5.考えたって仕方がない!
「アルマ・ブラン…君は…君はなんなのだね…?」
ピエール大司教が恐る恐る私に問いかける。
そんなこと聞かれたって、私が知りたいくらいだ。
「し、知りません!私は平民の父と母の元に生まれた生粋の平民です!!」
「では何故君の卵は青色ではない!!これは…この色は…」
「大司教様は何か知っているんですか?!」
「い、いや……すまない。今日は一度家に帰りたまえ。皆のもの静粛に!これにて洗礼の儀を終了とする!皆今日女神より賜った卵はひと月の間きちんと保管するように!よいな!」
「あっ!大司教様!!」
声をかけようとするも、大司教様は私の声を無視して大聖堂の奥へと帰って行った。
す、と自分の卵に目を落とす。どうして?この卵は一体何?光の中で聞こえた声、今朝の夢でも聞こえた声のようだった…一体何がおこっているの?
ぐるぐると思考が混乱して立ち尽くしている私を、半ば強制的に衛兵が大聖堂から追い出した。
しようがなく私はとぼとぼと両親の元へ歩き出す。胸に金色の卵を抱きながら。
「アルマ!お帰りなさい!…どうしたの?浮かない顔して」
「洗礼の儀は無事に終わったんだろ?何かあったのか?」
父さんと母さんが心配そうに私に問う。
「あのね…これ見て…」
そっと胸に抱いていた金の卵を2人に見せた。
その卵を見た2人は一瞬固まり、言葉に詰まるも
「す、すごいじゃないか!こんな色の卵、他の子達は持ってないぞ!」
「ほ、ほんとね!何か特別な精霊を女神様から賜ったのかもしれないわ!アルマの善行をきっと見てくださっていたのよ!」
と大袈裟に喜んでいるように伺える。
「でも、大司教様も驚いていて…こんな卵見たことないご様子だったよ?私、何か変なのかな」
だんだんとこの卵が怖くなってくる。
私が貴族や王族だったら、神に見出されたのだと手放しに喜べるのかもしれない。
しかし、私はただの平民だ。
「そんなことないわ!アルマは父さんと母さんの大事な子よ!ごく普通の子じゃない!」
母さんは必死に否定する。
「…とりあえず、ここには長居できないから、一旦家に帰ろう。」
父さんの言葉に従い、私たちは帰路についた。
今朝まであんなに楽しみだった洗礼の儀なのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう?
自宅に着くやいなや、私はすぐに自室に閉じこもった。父さんと母さんは心配してくれていたが、返事をする気も起きない。
私の手の中におさまる卵をじっと見つめる。私は別に特別になりたかったんじゃない。ただ普通に憧れの精霊が欲しかっただけ。大人になりたかっただけなのだ。
ぐるぐると考えているうちに、私は気がついたら眠ってしまっていたのだったーーーー
「ジャン、アルマの卵。あれって…」
「…あぁ」
「…やっぱりそうよね…」
「……」
「そろそろ、頃合いなのかもな」
「ええ…」
翌朝、目が覚めてもまだ金の卵は枕元に存在していた。夢だったらよかったのに。
じっと卵を見つめる。そして私は卵を手に取り
「……よし!いつまでもくよくよ悩んでたって仕方がない!!!貰っちゃったもんは貰っちゃったんだもん!これが女神様のご意向なんだよね!!絶対ひと月大切にそだてるぞ!!!」
えいえいおー!と1人奮起したと同時に
「ぐぅ〜〜〜〜!」
っと大きなお腹の虫が「腹減ったぞー!!!」と特大の主張をしてくる。
昨日は夕飯も食べずに部屋に引き篭もったので、それはお腹も限界だよね。
元気よく部屋を出て、台所に向かう。
「父さん母さんおはよー!お腹すいたー!」
そんな私の姿を見た両親は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で迎えてくれた。
「ああ、おはようアルマ」
「おはよう。もう大丈夫なの?」
「うん!考えたって仕方がないから、女神様のご意向だと思って頑張って育てることにした!!」
「そう。アルマがそう決めたなら父さんも母さんも応援するわ!」
「そうだな。アルマ、しっかりと育てるんだぞ」
「うん!!」
「さ、本当は昨日の夕飯に出す予定だったローストチキンを出してあげますからね。アルマは家畜小屋の掃除をしてきてちょうだい」
「わぁ!今日も朝からご馳走だ!!父さん母さんありがとう!掃除してくる!!」
そう言い残し、私はダッシュで朝の仕事を済ませに向かった。
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