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第75話 北欧での人探し その二

 11月2日、コペンハーゲンに到着して二日目で、アキさんの家の居つきの精霊トリテから、理恵さんが行方不明になったその時に、『ロキの眷属のような匂い』を嗅いだと教えられたが、俺も北欧神話に左程詳しいわけじゃない上に、『ロキの眷属』で思い当たることが無いんだ。

 ただ、まぁ、強いて言うならば、眷属ではないんだが、ロキの子とされる「フェンリル」、「ヨルムンガンド」、「ヘル」が関係するかもしれない。


 だが、それならそれでトリテは眷属と言わずに『ロキの子』と言うのではなかろうかと思うのだ。

 色々ネットで神話を調べると、フェンリルとヨルムンガンドは、ラグナロクで殲滅(せんめつ)されたことになっているようだ。


 残りのヘルが冥界で生き残っているかもしれないようだが、その辺はよくわからん。

 それ以外となれば、少数説で余り信じられていないようなのだが、フェンリルの子とされているスコルとハティかな?


 但し、北欧神話に関する主流の説は、フェンリルに子は居なかったとされているんだ。

 であれば、同じ巨大な狼種であったスコルとハティがフェンリルの子ではなくても、ロキ派に属していたのであれば、ロキの子分つまりは眷属となる可能性もある。


 何せ神話だからその内容自体が物凄く怪しい上に、いろんな解釈の説があるんだ。

 神族同士の争いである()()()()()で、ロキ側戦力として生き残ったのは、確かヘルだけ、それにハティは生死不明だな。


 従って、眷属だとすれば、一番可能性の高いのはハティではないかと一応の見当は付けたんだが、そもそも眷属にしたって、神話に出てくるぐらいだから神族ではないにしても、神獣(?)に含まれる範疇なんだろうね。

 ハティは、天空の月を追いかける黒いオオカミとして知られているんだが、仮にどこかに居るとすれば一体どこに居るんだろうねぇ。


 神様が住む地であるアスガルドには、反乱軍若しくはそれに加担した生き残りは、多分住めないんだろうな。

 ミズンガルドは、人の世で、まぁ俺らが生きている地上世界だよな。


 ニブルヘイムは、氷の世界でヘルが支配しているんだが、まぁ、俗にいう北欧版の冥界(めいかい)なんだろうな。

 一旦、昼食で近場のレストランで飯を食った後、アキさんの自宅の周辺を一通り歩き回ってみたよ。


 もしかすると樹木とかの精霊や霊が、関連する何かをみているか、あるいは何らかの異様な気配に感づいているかも知れないからな。

 だが夕暮れまで歩き回っても手がかりは得られなかった。


 やむを得ないから、アキさんに一応の挨拶をしてホテルに戻ることにした。

 翌日11月3日は、先史時代の痕跡若しくはハティに絞って博物館等の史跡巡りをする予定だ。


 時間的に追われてはいるんだが、手掛かりを得られなければどうしようもない。

 少しでも手がかりを得られればコペンハーゲンでの滞在日数を増やせるんだが、流石にトリテの証言を親御さんの説明には使えない。


 また、いつも言い訳に使っている()()の話も遺体の場所が判明しているような場合でなければ使えないよな。

 念のため、防犯カメラに何か映っていないかを、エレック君に頼んだが、手掛かりは得られなかった。


 少なくともアキさんの家の近辺の道路に面した各家庭の防犯カメラ等には、理恵さんが消えた前後で何も異常は認められなかったよ。

 やはりアキさんの家から(もや)とともに瞬時にかき消えたというトリテの証言が正しいのだろうな。


 ところで、ハティってのは、月を追いかけて(かじ)ったんだそうだが、神話とはいえ、どんだけ大きいんだと思うよな。

 一方で、失踪した速水理恵さんは、身長167センチと、日本人女性としては、まぁまぁ高い方かな。


 写真で見る限り、そこそこの美人ではあるが、絶世の美人とは言えんだろうな。

 スタイルはスレンダーで、日本人らしくバストは控えめね。


 その代わり、脚が長そうでモデル体型かもしれない。

 北欧の神族若しくはその眷属が(さら)ったとしたなら、一体どういう理由があるんだろうね。


 日本人に北欧民族の血は流石に混じっては居ないだろうと思うのだが、あるいは北欧のヴァイキングの先祖がアジア系?

 ウーン、それもちょっと考えにくい。


 蒙古襲来でモンゴルの支配が及んだのは、精々現在のウクライナかペテルスブルグ辺りぐらいまで、バルト三国にまでは及んでいなかったはずなんだ。

 当然それよりも西側の北欧諸国には及んでいない。


 まして北欧の人は一般的に体格がでかいからな、小柄なアジア種族とは明らかに異なる。

 理恵さんが攫われたのには何某(なにがし)かの理由があるはずなんだが・・・・、そこが分からない。


 出発前に彼女のことをもう少し探っておけば良かったと悔やむ俺だが、実のところ、拙速で飛び出して来たんで時間的余裕が無かったんだ。

 今更の話ではあるんだが、俺の居候にその辺を探ってもらうことにしたよ。


 移動にちょっと時間は食うけれど、時間的に制約を受ける飛行機に乗るよりは早い。

 この役割は、元陰陽師の土御門晴信にお願いしたよ。


 晴信はぶつくさ言いながらも引き受けてくれた。


 ◇◇◇◇


 11月3日、野外調査には少々寒い時期ではあるんだが、調査範囲を広げるために自転車をレンタルした。

 コペンハーゲンの人口は市域で約80万人、日本で言えば大阪府の堺市(約80万)に相当するが、面積はコペンハーゲンの約180平方キロメートルに比べ、大阪堺では約150平方キロメートル、人口密度はコペンハーゲンの4400人/平方キロ程度に比べ大阪堺で5500人/平方キロ程度。


 従って、デンマークの首都で比較的人口密度が高いにもかかわらず、敷地にかなり余裕があるし、市内の住宅地には緑地が多いのが特徴だ。

 因みにアキさんの家も200坪を超える敷地があるが、その半分以上は庭の緑地帯で、戸建の住宅地は皆同じ感じだな。


 また、市内中心部から徒歩圏内の市域内や市外地に、野生のままの広い公園地区(例えばVagthussøenやKalvebod Fælled)などもある。

 またペット(犬)のための運動公園も市域内にかなりの数と広さがあるんだ。


 俺がレンタルバイクで動き回るのは。主として俺のホテルからさほど遠くない、アマリエンボー城やローゼンボー城などの史跡が中心だ。

 但し、此処に先史時代の遺跡があるわけじゃない。


 デンマークの先史時代は、紀元前1万2千年前の旧跡時代から始まるようだ。

 但し、神話がルーン文字等で残されるようになるのはずっと後であり、しかもキリスト教の普及とともに異端とされた神話の系統は圧殺されたんだ。


 日本の江戸時代の耶蘇(やそ)教なんかは、隠れキリシタンとしてほそぼそと、かつ、秘密裏に信仰されてきたんだが、北欧神話の場合は、土着信仰ともいえることだろう。

 だから神話の史跡としては余り残っていないが、ルーン文字を刻んだ石板などに逸話が残されていて、こいつは古くても1~2世紀ごろの話だろう。


 まぁ、神話の方は、北欧であってもデンマークを舞台にしたものじゃないのかも知れないしね。

 どちらかと云うとアイスランドやグリーンランドの方が伝承の地としては相応(ふさわ)しい。


 だから、今日の市内調査は、どちらかと云うと有ればめっけものという感じで、余り期待はしていないんだ。

 念のため、昨日のアキさんの家の徒歩圏内のさらに外側を自転車で回り、そこから市内中心部に向かって観光地でもあり史跡でもある場所を巡って行く。


 調査というよりも探索だな。

 俺の勘とコンちゃんやダイモーン等の居候の感覚を頼りにしている。


 何か異常があれば、そこを重点的に探すつもりだ。

 そう言えば婚活パーティで神隠しにあったもう一人の理恵さんの時は、異界の出現が月齢と微妙に関わっていたなぁ。


 あれは玉兎が関わっていた所為もあるんじゃないかとは思うんだが、今回もハティが関わっているとしたなら月に因縁がありそうだ。

 昨日ホテルに戻ってから、念のためネット検索をしたら、コペンハーゲン在住の占星術師として、数人の名前が挙がったけれど、ネットでコマーシャルを出しているぐらいなので正直余りあてにはしていない。


 日本の場合でも、以前関わった宿曜の女占い師は、ネットには一切出ていないが政財界では高名な人だった。

 口コミでは広まっていても、ネットやマスコミには関わらなかった人なんだ。


 むしろ、そんな人で本当に能力のある人が居れば頼ってもいいのだが・・・。

 因みに、速水理恵さんが行方不明になったのは10月23日で、概ね満月に近い月齢25.5、11月3日は月齢7.1なので、仮に月齢26程度の日に合わせるならば、11月22日まで待たねばならないが、スケジュール的にとても無理だな。


 ということで月齢の線はあっさりと諦めた。

 俺のコペンハーゲン滞在は、到着日の1日を除いて2日から4日までの正味3日、足掛け4日の予定とされているんだ。


 従って、何も無ければ、明日の正午過ぎにはコペンハーゲンを立たねばならないんだ。

 それまでに超常現象のきっかけでも掴めればよいんだが、あてがないだけに、俺としては悲観的未来しか見えないな。


 それでも足掻(あが)いてみようと、異国の寒空の中、頑張って自転車をこいでいる。

 その日の日没まであと30分というところで、ニューカールスベア美術館で、変わった精霊が俺に取り付いた。


 たまたま大鎌を持ったサタンのような彫像の傍らだったんだが、昔の貴族風の髭のおっさんの霊が現れたんだ。

 そいつが、俺に取り付いてから始めてティコ・ブラエの霊とわかった。


 ウーン、コペルニクスの地動説に反して、新たな天動説を唱えた人で、デンマークの貴族、天文学者・占星術師・錬金術師・作家だったお人だ。

 ある意味で間違った理論を構築した16世紀のヒトではあるんだが、その観測眼は当時としては優れていたらしい。


 で、その人が霊として現代まで残っており、死後もコペンハーゲンの(ぬし)みたいにあちらこちらで様々な知見を集め、多くの知識を保有している霊だったんだ。

 で、そのティコ・ブラエさんが、俺の蔵に出入りすることを条件に、有力な情報を俺にくれたよ。


 ハティと関りがあるかどうかは別として、超常的な力が時折発現する場所として、アキさんの家から西南西200m足らずのところにある古びた公園の片隅の小さな岩が、特異点になっている可能性があるという。

 因みにこの特異点の有効範囲は、満月で一番広く、新月で一番狭くなるという。


 この公園は、アキさんの家から直線距離では近いが、鉄道の線路を挟んで南側にあるために、昨日も今日も探索域からは外れていた場所だ。

 私は、自転車をレンタルショップに返して、一縷(いちる)の望みを託して、問題の公園までタクシーで向かったよ。


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