表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

8.永遠に



もうどのくらいたっただろうか。

走り疲れたせいか、大雨で衣服が水を吸ったせいか、とても足が重い。気づけば中央区画前の大門の前まで来ていた。

それでも家に帰る選択肢はなく、行く当てもなく私は彷徨い続けている。



女神様の説明を思い返し、そういえば自分は精霊なのであれば飛んだりする事もできるのかな。

などと考え、おもむろに自分の背中を触ってみる。

意外なことなのか、今までなかったのだから当然なのか、羽根らしきものはなさそうだ。


「羽根もないなら精霊じゃないかもしれないなぁ…」


ぽつりと独り言を言ったところ、あまり聞きたくない声で返事が返ってきた。


【あなたの体は精霊体ではなく肉を持った状態なので、羽根はありません。しかし、紛うことなき精霊ですよ】


「ステラル様…」


自分と同じ顔の小さな精霊が、心配そうにこちらを伺っている。

そんな顔しないでくださいよ。女神様にそんな顔させたなんてばれたら、私はもうこの国に居られなくなっちゃうじゃないですか。



【あなたは…本当に人の子としてあの2人を愛しているのですね…。そんなあなたに過酷な使命を与える私を許してください。ですが、悪きものを滅ぼさなければ、この国は破滅してしまう。そうなれば、あの2人だって…】


「もういいんですよ…!!もう、今更ですよ。私は父さんと母さんに酷いことを言ってしまった…。冷静になって考えれば、裕福でもないうちで捨て子をここまで育てられるはずがない。それこそ孤児院にでも預ければいい。いくら2人が敬虔な信者で女神様からの使命だからって、生きるのに精一杯な平民が自分たちを優先せず、赤ん坊を育てるなんてあまりにも割に合わないことできるはずがないんです。……それでも2人は私をここまで育ててくれた。笑顔で抱きしめてくれた。時には叱ってくれた。…そんな人たちが、私の事を愛していないはずがないんですよ……。わかっていた……。わかっているはずなのに…。2人を…わ、わたしは…きずつけてっ…しまって…」



最後の方は嗚咽で言葉が紡がなかった。

わかっていたはずなんだ。それなのに、突然告げられた真実に混乱して、絶対に言ってはいけない言葉を言ってしまった。父さんも母さんも、もう、私の事なんて愛してくれない…


止まらない涙を、ステラル様がそっとその小さな手で拭ってくれる。



【…ステラ、これをご覧なさい】


そう言って、ステラル様はそっと私の額に手を当てる。すると頭の中に直接ある絵が映し出された。


【これは彼らの精霊(トワル)の目を通して見えている彼らの現在です。力が弱っている今、あまり力は使わないほうがいいのですが…。】


ステラル様がそう言うと、今度は父さんと母さんの声が聞こえてくるーーーー



『アルマーー!!!どこにいるのーーー!!!お願いだから…お願いだから帰ってきてちょうだい!!!!』


『アルマー!!!!父さんが悪かった!!!お前の気持ちも考えずに…っ!でもな!!!これだけは言うぞ!!父さんが…俺たちがお前のことをa』



そこでステラル様との繋がりは途絶えた。


【ごめんなさい…。これ以上繋げると、この後すべきこともできなくなってしまうわ…。でも、わかったでしょう?あの2人が、あの程度のあなたの言葉で見捨てたりしないと。だって、ジャンとリュシーはあなたの親なのだもの】




そうだ。そのとおりだ。

私の父さんと母さんが私を見捨てるはずがないんだ。

わかっているつもりだったのに、わかっていなかった…。

赤ん坊の頃から今まで親子として探してきた歴史は、偽物なんかじゃない。

血は繋がってないけど、私たちは心で繋がった本当の親子なんだ…!

そう思うと、止まっていた涙がまた溢れかえってくる。

はやく父さんと母さんに会いたい。はやく会って、きちんとごめんなさいって言いたい。愛しているって言いたい。抱きしめてもらいたい…!



【さぁ、2人の元に帰りましょう。そして、今後のことをきちんと話し合わないと。】


「…ぁ゛い…はいっ…!わ、わたし、帰りますっ…!はやく、帰って、2人にちゃんと謝ります…!」


そう決心し、くるりと踵を返して歩き始める。

もう体も冷え切って、走る力はないけれど、それでも2人の元に歩き始めた。



大雨は激しさを増して、いつの間にか雷まで鳴っている。

視界も悪く、思うように足が進まない。そんな時だった



「アルマーーー!!!」

「アルマ…っ!!!やっと見つけた!!!」



父さんと母さんがすぐそこまで迎えに来てくれていた。溢れ出る涙を必死に堪えながら、私は両手を伸ばして2人に駆け寄る。


「父さんー!!!!母さんーー!!!」





















しかしーーーー




その両手はーーーーーー



終ぞ届くことはなかったーーーーーーーー












「アルマ!!!!!!!」

「アルマ危ない!!!!!!!」





















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「チッ。こんな大雨の夜道に出歩いてんじゃねーよ!」





荒っぽい御者の捨て台詞と共に、私の前を黒く大きな馬車が走り去って行った。




わたしの


めのまえで




とうさんと


かあさんを







ひきころして













お読みいただきありがとうございます!


ようやく、物語が動き始めます…!


次回もよろしくお願いいたします!


作者Xアカウント→@melo_ssn

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ