第七話 名前がネタにされる配信
翌日、ついに配信当日がやってきてしまった。
由乃から、『私は無事に終わったよ!次は颯太の番だよ!』とメッセージが送られてくる。
「ついに回ってきてしまったのか…」
由乃のメッセージにより緊迫感が一気に増す。
時刻は午後8時前となり配信が迫ってきていた。
マイクやモニターなどを確認し息を整える。するとマネージャーから『ポコ太さん、配信開始いけますか?』というメッセージが。
ちなみにマネージャーというのは昨日解散した後に連絡が来た。本当にこの人がマネージャーでも大丈夫なのか、と思いつつも配信開始作業へと移る。
メインモニターには俺のアバターが、サイドのモニターを横目で見ると数えきれないほどのコメントが来ている。一部を読んでみると…
『名前がパロ太ってゆるキャラか?』
『好みのタイプ』
『めっちゃ楽しみ』
『まだかー』
と、期待の声が多いが、それは緊張につながる。
今日、由乃に『緊張してる?』って聞かれたときは強がって緊張してないと答えたが、実際のところ今、心拍数が高まっている。
緊張をしていながらも、俺は配信を始める。
「あれ?これついてるのか?」
俺が配信に手こずっているとコメントで『付いてる』と教えてくれた
「えー初めまして、よろしくお願いします、風見パロ太です。」
俺が自己紹介をするとコメント欄がものすごい速さで流れていく。コメントには
『え!声低いw』
『名前と声不一致すぎるだろw』
『パロ太のイメージと違うw』
『ギャップw』
という感じで俺の声と名前についてのコメントであふれていた。
名前を変えておくべきだったと思うが、とりあえず配信を進行する。
「まずはマネージャーから配信タグ?を決めろって言われてんですけど皆さんで決めてもらっていいですか?」
俺は視聴者に全任せにしたがまとまるわけもなく、マネージャーからも『パロ太さんが中心となって決めてください』とちょっと怒られたから一緒に決めることにした。
「じゃあ配信タグは見た感じ「パロっと配信」が一番多い気がするので決定で、つぎはファンアートタグらしいです」
こんな感じでそのあとも、ファンアート、ファンマーク、ファンネームタグを決めたところで、とりあえずの今日のノルマは達成した。
やることもないのでマネージャーに聞いたところ、もう少し尺を伸ばしてほしいらしい。
配信を始める前に見た由乃の配信では、雑談していたが、俺にそんなトークスキルはない。俺だけで悩んでいてもわからないから、視聴者にも聞いてみた。
「今日はこれで終わろうとしたんですけど、まだ終わるなって言われたので次回の配信でやってほしいことを教えてください」
うん、なになに?『マシュマロ返信して欲しい』『ゲーム配信』『同期コラボ』
「とりあえずまだ決まらないんですけど、参考にします。」
マネージャーからも配信終了してもいいよ、と来たから配信を終わらせる
「それでは今回の配信を終わりにします。あ、挨拶きめますか。次回からその挨拶使うのでXで、「#パロっと配信」のタグで投稿してください」
「それではまた次の配信で」
俺は配信を切る。とりあえずマネージャーに連絡をし、休憩をとっていると由乃からのメッセージが来た。
「颯太ー!配信、めっちゃコメント来てたね!」
「コメントの大半が俺の名前についてだったけどな」
ほんとにもう名前はどうにもならないのか?
「それで伝えたいことがあって」
俺に伝えたいことってなんだ?
「颯太が配信してる間に波ちゃんから次の配信、3人でコラボ配信しないかって来たんだよ」
波ちゃん?ああセイラのあだ名か
「別にいいけど、コラボ配信って何やるんだ?」
「それがまだ決まってなくて、波ちゃんの配信が終わったら決めようと思うんだよね」
そうか、俺の配信が終わったからセイラが今配信しているのか…
俺らはセイラの配信が終わるまで自分たちの配信を見返してみる。由乃の配信が明るいのに対して、俺の配信は…配信向いてないだろ、俺
俺がひとりで落ち込んでいると昨日作られたdiscordのグループにセイラからメッセージが送られてくる。
「配信終わったよー!」
「おつかれ〜コラボ配信でやる内容決める?」
「うん!いいよ〜」
ふたりが話しているあいだ、俺は話に入れない…
「とりあえず配信内容について決めよっか」
「雑談とか?」
雑談になったら俺が空気になる。配信中に一言も喋らないことになってしまう!絶対に違うものにしないと
「パロ太は何したい?」
由乃が俺に話をふってくれる
「俺は…雑談よりゲーム配信かな」
俺がさりげなく雑談から遠ざけると、セイラも賛成してくれる
「じゃあゲーム配信の何にする?」
「3人でやるならパーティーゲームとか?」
その後もコラボ配信の内容についての議論を重ねた。
「パーティーゲームかあ、いいね!何かオススメある?」
セイラが楽しそうに聞いてくる
「やっぱりここは王道のマ◯オパーティでいいんじゃない?」
俺が案をだすと、由乃が賛成すると同時に意見を言ってくれる
「うん、私もそれいいと思う!あと罰ゲームを追加するのはどう?」
「罰ゲーム…」
俺は嫌な予感しかしない
「例えば、負けた人が恥ずかしいセリフを次の配信で言うとか?」
由乃がニヤニヤして言うと、セイラも乗り気のようだ
「いや、恥ずかしいセリフってなんだよ、俺が不利すぎるだろ」
俺は抗議をするもふたりは全く全然引かない
「大丈夫だよ!パロ太の声なら、どんなセリフでも逆にかっこよくなるって!」
由乃がフォロー(のつもり)を入れてくるが、余計にプレッシャーを感じる。
「まあ、罰ゲームはお楽しみ要素だから軽いやつにしよう!あとは視聴者にも意見を聞いてみようよ」
セイラがそう提案し、一旦罰ゲームの内容は保留になった。
「じゃあ、これでいこう!コラボ配信、楽しみだね!」
由乃が笑顔でまとめる。
「うん!絶対盛り上げよう!」
セイラも同意している。
「俺は…空気にならないように頑張るよ」
正直、不安は残るが、二人のやる気に押されて頷くしかなかった。