重なる笑顔
拓斗が転校してきてからというもの、舞桜の毎日は、それまでの淡い期待とは違う、はっきりとした輝きを帯びるようになった。
隣の席に座る拓斗は、授業中も休み時間も、舞桜の視界の端に常に存在した。
シャーペンを走らせる真剣な横顔、ふとした時に友人と交わす優しい笑顔、そして、たまに目が合って交わされる挨拶。
その一つ一つが、舞桜の心を甘く締め付けた。
舞桜は、彼の笑った顔を見るたびに、あの桜の木の下で出会った男の子の笑顔が、鮮やかに脳裏に蘇った。
本当に彼が、あの時の男の子なのだろうか。
その答えを知りたい気持ちは募るばかりだが、怖くて聞けない。
そんな葛藤が、舞桜の心を支配していた。
舞桜は優等生として、以前と変わらず授業にも真面目に取り組むのだが、拓斗が隣にいると思うと、心臓の音がいつもより大きく聞こえる気がした。
そして、休み時間には、咲希が舞桜の隣にやってきては、拓斗のことについて、あれこれと尋ねてくる。
「ねぇ、舞桜。あの転校生の拓斗くんってさ、本当にあの子に似てるの?」
そんな咲希の問いに、舞桜は頬を赤らめて頷き、
「うん……。特に、笑った顔が、なんだか似てるなって……」と答えた。
「へぇー。舞桜がそこまで言うなんて、相当だね!」
咲希はからかうように笑うが、舞桜の真剣な表情を見て、すぐに真顔に戻った。
咲希は舞桜の初恋をずっと知っているからこそ、彼女の心の揺れ動きを敏感に感じ取っていた。
舞桜が拓斗に惹かれていること、そしてそれが、彼女を縛り付けてきた初恋の記憶と深く結びついていることに、咲希は気づいていたのだ。
舞桜が初恋の呪縛から解放され、心から幸せになってほしいと願う咲希は、この時、ある決意を固めていた。




