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5:好きに過ごすって?




 キャスリンに普段何をしていたのかと聞いても、なんだか役に立ちそうにないことばかり。というか、かなり危険なことばかり言う。絶対にスヴェンに怒られるってそれ……みたいなやつ。


『好きに過ごせばいいじゃない』

「その『好きに』ってのが、ヤバいんだって!」


 キャスリンったら、好き勝手に生き過ぎなのよ。城下町に行って爆買いしたり、商人を王都から呼びつけたり。王都までは一週間近くかかるらしいのに。キャスリンいわく、『私が買ってあげてるのよ? 来るのが当たり前じゃない』とのこと。そりゃ王族の一員だし、父親も王城で重要なポストに就いているらしいけど。だからってキャスリンが偉いわけじゃなくない?


『それは、こっちの世界で過ごして、なんとなくわかってきたわよ』

「ほんとにぃ? 王命で結婚したのに、離婚言い渡されるレベルなのに!?」

『うるさいわね。リンの貯蓄切り崩すわよ?』

「ちょ、それはやめて、まじでやめて……ほんとにっ」


 このところ、キャスリンに必死こいて節制というものを教え込んでいた。だって、電気代がなんかヤバそうだったから。めちゃくちゃ暖房使いまくってるの。絶対に来月の請求書で地獄見るからね!?

 それにキャスリンみたいに頼れる親族はいない。ゼロってわけじゃないけど、私は一人っ子だし、両親はほそぼそと生活してるし。キャスリンの贅沢のせいでお金貸してとか言えない。クレカの存在とかバラしてしまった日には、絶対に地獄を見る…………買い物でちょこちょこクレカ使ったりもしてたけど、ここいらで勝手にデトックスしてしまおう計画中だ。


『まぁ、店長も貯蓄には手を出さないように生活しなさいって言うし、従ってあげるわよ』

「なぜ私の言葉より店長の言葉優先なのよ……」

『カッコイイからよ』


 なんという現金な存在なのだろうか、キャスリンは。

 とりあえず、仕事場ではうまいこと記憶喪失で誤魔化しているらしいし、人間関係も大丈夫そう。

 つまり、問題はこちら側。

 人間関係が、死滅している。


『あっ、もうこんな時間じゃない! バラエティ見るから、じゃぁねっ』

「あっ、キャス――――」


 名前を呼び終わる前にまたもや鏡に布を掛けられてしまった。いいな、テレビ。私も観たい。

 鏡を動かしたりしたら、通信ができなくなるかもしれない恐怖から、部屋の中でさえ移動させないでいる。テレビが映り込む角度で置いておけば良かった。なんて、しょうもない後悔しても意味ないんだけどさ。

 

 真っ黒になってしまった鏡台に向かって座り、ぼぅっとしていた。

 やることがないって、辛い。暇って、辛い。

 言葉は分かるし、文字も分かる。でも、この部屋には本がない。キャスリンに聞いたら、一切読まないと言われた。でもコミックは気に入ったらしく、スマホでずっと読んでるっぽい。毎日の無料配信を待つのも楽しいらしい。課金しちゃってたことは、内緒にしておいた。

 キャスリンは思ったよりも気が長かった……。なんか、馬鹿にしてごめん。


 


 とりあえず私も何か行動しないとなと思い、部屋から出てみることにした。食事と使用人さんたちへのお願い以外で出たのが初めてすぎて、

 ドアノブを押し下げ、恐る恐る開けて廊下を覗いてみる。

 誰もいない。

 食事の時は、毎回侍女さんが呼びに来てくれて、食堂まで連れて行ってもらえる。おかげで、そこまでの道のりはさすがに覚えたけども、それ以外のところって、全くもって知らない。


 食堂と反対側に行ってみようかな? と歩き始めた時だった。正面にあった曲がり角から、十代後半くらいの下働き的なメイドさんがバケツ片手に現れた。


「あっ、あのっ」

「ひぃぃっ。ももももももうしわけございませんっ」


 ガバリと頭を下げられたあと、走って逃げられてしまった。何もしてないのに、なんでなのよ?

 しょんぼりしながらまた廊下を歩いて、T字路でどっちに行こうか悩む。

 さっきのメイドさんは左に逃げていったから、同じ方向に行ったら可哀想よね。右に行こうかな?


 廊下は思いのほか明るかった。少し高い位置にある窓は調光用なのか、はめ殺しっぽい。あと、なんかステンドグラスっぽくなってて綺麗。

 床はワインレッドより少し深めの赤茶色の絨毯。ふかふかしてるけど、ヒールが埋まるほどではない。

 お城って、なんか大理石とか敷き詰められてて冷たい感じかと思っていたけど、壁は漆喰なのかなんか、そういう感じの質感。思っていたより、温かい空間だった。

 だからこそ、お城の中を見て回りたかった。

 部屋にいるより、廊下を歩いている方が落ち着くから。


 窓の外を眺めつつのんびり歩いていたら、階段がある場所に着いた。今いるのは二階。食堂は一階。さて、上と下のどっちに行こう? 

 悩んでいたら、一階から別のメイドさんが畳んだ洗濯物を持って上がってきていた。


「ねぇ、上って何があるのかな?」

「ひっ!?」


 ――――また。


 私というかキャスリンの顔を見ただけで、メイドさんたちが顔面蒼白になる。

 三階には何があるのか聞きたかっただけなのに、階段の下の方や私の後ろを見たりして、誰かに助けて欲しそうな雰囲気。

 いたたまれないし、申し訳ない……あとちょっと、悲しい。


「ごめんね、やっぱりなんでもないです」


 慌てるメイドさんに謝って、部屋に戻った。ちょっとだけ息抜きできて良かったけど、それ以上に心は疲れてしまった。

 好き勝手するって、結構難しいと思うんだけど、どうなんだろう。やっぱりキャスリンって、凄いんだな。




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