第四話 俺の自由時間が減るのは、幼なじみのせい
面接から一週間経った土曜日の午前、のんびりとリビングでゲームをしていると、スマホの通知音が鳴り響いた。
「え、これって…」
画面を見てみると、件名は「面接結果」。送り主は「VA-PROオーディション事務局」だった。
胸が高鳴る中メールを開くと、確かに「おめでとうございます。オーディション合格です。」と書かれている。
「まじかよ……」
驚きと同時に、なんとなく不安も湧いてくる。軽い気持ちで由乃に流されて始めたことが、こうして現実になってしまったのだ。
その時、スマホが震え、画面には「鈴咲由乃」の名前が表示された。
「そうたーーー!!!」
出た瞬間、通話ごしに元気な声が響き渡る。
「ヴァープロの合格通知が来てるよ!見た?」
「ああ、見た」
「結果はどうだった?」
あまりにも直球すぎる質問に、少し間を置いてから答える。
「そりゃもちろん受か―――」
「え!落ちてたの?大丈夫だよ落ち込まな――」
「落ちてねえよ!受かってたわ」
話が逸れすぎて、思わずツッコミを入れてしまう。
「え!?受かってたの?だるそうな声してたからてっきり落ちたかと。」
俺ってそんなにだるそうな声なのか?と内心ツッコミながらも、めんどくさくて反論はしない。
「でもこれで2人でVTuberデビューだね!早速準備しよっか!」
「準備っていっても何すればいいんだよ?」
正直、そこが全然見えない。デビューしても自分がVTuberとしてどんな配信をするか、イメージが湧かない。
「まずはー機材から用意するんだけどね、ヴァープロから送られてきた段ボールってない?」
由乃が指で箱の形を作る。
「えーああ、あれか。」
俺が指差すリビングの隅には、おそらく機材が入っている段ボールが
、数個山積みになっている。
「で、これをどうするんだ?」
「配信部屋ってどこ?」
配信部屋か、全く決めとらんかった。とりあえずは―――
「俺の部屋、だな」
「そっか!それじゃ、れっつごー!」
由乃が変な笑みを浮かべる。こういう時は大体悪いことをたくらんでいる。
―――やはり当たってしまった……
「おい、何してるんだ?」
と言ったものの聞かなくてもわかる。これは完全に侵略だ。
「幼なじみの部屋だよ?普通来たら探索するでしょ!」
これが普通なのか?今は気にしないでおこう
「それで、準備はしないのかよ」
「あっ!すっかり忘れてた」
おい、忘れんな。
由乃はテヘッとウインクをする。
「さっきダンボールを開けたら説明書見たいなの入ってたよー」
由乃から説明書をとると、中身は機材内容についてだったり組み立て方についてだ。
「パソコンに、マイク、パソコン内にソフトも入れないとだし…え俺これ一人でやんの?」
「私もいるよおー!!」
由乃はぷくぅっと頬を膨らませる。
その様子に思わずため息が出る。手伝うといってもどうせ途中で飽きるのが目に見えてる。だが言わないのが良策だ。
「じゃあまずは机の上から片付けるか」
「イエッサー!」
そういって由乃は机に勢い良く向かい、上にあった本や雑貨を抱え込む。だが次の瞬間バランスを崩し、全てを床に落としてしまう。
「大丈夫か?あんま無理すんなよ」
「ごめんごめん、でも机の上は綺麗になったよ!」
「床…」
なんもいわないでやるか。
ようやく机の周辺が綺麗になり、段ボールの中身をだす作業へと移った。
「これがカメラで、これがマイクで、え、これどっちが上?」
由乃は手にしたカメラをもってぐるぐる回す。その姿を見て不安になるのは当然だ。
「それ落とすなよ」
「落とさないってば!信じて!」
信用ならない言葉に不安が増すが、俺は説明書を読んで作業を進める。
何とか全ての機材を準備し終えた頃には、もう夕方だった。
「やったーこれで配信準備かんりょー!」
「じゃ、もう暗くなるから早く帰れよ」
「はいはーい」
隣の家へと帰っていく由乃を見送り家に入る。
「今日は一日中ゲームする予定だったのに…せめて、せめて夜だけは!」
そんな願いも届かず、スマホの着信音が鳴った。
出たくはないが、しょうがなく出ると、
「ぞーだぁー」
数分前まで自分の家にいた女の声が聞こえてきた。
「まだ私準備してながったー」
「別に明日でいいじゃねえか」
「何言ってんの!明後日が私の初配信、その次は颯太だよ!」
は?いや初耳なんだが、てか急にケロッとした声で言われても怖ぇわ
「だから明日配信の素材準備しないとなの!つまり…」
「つまり?…」
「今から機材の準備手伝って」
「うん。やだ」
「おねがーい!颯太しか希望がないんだよ!さっき手伝ってあげたじゃん!」
頼んだつもりは一切ないがな。
このまま粘っても結局は強制的に連行されるから、行ってやるか。
「しゃーねぇな行くから待ってろ」
「やたー!」
この日の夜、結局颯太は由乃のせいでゲームが出来なかったという。