第13話:寄生する者
俊弥の腹の中から出てきた生物の姿はイーターに似ており、目があり、手足の関節が一個多かった。扉までの距離はおよそ一五メートル。戦闘を避けての脱出は不可能である。もう、二人には戦うしか道はなかった。生物の眼が大きく開いた。
「来るぞ!」
二人とも生物が攻撃してくるとわかっていたが、生物を見失ってしまった。
「速い」
教室という狭い空間に生物がどこにいるかわからない。イーターのように気配を消して動けるのか。和司はスナイパーライフルを持って辺りを見回す。
その時、健斗は白い糸が和司に近づいてくるのが見えた。
「和司、左に跳べ!」
叫んでいるかのような大声。和司はすぐに言われた通りに左へ跳んだ。その直後に大きな揺れが教室を襲った。
「な、何だ」
和司は周りを見た。和司より先に健斗が見つけた。
「あそこだ」
さっきまで和司がいた近くの場所の壁に生物がめり込んでいる。上半身全部がめり込んでいるせいか、なかなか抜けられないようだった。
「今の内に逃げるぞ」
二人は奥の扉から逃げ出した。生物は壁から抜け出し、すぐに二人の後を追った。
「何か弱点はないのか?」
「あれだけじゃ、わかんねぇよ」
「それにあのスピードだもんな」
二人は生物が追ってきている事に気が付いていない。ピンポーンと誰も居ないはずの校舎で突然校内放送が流れ始めた。
「廊下を走るのはやめましょう。それと後ろにいるパラサイトイーターに気を付けましょう」
二人はすぐに後ろを振り向いた。廊下のつきあたりにその生物はいた。
「へぇ、パラサイトイーターって言うのか」
「そんなこと言っている場合か!」
健斗がやや荒れた口調で言う。
「大丈夫。あいつの弱点見つけたから」
軽く笑いながら和司は言った。
「本当なのか?」
「ああ」
「じゃあ、早く教室に」
健斗は近くの教室の扉を開ける。
「いや、廊下の方が戦いやすい」
和司は腰から何かを取り出した。
「おい、そんなんで大丈夫か」
和司が取り出したものは二本のナイフだった。
「後ろに下がってな」
ナイフを構えた和司が呟く。廊下の空気が張り詰められていく。パラサイトイーターと目が合った。その瞬間パラサイトイーターが視界から消えた。
「来るぞ!」
健斗の声が聞こえる。さっきあいつの弱点を探していたとき、襲われた時を思い出した。あいつが壁にめり込んでいた所の高さはちょうど俺ののど辺りだった。もし、あいつがのどを狙うように本能にあるとしたら、そこの高さにナイフを構えていれば、自分から突っ込んでくるはずだ。
直後、和司の両腕に重たい衝撃が走る。
目の前には両腕にナイフが刺さっているパラサイトイーターがいた。
「へっ、これでもう何もできないだろ。」
うめき声を上げるパラサイトイーター。勝利を確信した和司。だがそこには落とし穴があった。
大きく口を開けるパラサイトイーター。しまった、これがあったか。長い舌が和司に伸びてくる。くそっ、油断した。目をつぶる。この時、和司は死を覚悟した。
だが、舌が自分の体に巻きついた感覚が無い。目を開けると舌が切れているパラサイトイーターがいる。
「早くナイフを放せ」
健斗の声で完全に目が覚めた。廊下には切り落とされた舌が落ちている。
「サンキュー、健斗」
「ああ、こんなところでサヨナラはごめんだ。後は任せな」
舌を切られたパラサイトイーターは激痛でのた打ち回っている。しかし、パラサイトイーターはすぐに反撃の姿勢をとった。
「ふざけた事しやがって。楽に死ねると思うなよ」
トンファーを構えなおす健斗。パラサイトイーターは腕に刺さっているナイフを強引に抜き、健斗に跳びかかった。健斗は跳びかかりを避けた。スピードは大分落ちているな。パラサイトイーターは腕を伸ばしてきた。
「この距離じゃ届かないだろ」
油断したその時だった。突然パラサイトイーターの腕が伸び始めたのだ。
「なんだ、これは?」
健斗は素早く反応して避けた。重傷には至らなかったものの、かすり傷を負った。くそっ、コイツ、関節を外して腕を伸ばしやがった。
「これで終わりだ」
健斗は二本のトンファーを振りかぶった。その時パラサイトイーターは二人の視界から消えた。まだあのスピードが出せるのか。健斗が笑っているような表情が和司の瞳に映った。
「悪魔の裁き」
振り落とされたトンファーは寸分の狂いも無く、パラサイトイーターの頭に直撃し、梅干を砕いた。
「動きが速くて追えないのなら、待ち構えていればいい」
健斗はトンファーを腰に戻した。その時、廊下の窓からグラウンドを見ると、一機のヘリコプターが着陸しようとしていた。着陸したヘリの中から和磨や純などが降りてきた。
「和司、俺らも早く行こうぜ」
健斗はもう走り出している。この時、和司は一つのことを思い出した。
「悪い。先に行っていてくれ」
和司はそれ以上何も言わずに南校舎へ向った。
南校舎の二階は主に三年の教室として利用されていた。中国語でも漢字はある程度読めるためそれがわかった。一番端の教室には「三年三組」とあった。扉に手をやる。鍵がかかっていないのがすぐにわかった。
和司は一呼吸おいて扉を開けた。