第5話:敗北の苦汁
「うっ」
康太は瓦礫の下で目を覚ました。近くには尚人がいる。瓦礫と瓦礫の間にちょうどいたたため、二人とも目立った外傷は無かった。
「尚人起きろ」
「ん~ん」
尚人はまだ少し寝ぼけていた。康太は尚人を連れて瓦礫の下からの脱出を試みる。幸い、出口はすぐ近くにあったためすぐに脱出することができた。夜明けだった。コメシスと出会ったのは約午後三時。半日以上気を失っていたのか。
「とりあえずみんなを」
尚人共にみんなを探しに行く。見つかったのは、和司、純、和磨、健斗、亮太、こうちゃんだけだった。あとの人は見つけることができなかった。生きていればいいんだが。
「早く手当てをしないと」
康太と尚人は手当てをしようとするものの、人手が足りなければ、医薬品も無い。
「少し街でも見に行くか」
「そうだね」
二人は街を見に行った。街は機能しておらず、静まり返っていた。建物のほとんどは破壊されており、住民は誰一人としていなかった。
「くそ、星野の野郎」
瓦礫を蹴り飛ばす。そういえば、昨日の戦闘で銃弾はほとんどなくなっていた。
「他のみんなはどこ行ったんだ」
悔しさが込みあげる。
「そろそろ戻るか」
尚人がそう言うと、康太は壊れた街並みを眺め静かに去って行った。
「イッテ」
全身の痛みで和磨は目を覚ました。手当てはしてあるようだ。しかし、包帯の巻き方が滅茶苦茶だ。ま、医学知識を少しかじった康太のことだ。止血する分には問題無いだろう。しっかしあのクソおにぎり。まさか、星野にやられるとは思いもしなかった。次会ったらコロス。だが、倒れている人数が少なすぎる。もう少しいてもいいはずだ。
その時、和磨の背後から人の気配がした。
「だ、誰だ」
素手で構える。
「おい、和磨何やってんの」
「なんだ尚人か」
後ろにいたのが尚人だと分かると一気に体の力が抜けていった。
「痛っ」
全身に痛みが走る。
「ま、無理すんなよ和磨。怪我ひどいんだからさ」
尚人に言われて和磨はその場に座った。痛みがひどいのも無理はなかった。なんせ、五メートル吹き飛ばされた挙句、コンクリートに打ち付けられたのだから。
「まさか星野にやられるなんてな」
和磨と尚人は倒れている仲間に目を向けた。すると康太が仲間の手当てをしている事に気が付いた。
康太は手当てをしながら独り言のように呟いた。
「俺、力が無いことがこんなに悔しいことだなんて知らなかった」
その言葉は二人の胸に鋭く突き刺さった。二人は言葉を出すこともできず、ただぼうっとしていた。
「イテテ」
しばらくすると他の仲間も目を覚ました。全員怪我はひどかったが、とりあえず、残っている仲間達だけで作戦を立てることにした。
「ここにはもう誰も生きていないって」
「早く星野を探すか」
中々意見がまとまらない。
「とりあえず中国に行こうぜ」
尚人のこの一言で残ったメンバーは韓国を抜け出し、中国へ行くことになった。
「ここからなら港へ行って船で向った方が早く着くぞ」
和司がパソコンで調べ、船で向うことになった一同は港へ行く為の車を探し始めた。
「この車でいいら」
純が見つけたのは小型バスだった。この大きさなら全員乗ることができる。キーもささったままで、ガソリンも満タンだ。だが、和磨の怪我もあり、運転する人がいなかった。
「おい、誰運転する?」
「俺パス」
「じゃあメンドイから俺も」
話し合いの結果、結局、和磨になった。
「俺ですか」
和磨がすごく嫌そうな顔をしながら運転席に乗り込んだ。痛みはまだ引いていない。怪我人に何させるんだよ。
この時、和司がパソコンの電源をつけ、ある音楽を流し始めた。
「こ、この曲は」
和磨の目が大きく開かれた。
「モえてきたぜ~」
和磨は一五〇キロ近くのスピードで車を進める。安全運転で進めてくれ。そのおかげで数時間で港に着くことができた。