちを何よりも優先したい。

そう、咲希は心に決めていた。


そして、舞桜は拓斗が記憶喪失であることなど知る由もなく、彼の存在に心を奪われていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ