真実の告白
舞桜は、もう迷わなかった。
自分の気持ちに嘘をつきたくない。
拓斗へのこの想いを、真っ直ぐに伝えたい。
放課後、舞桜は拓斗が帰宅しようとしているところを追いかけた。
「拓斗くん!」
舞桜の呼びかけに、拓斗は振り返った。
舞桜は、息を切らしながら、拓斗の前に立つ。
顔はきっと真っ赤で、心臓はこれまでにないほど激しく鼓動している。
でも、もう逃げない。
「あの、この前は、ごめんなさい。私、ちゃんと、自分の気持ちを言えなくて……」
舞桜は深呼吸をして、真っ直ぐに拓斗の目を見つめた。
「拓斗くんのことが……好きです。私と、付き合ってください!」
舞桜は自身の純粋な恋心に正直になり、意を決して拓斗に告白した。
舞桜の告白に、拓斗は目を見開いた。
驚きと、信じられないというような表情が混じり合っている。
その後、彼の表情が、ゆっくりと優しいものに変わる。
「舞桜……ありがとう。」
拓斗の声は、震えるほど優しい響きを帯びていた。
舞桜の胸が、期待で大きく高鳴る。
しかし、拓斗は一歩後ろに下がり、その瞳に複雑な感情を宿したまま続けた。
「自分から最初に告白しておいて、本当に申し訳ないんだけど……ちょっと、考えさせてほしい。」
舞桜は、拓斗の突然の言葉に、呆然と立ち尽くした。
脳裏に「ありがとう」という言葉が響き渡り、喜びでいっぱいになった直後の、まさかの返答。
(どうして……? 私の気持ち、伝わらなかったのかな……)
拓斗は、舞桜の困惑した表情を見て、胸を締め付けられる思いだった。
彼の心の中では、激しい葛藤が渦巻いていた。
舞桜の告白は、拓斗にとって何よりも嬉しい言葉だった。
だが、同時に、彼はずっとある懸念を抱えていたのだ。
舞桜の「好き」という気持ちは、果たして、本当の自分に向けてのものなのか?
それとも、やはり、初恋の男の子に自分を重ねての思いなのか?
拓斗は記憶喪失の事実を舞桜に告げるべきか、否か、その返事を保留した時間で決断しようとしていた。
咲希から口止めされている記憶喪失の秘密。
それを舞桜に伝えることで、彼女が真実を知った時に、自分への気持ちが揺らいでしまうかもしれない。
それでも、偽りの上に成り立つ関係など、拓斗には望むべくもなかった。
彼は舞桜への真剣な愛情ゆえに、彼女の心を曇りなく受け止めたいと願った。
舞桜の瞳は、不安げに揺れている。
拓斗はそんな彼女の心を察し、無理に笑顔を作った。
「ごめん。でも、ちゃんと、舞桜の気持ちに向き合いたいから。少しだけ、時間をくれないかな」
舞桜は、ただ小さく頷くことしかできなかった。
突然降り始めた粉雪が、二人の間に舞い降りる。
冬の冷たい風が吹く中で、舞桜の心は、再び不確かな未来へと投げ出されたようだった。




