宣戦布告
舞桜が逃げるように走り去った後、少し離れた場所からその一部始終を見ていた人物がいた。
同じクラスの香美清華だった。
彼女は、誰もが認める綺麗で清楚な美人で、クラスの中でも一際目立つ存在だった。
そして、拓斗が転校してきて以来、彼に想いを寄せ、誰よりも拓斗の隣に立つことが似合うのは自分だと信じて疑わなかった。
清華は、舞桜が去った後、ゆっくりと拓斗に近づき、心配そうに声をかけた。拓斗が力なく首を振るのを見て、清華は舞桜への苛立ちを募らせる。
なぜ、あんな優柔不断な子が、拓斗の心を掴んでいるのか。清華には理解できなかった。
翌日。舞桜が教室で教科書を広げていると、清華が舞桜の机の前に立ちはだかった。
その表情は、いつもの清楚な笑顔とは違い、冷たいものだった。
「ねぇ、小林さん。昨日のこと、見たわよ。」
清華の言葉に、舞桜はドキリと心臓が跳ねた。
「拓斗くんからの告白、断ったんですってね。」
舞桜は何も言えず、ただ俯いた。
すると、清華は舞桜の顔を覗き込むようにして、低い声で言った。
「あなた、拓斗くんのこと、どう思ってるの?」
舞桜は口ごもったが、清華はそんな舞桜の態度を許さなかった。
「はっきり言ってあげるわ。私は、拓斗くんのことが本気で好きだから。あなたみたいに、いつまでもウジウジ悩んで、自分の気持ちも決められないような子に、拓斗くんは渡さない。あなたなんかには、負けない。」
清華の言葉は、舞桜の胸に深く突き刺さった。
「本気で好き」その言葉が、舞桜の心を大きく揺さぶる。
自分は、本当に拓斗のことを本気で好きだと言えるのだろうか?
初恋に縛られて、彼を傷つけてしまったのではないか?
清華の宣戦布告は、舞桜に自身の気持ちと真剣に向き合うきっかけを与えた。




