本当の本気
清華からの宣戦布告は、舞桜の心に激しい波紋を広げた。
拓斗からの告白から逃げてしまったことへの後悔。
そして、清華が言う「本気で好き」という言葉の重み。
舞桜は、拓斗への自分の気持ちが、本当に「本気」なのかどうか、自問自答を繰り返した。
(私は、拓斗くんのこと、本当に好きなのかな……?)
彼の笑顔に惹かれ、彼と一緒にいると心が温かくなる。
他の誰かが彼に近づくことに、胸の奥がチクリと痛む。
それは、まぎれもない「好き」という感情だった。
けれど、長年大切にしてきた初恋の思い出が、どうしても舞桜の心を縛り付ける。
その思い出を裏切るような気がして、一歩を踏み出せない。
そんな舞桜の迷いをさらに深める出来事が起こった。
ある日、廊下でクラスメイトたちが噂話をしているのが耳に入ったのだ。
「ねぇ、知ってる? 拓斗くん、この前、別のクラスの子に告白されたらしいよ」
「え、マジ!? 誰に? でも、拓斗くんならモテるもんね~」
その言葉を聞いた瞬間、舞桜の心臓がキュッと締め付けられた。
拓斗が他の子に告白された?
もしかして、彼女ができてしまうかもしれない?
想像しただけで、胸の奥から黒い感情が湧き上がってくる。
それは、今まで感じたことのない、強いモヤモヤだった。
もし拓斗に彼女ができてしまったら、彼の笑顔を、他の誰かの隣でしか見られなくなるかもしれない。
そう思うと、舞桜の心は、激しい痛みに襲われた。
(嫌だ……そんなの、絶対に嫌だ!)
その感情は、初恋の男の子の幻影を追う気持ちとは全く違った。
それは、今、目の前にいる拓斗という存在を、誰にも渡したくないという、純粋で、ひたむきな、独占したいほどの強い想いだった。
清華の言葉、クラスメイトの噂、そして何より、拓斗に自分ではない、特別で大切な存在ができてしまうかもしれないという想像。
それらの全てが、舞桜の心を揺さぶり、長年の呪縛を解き放っていった。
自分が本当に好きで、心の底から求めているのは、拓斗だ。
初恋の相手が誰であろうと関係ない。
この感情は、過去の記憶に囚われたものではなく、今、この瞬間に拓斗に対して抱いている、真実の恋心なのだと、舞桜は確信した。




