6.私は私
最初こそおっかなびっくり卵に触れていた私だったけど、それも数日すれば徐々に慣れていった。
「おはよう!私のたまごちゃん!」
朝起きたら挨拶をし、美しい金色の殻を割れないよう丁寧に磨く。
どんな子が産まれてくるのかな?どんな能力があるのかな?名前はなににしようかな?
なんて日がな一日考える始末で、父さんも母さんも
「洗礼の儀の時の動揺はどこにいったのか」
なんて呆れていた。
だって私が賜ってしまったのだから、ずっとびくびくしていたらこの子が可哀想だもん!
そう思えば他の人子たちと色が違うくらいどうってことないんだから!
家の手伝いや繕い物をしながら、にこにこと卵をみつめる。あー、はやく産まれてこないかなぁ〜。
どんな能力でも絶対に受け止めてみせるんだから!
子どもを身籠った母親ってこんな気持ちなのかなぁ〜と想像する。
「ねぇ、母さんが私を身籠った時ってどんな気持ちだった?」
ふと気になったことを聞いてみた。
「え、えっ?…そ、そうねぇ…それはもう早く元気に産まれてきますようにってずっと女神様に祈っていたわよ〜。さ、そんなことよりこれをお風呂屋さんに持って行ってくれる?この前紅をさしてくれた御礼よ。」
「??わかった〜!行ってきます!」
何故か母さんにはぐらかされたような気がするけど、まぁいいか!
お風呂屋のおばちゃんへの御礼として持たされた野いちごのジャムと私が花の刺繍を施したスカーフをバスケットに入れて、お風呂屋さんに向かう。
しかし道中、ある違和感に気づいた。周りのみんながこそこそと私をみて何か話しているのだ。
もしかして私の顔に何かついてる?!お昼に食べたパンのくずでも残ってたかな?
なんて、今思えば見当違いなことを考えながら、おばちゃんの所で鏡を見せてもらおうとお風呂屋さんの扉を開けた。
「こんにちはー!」
「はい、いらっしゃ…あ、ああアルマかい!どうかしたの?」
「??洗礼の儀の日に紅をさしてくれたでしょ?それのお礼を持ってきたの!」
「あぁ…そ、そうかい!わざわざありがとうね!それじゃあ気をつけて帰るんだよ!」
「あ、おばちゃん!お願いなんだけど、鏡を貸してくれないかな?ここに来るまでに街の人がみんな私の方を見ていたの。もしかして顔に何かついているんじゃないかと思って!」
「アルマ……アルマ、あのね。しばらくは家から出ないほうがいいかもしれないよ。」
おばちゃんが突然妙な事を言い出す。
そんなの、買い出しにもいけないし、お風呂にも入れないから無理に決まってるじゃない!
「おばちゃん、突然どうしたの?家から出るなって…どうして?」
「……あんたに直接いうのもなんなんだけどね……みんなあんたが洗礼の儀で"アレ"をステラル様から賜った事を知って、怖がっているんだよ」
"アレ"とはもしかせずとも私の卵のことだろう。
あの場には私の住む地区からも何人か参加者がいたのだ。その子達が自分の親に話したのだろう。
『平民のアルマが大司教様も驚くような卵を女神ステラル様より賜っていた』と。
カーラおばちゃんの話を聞いて、私の顔は険しくなった。その表情を見たおばちゃんは
「っ…みんなもしかしたらアンタが貴族のはうまれなんじゃないかって疑ってるんだよ…。」
ここの区域の平民は、あまり貴族にたいしていい印象を持っていない。あいつらは私たちの事を家畜程度にしか見ていないからだ。
「そんな…みんな私が産まれたときから知ってるはずじゃない!!それなのに、なんで…」
「アルマ…」
「…おばちゃん、忠告ありがとう!でも私は貴族でもなんでもない、平民のジャン・ブランとリュシー・ブランの娘だもん!隠れて過ごすような悪いこともしていないんだし、今まで通り過ごすよ!」
そう。私は何も悪くないのだ。
貴族だと思われることは悲しいけど、それを理由に逃げたりしないんだから!
「……そうかい。…そうだね。アルマは産まれてからずっとここで暮らしてきた、平民のアルマだもんね。」
「うん!だから大丈夫だよ!心配かけてごめんね!もし私が来るのが迷惑になるなら、もう来ないようにはするよ!」
昔からよくしてくれたおばちゃんに会えないのは悲しいけど、迷惑はかけたくない。
「いいや、アルマ。私の方こそ噂を少しでも本気にしちまってわるかったね。あんたは何も悪くないんだ。気にせずいつでもおいでな」
「おばちゃん…ありがとう!それじゃあまた来るね!!」
「ああ。ジャムとスカーフありがとう。気をつけて帰るんだよ!」
「はーい!」
落ち込むことはない。
私は私。帰り道も視線を感じるけれど、前を向いて、胸を張って歩いて行くんだ!
私もアルマのように自分をしっかり持った人間になりたいです…笑
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