気になる転校生
新学期が始まって数ヶ月が経ち、舞桜も咲希もすっかり新しいクラスに馴染んでいた頃のことだった。
午前中の授業が終わり、昼休みが近づいてきた頃、担任の先生がガラリと教室のドアを開け、一人の男子生徒を伴って入ってきた。
「みんな、静かに。今日は転校生を紹介する。」
そんな先生の一言に、ざわついていた教室が、一瞬にして静まり返る。
舞桜もどきどきしながら、その男子生徒に目を向けた。
背が高く、すらりとした体躯。
黒板の前に立った彼は、控えめながらも凛とした空気を纏っていた。
「松下拓斗だ。みんな、仲良くしてやってくれ。」
彼の名前は、松下拓斗。
そして、自己紹介もそこそこに、先生は舞桜の隣の空席を指差した。
「松下、席は小林の隣だ。よろしくな。」
舞桜は少し驚いて、小さく目を見開いた。
まさか、自分の隣の席になるなんて……。
拓斗は舞桜に向かって歩いてくると、静かに席に着いた。
そして、カバンを置くと、舞桜の方を向き、ふわりと微笑んだ。
「小林さん、よろしくね。」
その瞬間、舞桜の心臓が大きく跳ねた。
柔らかな光を宿した瞳、そして、口元に浮かんだその笑顔。
その全てが、まるでスローモーションのように舞桜の目に焼き付いた。
それは、幼い頃、桜の木の下で出会ったあの男の子の面影が、なぜか拓斗の笑顔と重なるように思えたからだった。
(もしかして……)
舞桜の胸が、激しく高鳴る。
ずっと探し続けていた【運命の相手】が、今、目の前にいるのかもしれない。
そう思うと、舞桜の手は微かに震え、どうすることもできなかった。
拓斗の笑顔は、舞桜の心を捕らえ、これまでの日常を一変させる予感に満ちていた。




