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第76話 北欧での人探し その三

 タクシーでティコ・ブラエの霊が教えてくれた小公園に着いたのは、ちょうど日没を過ぎた辺りなんだが、未だに西の空が明るい。

 時刻は現地時間で午後四時半頃。


 コペンハーゲンの夏場は、日の出が早く(午前4時半ころ)日没は遅い(午後10時近く)なんだが、晩秋には日の出が午前7時過ぎ、日没が午後4時半頃になるんだ。

 公園はさほど広くはないな。


 木立と低木(セイヨウツゲなのかな?)に囲まれた30m四方ぐらいの敷地に砂場と遊具が置かれている子供が遊べる公園のようだ。

 この時間だと流石に人気は無い。


 すぐ隣は東側に三階建ての集合住宅、西側は空き地なのか草地になっているな。

 で、俺はペンシルライトを手に、公園内の捜索を開始した。


 5分もしないうちにコンちゃんとダイモーン双方が反応したよ。

 公園の北西端、線路に近い端っこに、何の変哲もない丸石があったが、そいつから妙な波動じみたものを検知したようだ。


 かく言う俺も2m近くまで近寄って、妙な感覚に襲われた。

 ジワリと闇に覆いつくされるような不安な感じがする。


 その中心は、間違いなく公園の隅っこにある丸石だ。

 丸石と言っても真円じゃないんだぜ。


 どこぞの河原に行けば見かけられるような長径40センチぐらい、短径30センチぐらい、厚さ20センチぐらいの(いびつ)な石塊だ。

 色は黒いな。


 暗くなってきたのでもう少し石の表面を見ようと、近寄りつつペンシルライトで光を当てた途端、周囲の雰囲気が変わった。

 うん、こいつは何となく、日本で巻物の探索の際に出会ったハマヌーンの異界に似ている。


 但し、あの時には確か魔方陣が出現していたが、今回は魔方陣は見ていない。

 もう一つ重要なことは、あの時は俺と居候達とのつながりが完全に断たれたんだが、今回は居候ごと異界に巻き込まれたようでパスがつながっている。


 どこで異界とわかるかって?

 空気というか雰囲気がガラッと変わるし、周囲は薄暗がりで3m先ぐらいがよくわからないんだ。


 で、コンちゃんやらダイモーンにお願いして周囲を探ってもらおうとしたが、生憎とコンちゃんやダイモーンは俺とはつながっていてもなんだか金縛り状態で動けないようだ。

 そんな感情を念話で送って来られたら、仕方が無いから俺が動くしかないか・・・・。


 で、一歩を踏み出したら、目の前に忽然と犬らしきものが現れたぜ。

 犬と言ってもデカいんだぜ。


 北海道のばんえい競馬に出て来る大型馬(ばん馬)を間近で見たこともあるが、それよりもさらに二回りほどデカい奴だ。

 なんというか表現に困るんだが青黒い毛並みの奴で、頭部は狼と虎を足して二で割ったような雰囲気だな。


 俺の目の前二メートル半ほど先にのっそりと居るんだが、180センチを超える身長の俺が見上げなければならない位置に頭部がある。

 頭周りだけで、ライオンよりも絶対にでかい感じがする。


 どう見ても恐ろしげな生き物だし、こんな犬が普通には居るはずもない。

 念話で確認する限り、コンちゃんも何となく神気のようなものを感じ取っているようだ。


 怖いことに口を開けてよだれを垂らしているんだが、もしかして俺が餌に見えている?

 俺なんか一飲みにされそうなほど(あぎと)がでかいぜ。


 これって幻覚じゃないよな?

 俺がその思った途端、コンちゃんもダイモーンも(そろ)って念話を送って来たぜ。


『こいつは幻じゃなくって、実体だ‼』


 本当は逃げ出したいんだが、猛獣という奴は逃げる奴を追いかける。

 こんな奴にじゃれつかれたら間違いなく一発で死ねるだろう。


 ならばどうするか・・・。

 大学時代の夏休みに北海道の山にハイキングに行ったんだが、その時猟銃を持った古老に出会ったよ。


 何でも害獣を撃つハンターなんだそうだ。

 その際に、北海道でヒグマに出会ったら、逃げずににらみ返すと良いと教えられた。


 下手に逃げると絶対に追いかけて来るらしい。

 熊の脚は早いし、木の上にも登る。


 だから逃げるのは一番の悪手らしい。

 一番始末が悪いのは、子熊を見た時らしい。


 子熊の近くには間違いなく母熊が居るそうで、子熊が襲われると勘違いされたら何をしても襲われるそうだ。

 子熊を見かけたらできる限り静かにかつ速やかにその場を離れることだと教えられたよ。


 熊という奴は、臆病な獣らしい。

 だから普通は人家には寄ってこないし、音をたてていると近づかないという習性が一般にはあるんだそうな。


 だが、最近はハイカーたちが山野にキャンプし、平気で食べ残しを捨てたり埋めたりしているので、ヒトやテントがあれば食料があると熊に刷り込みされるらしい。

 それが嵩じるとクマも学習し、ヒトが居るところ(つまりは人里)には餌があると学習してしまうようだ。


 人を襲ったクマは、腹が減っていれば人肉も(かじ)るんだが、一旦人肉を味わうとそれに味を占めて、二度、三度と人を襲うようになる。

 そんな人食い熊はできるだけ退治しなければならないと古老は言っていた。


 また、人と熊とがどちらも気づかずに出合頭に合うと、クマの方もびっくりして襲うことが有るそうだ。

 一方で、川を挟むなどして少し遠目でお互いの姿を見かけたような場合は、(にら)んでいると熊の方から離れてくれる場合があるそうだ。


 目の前にいるこいつは熊ではないし、俺という存在に間違いなく気付いているはずなんだが、今のところ襲って来ていないし、逃げ場所も隠れる場所も見当たらないので、逃げるのはまず無理と判断し、取り敢えずはこいつの眼を睨むことにしたぜ。

 するとふいに念話が聞こえた。


『お前はミズガルドのメニスケルなのか?

 何故ここにいる。』


 念話なのでどこの言語か知る必要もないんだが、少なくともミズガルドは古ノルド語だし、メニスケルはノルウェーやスエーデンの言葉のはずだ。

 但し、こんなに明瞭な言葉に聞こえている訳じゃないんだぜ。


 どちらかと云うと、“ブワーン、ブワン”というような(うな)り声にも似た念話が届いて、正直なところ頭が痛くなるほどだ。

 つたない俺の考えでは、俺が地上の人なのかと聞かれたような気がする。


 まぁ、神話の世界ならばいろいろな世界があるのだろう。

 俺が住んでいるのは、少なくとも“神界”でも“冥界”でもないから、それを肯定するしかない。


『俺がなぜここにいるかはよくわからない。

 ミズガルドで若い女が消息を絶った。

 俺はその消息不明の女を探している。

 その若い女が行方不明となった場所からさほど離れていない場所で、異質な気配を感じたので調べている間に、この異界に取り込まれた。

 ここは、アスガルド?それともニブルヘイムなのか?』


『ふむ、迷い人か・・・。

 ここはアスガルドでもニブルヘイムでもない。

 また、ヨツンハイムでもない。

 どちらかというといずれにも属さない中間空間になるのだろうな。

 (たま)にミズガルドの人がここに現れることもあるが、それらを称して迷い人と称しておる。

 此処ではお前たちの命をつなぐものが何も無いでな、長生きはできぬぞ。

 で、若い女を探しているとのはなしだが、ついちょっと前にも迷い人がおったな。

 我の姿を見るとぎゃぁと喚いて気絶するから、できるだけ会わないようにしているが・・・。

 我も迷惑している故、お主たちで連れ帰ってくれまいか。

 さもなければアレは死ぬぞ。』


『できればそうしたのですが、帰り方が分かりません。

 どうすればよいのでしょう?』


「ここに来るには如何(いかが)したのじゃ?」


『ミズンガルドのとある場所で、異質に感じる石の塊を見つけ、それに光を当てたらここに迷い込んでいました。』


『ほう、石の塊とな。

 あるいはそれが月光の導モーンセン・バゲィセラやも知らぬな。

 その昔、我の仲間が道しるべにミズンガルドに置いたはずじゃ。

 お前がこの場所にいるということは、その石がある場所はミズンガルドの南の地じゃろうな?

 なれば、お前の背後側に光を当ててみよ。

 さすれば、ミズンガルドに帰れるやもしれぬ。』


『帰り道を教えていただき感謝いたします。

 ところで、私はメニスケルのダイゴ・アカシと申しますが、あなたはどなたになるのでしょうか?』


『我の名は、ハリエッターレント。

 親しき者はハティと呼ぶこともあったな。』


『ロキ殿とともにラグナロクを戦ったハティ殿ですか?』


『ふむ、メニスケルではそのように伝えられておるか・・・・。

 その昔、(いさか)いはあったが、ラグナロクと呼ぶまでの闘いは無かったな。

 それはさておき、お前の世界に戻るなれば、そなたの同類と思われる者を連れて行け、ここで死なれては我も始末に困る。

 迷い人の果ては臭いし、骨だけを残す故な、どこにも捨てられん。』


『できれば連れて帰りたいと存じますが、どちらに居ますのでしょうか?』


『ふむ、同類の気配も察知できぬか。

 止むを得まいな。

 我の後に付いて参れ、案内しよう』


 こうして俺はうす暗い中を、黒い大きな犬、いや、多分、神狼だろうなの後に従って歩いた。

 この異界では時間経過が分からない。


 俺の腕時計は完全に止まっているので、体内時計で多分10分ほども歩いただろうか。

 前方の薄暗がりに、若い女のシルエットが見えた。


 これがまた、本当に近づかないと見えないから始末に悪い。

 で、本当に間近になってから問いかけることにした。


 だが、理恵さんと思われる女性は、ハティの姿を見ると金切り声を上げて泣きわめくんだ。

 止むを得ず、俺が近づいて抱きしめてやるとしがみついてきた。


 変な話ではあるが、チョット匂いのする女性だった。

 人の世で10日前後も同じ服装でいたのだろうけれど、見た感じではたぶんそれほど時間は立っていないような気がする。


 おそらくは、ハティの恐ろし気な姿を見るたびにお漏らしをしていたのじゃないかな。

 まぁ、それも止むを得まいな。


 この後何とか、理恵嬢を(なだ)めて、再びハティの案内で、元の場所に戻り、そうして俺の持っていたペンシルライトの光をハティの言う方向へ向けると、瞬時に薄暗い中から、夕闇迫る公園の一角に俺と理恵嬢が立っていた。

 どうやら今回も無事に異界から戻ることができたようだ。


 再度、スマホでタクシーを呼び出し、ひとまず、アキさんの家に理恵嬢を送り、アキさんには簡単な事情説明をしてから、ホテルへと戻った。

 ホテルへ戻ったら、晴信が調査から戻って来ていたが、そちらの方はある意味で無駄骨に終わっていたわけだ。


 晴信は、それを聞いてむすっとしながら蔵の中に消えていたな。

 いずれにしろご苦労さん。

 

 その夜のうちに親御さんには理恵嬢が見つかったことを連絡した。 

 予定通り、明日の午後にはコペンハーゲンから羽田に向かってSASに搭乗することになるな。


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