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7/20

7:城下町の視察。




 ドレスを着るだけで息も絶え絶えになった。これで終わりかと思ったら、今度はお化粧だと言われて、鏡台が使えないんだよなぁとちょい焦り。

 侍女さんたちもさっきから鏡台をチラチラ見ている。なぜ真っ黒なのかと。向こう側のキャスリンが黒い布か何かを被せているからですよ、と言いたいけど言えるわけもなく。

 

「お化粧は口紅だけお願いしていい? 薄めで!」

「え…………はい」


 そもそもキャスリンって、ナチュラルに顔が濃いのよね。化粧してなくてもいいんじゃない? という気分。あと、侍女さんたちが用意した化粧品が多すぎて、あと何時間かける気なのか、顔面を作り直す気なのか、という恐怖もあった。

 宝石類もいらないと断り、部屋から逃げ出した。ここに来て初めて、本気で部屋から逃げたいと思ったのだ。これは進歩なのかもしれない…………?


「お待たせしました」


 スヴェンは執務室にいると言われ、案内してもらうと、執務机で書類を書いていた彼が心底驚いた顔をした。


「え? もう終わったのか?」


 なるほど。ドレスに着替えるってマジで何時間もかけるものなんだ? 誰も急いでないよなぁとは思っていたけど、本当に急いでなかったらしい。何時出発なのか聞いておけば良かった。


「では行こうか」

「はい」




 スヴェンと向かい合って馬車に乗った。

 人生初の馬車は予想外の連続だった。思ったよりガタガタ揺れる。そして、思ったより広い。

 目の前で何やら書類を見ているスヴェンの様子を伺う。話しかけたりしたほうがいいのかと悩むけど、話したい話題は特にない。何もない。キャスリンのことはなんか話しづらい。ということで、スヴェンの観察に移行することにした。


 書類は視察用のなのかな? ガタガタ揺れる馬車の中でよく読めるなぁ。私は酔いそうだけど、スヴェンは平気そう。

 辺境伯って、ここの領主ってことよね。領主ってどんな仕事してるんだろ? 恋愛小説とかってあんまりそこんとこ書かれてないからわからないや。冒険ものとか経営ものだと色々説明されてそうだけど、その辺のジャンルはあんまり見てなかった。今度キャスリンに聞いてみようかな。


 しかし、まごうことなきイケメンなんだよね、スヴェン。本の主人公だからそりゃそうなんだろうけど。表紙の絵からリアルな人間になって、ハリウッド俳優さんですか!? みたいな感じだ。

 実物になっても創作された美麗な絵と遜色ないって、どういう世界観なんだろうかと本気で考えているとスヴェンが書類から顔を上げた。

 なんでか気まずくて、フィッと窓の外に視線を向けて景色を眺めていると、妙に見られている感。横目でチラリとスヴェンの様子を伺うと、首を傾げてまた書類に視線を戻していた。


 ――――セーフ!


 さて、観察の続きだ。

 服装も居住まいもビシッとしていてシゴデキ感が凄い。

 服装はよそ行きって感じだけど、パーティーほどではない。

 上着の前は、お腹から下のとこの裾がないのなんでだ。燕尾服とも違うやつだよね?

 あとズボンは膝下までなのかな? 膝下にくるみボタンみたいなの見えてるし。でもロングブーツだから素足や靴下は見えないんだけどね。なぜ短いズボンなんだろう。よくわからん。絵師さんの趣味かもしれない。


 クラバットっていうんだっけ? ひらひらの首のやつ。白い布に細かなレースがついてて可愛い。留めてる宝石は紫っぽいやつ。アメジストとかかな? 綺麗だなぁ――――。


 なんて、ぼーっと眺めていたものだから、スヴェンがいつの間にかガッツリこちらを見ていたことに気づくのが遅れた。


「私の顔に何か付いているのか?」


 クラバットを見ていたから、視線が顔に向かっているように思えたんだろうね。高校の面接の時に、『人の目を見るのが苦手ならネクタイや首元を見るといい』って教えられたなぁ。なんて現実逃避は横に置くとして。

 さっきまで顔を見ていたものだから、つい言ってしまった。


「スヴェンって男前――美丈夫? だなぁって見てただけです」

「…………美丈夫、か」


 なぜかスヴェンの眉間にシワがガッツリ寄った。ため息混じりに『美丈夫』という言葉を復唱されて、言われたくない言葉だったらしいというのは判断できたけど、理由は分からない。


「あ、その、ごめんなさい。嫌いな言葉でしたか?」

「まあな。女性たちは顔ばかり見るなと。君もあれらと一緒か……」


 あれらが、どういう人を指しているのかはわからないけど、私は見た目ってそこそこ大切だとは思っている。メラビアンの法則とかでも言うじゃん? 見た目――何割か忘れたけどさ。大部分を占めてたよ、確か。接遇研修とかでちょくちょく言われるもん。


「別に顔だけの話じゃないです。髪型や服装などを総合的に見て印象って変わるじゃないですか」

「…………うん?」


 続きを促されたので、もう少しだけ話してみることにした。

 別にイケメンだから全面肯定とかは言わない。あと、スヴェンがどれだけモテるかとか、それで何か苦労してきたとかは知らない。だって本の導入のとこでここに来たから。


「スヴェンの見た目の情報しか私は知らないので。好意を抱く要素はそこにしかないから、そう言っただけです」

「………………好意」


 またもや単語だけ拾って復唱。そして眉間にシワを寄せたまま、スヴェンは窓の外を見るばかりだった。どうやら怒らせてしまったらしい。顔とか耳がちょっと赤くなっている。


 見た目的な判断で怒る理由はキャスリンが知ってるかな? この件も戻ったら聞いてみようっと。




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