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第74話 北欧での人探し その一

 またまた毛色の変わった依頼がやって来た。

 何でも現地に滞在する知り合いを頼って渡欧した若い女性が行方不明になったようだ。


 現地の警察もすでに動いているようだが今のところ全く手がかりはない。

 消息が途絶えてから既に8日目に入るという事で、行方不明者の親御さんから俺の事務所に依頼の相談があったわけだ。


 行方不明になった女性は、速水理奈さん24歳で、東京丸の内に務めるオフィスレディのようだ。

 外資系の会社のためか、バケーション代わりの二週間程度の長期休暇がもらえたようで、この制度を利用して、大学時代の知り合いでデンマークに住む女性を訪ねて行ったようだ。


 尋ねて行った友人の方は、理恵さんの大学の一年先輩の女性であり、大学卒業後デンマーク人男性と結婚、現在はコペンハーゲン市内に住んでいるようだ。

 問題は、夫婦そろって知人の家に出掛けて家に戻ったら、家で留守番をしているはずの速水理恵さんが不在だったことに端を発する。


 或いは買い物でも出かけたかと暫く待ってみたが、一向に連絡もないし、帰ってこない。

 その夜遅くに警察に連絡を入れたが、特段の情報は得られ無かった。


 翌日も家に戻ってこないことから、警察を含めて本格的な捜索が始まったのだが、失踪から2日経っても消息不明のままで、親御さんの方に当該友人から連絡があったようだ。

 ご両親の方は外国旅行には行ったことも無い上に、北欧は必ずしも英語圏ではないことから渡欧そのものをどうするか随分と悩んでいたようだ。


 最終的に知人から紹介してもらった行方不明者捜索をほぼ専門的に行っている俺の事務所に依頼をするために来たということのようだ。

 仮に親御さんが高い経費をかけてデンマークに行ったとしても、自分たちでは何の役に立たないと十分に承知していて、誰かに頼むことを思いついたわけだ。


 渡航費用だけでも馬鹿にならない(往復で37万円程度)のだが、その辺はご両親も十分に承知しているようだ。

 デンマークへは、羽田からスカンジナビア航空(SAS)の直行便がある。


 デンマークでの短期滞在はビザが不要なので、観光であれ商用であれ、パスポートがあれば簡単に行くことができる。

 コペンハーゲンは緯度から言えば樺太北端よりも緯度が高いから、本来の気候から言えば寒冷地に入るんだろうが、西岸海洋性気候の所為で冬は左程寒冷にならず、夏は涼しい気候のようだ。


 北海道の函館ぐらいのつもりでいれば良いとは、北欧に旅慣れた俺の友人の御託宣だが、夏場でも気温30度を超えることがほとんどない地域のようだぜ。

 夏場の平均気温は21度で、冬場の最低気温は氷点下になることもあるようだが、さほど下がらないらしい。


 日本の高温多湿の気候からすればとんでもなく涼しそうな気候だが、現地に住む日本人の情報を集めると、若い人はともかく、ある程度の年齢を迎えた者は、夏場でも薄い上着を携帯して歩く程度がちょうど良いらしい。

 また、緯度が高い所為もあって日没は早いようだ。


 デンマークの国土面積は概ね九州よりも少し狭いぐらいで、人口は約600万人(九州は約1300万人)なのに、犯罪発生率はかなり高い。

 日本の九州全域での犯罪発生数は、年間約7万4千件なのに対して、デンマークでは年間約35万件と5倍弱、人口比から言うと10倍近い数値になるので、結構治安が悪いと言えるかもしれない。


 従って、速水理恵さんが何らかの犯罪に巻き込まれた可能性も無くは無いのだが、デンマークで凶悪犯罪が起きるのは何となく俺のイメージに合わないんだよな。

 過去をさかのぼれば色々と凶悪な事件も起きているんだが、デンマーク王国はどちらかと云うと牧歌的なイメージなんだ。


 北欧諸国の中でもIT先進国ではあるんだが、同時に農業国でもある。

 但し、置き引きや強盗の類は結構起きているんだけれどね。


 因みに親御さんが依頼をしに来た今日は、ハロウィンの前日だ。

 理恵さんもそもそもハロウィンを目途に旅行に行ったようだ。


 コペンハーゲンには、世界で最も古いと言われるテーマパークのチボリ公園があり、ハロウィンには特別のデコレーションや催しがあるらしく、ネットでその情報を得た理恵さんが是非ともそれを観ようと先輩のアキさんにホームステイをお願いしたようだ。

 俺も北欧に昔旅行はしたが、余り長居はしたわけでは無いので流石に知人は居ないな。


 いずれにしろ、依頼を受けた翌日の10月31日、偶々フライト便に空きがあって俺はSASの便に搭乗できた。

 羽田からコペンハーゲン国際空港までおおよそ14時間ほどの空の旅だ。


 そこから一旦タクシーで宿泊先のManon Les Suitesに行く。

 Manon Les Suitesは五つ星ホテルだが比較的お安いホテルなんだ。


 それでも必要経費として請求するにはちょっと高いからね。

 ホテルの領収書は二分割にしてもらう予定だ。


 まぁ、小金持ち探偵のちょっとしたサービスで、請求額は二分の一にする予定と言う訳だ。

 一泊素泊まりで7万から8万というのは流石に請求しにくいからなぁ。


 いずれにしろ、コペンハーゲン着が11月1日の午後6時過ぎで、外はもう暗いし、通関手続き等で空港を出られるのは間違いなく午後7時過ぎだ。

 とても他所よそのお宅等にお邪魔する時間じゃない。


 空港からホテルまでタクシーで30分弱、午後8時までにはチェックインできたよ。

 コペンハーゲン西部域の住宅街区のTraps Alléに面した地に、アキ・Møllerさんと旦那であるFrederik・Møllerさんの家がある。


 理恵さんが消息不明になったのは10日前の話ではあるが、仮に留守番をしている間に理恵さんの身に何か異変があったのなら、居つきの霊がなにがしかの異変を捕らえているだろう。

 俺の調査の初動はそこから始めるしかないよな。


 ホテルについてから、アキさんには明日訪れる旨の連絡を入れ、同時に依頼人である速水さんにも現地に到着した旨の一報を入れた。

 調査活動は実質明日からになる。


 デンマークの11月は、一応区分としては秋らしいのだが、日中の最高気温は10度を下回り、最低気温は氷点下になることもある。

 11月に積雪があることも珍しくないようだ。


 従って、俺はきっちりと冬支度の防寒対策をしているんだぜ。

 尤も、事前に仕入れたネット情報では、デンマークの場合、室内に入ると暑いぐらいに暖房が効いているらしい。


 この辺は、北海道の真冬に暖房をガンガンかけて室内温度が30度を超えるぐらいの中でアイスクリームを食べるのと同じみたいだな。

 デンマークでは、来客予定の場合、歓待の意味合いで通常よりも室内温度を上げるそうだ。


 従って、店舗やレストランも客商売なので、当然に中の気温は高くする。

 このためにあまり厚着をして外出するのも問題らしいぞ。


 まぁ、俺の場合、少々の気温なら何とかなりそうな奴がすぐ近くに居るからな。

 気温の問題はさほど心配はしていないんだが、傍目から見て余り異様な格好はできないよな。


 ◇◇◇◇


 11月2日午前9時にホテルからアキさんの家に向かう。

 旦那さんは仕事のようだが、アキさんは仕事を休んで今日一日は付き合ってくれるようだ。


 デンマークは所得が高いことで知られており、平均収入では一人当たり1千万円を超えるらしい。

 その中にも貧富の差はあるんだろうけれど、全体的にかなりの高所得だろうね。


 俺の場合、小金持ちなもんであんまりその辺の感覚が無いんだが、日本の勤労者の平均所得600万円あたりとくらべるとかなり高いよね。

 まぁ、デンマークの場合、所得税も高いらしいけれど・・・・。


 ホテルからアキさんの家まではタクシーで20分ほどだ。

 9時半にアキさんとお会いして、家の中を見せてもらった。


 理恵さんの泊まっていた部屋を含め、家の中を見て回ったわけで、その際に居つきの霊が色々と教えてくれたが、結構面倒なことになりそうだ。

 所謂()()に巻き込まれたわけじゃないんだが、おそらくは警察でも手が出ないだろうな。


 ある意味で、理奈さんは神隠しに会ったみたいなんだ。

 居つきの霊曰く、()()()()()()()()()()()()()()()()()と証言したんだ。


 確か、『ロキ』ってのは、北欧神話で出て来る神様の一柱のはずだ。

 ロキそのものが理恵さんを攫って行ったんなら、とても俺では手が出ないだろうなぁ。


 眷属ならばなんとかできるかも知れないんだが・・・・。

 そもそも、いたずら好きなロキに眷属が居たという話を俺は知らない。


 叙事詩エッダでは、ロキはラグナログで戦死したはずだしな。

 居つきの霊が何故にロキの眷属と判断したかなんだが・・・。


 色々疑問があって、居つきの霊にたくさんの質問を投げかけることになった。

 因みに居つきの霊は、家の守護霊で「トムテ」という精霊らしい。


 姿形は白雪姫に出て来る七人の小人に似ていると言って置こう。

 一説ではサンタの原型とも言われている。


 その彼が言うには、ロキの匂いがしたからロキの眷属だというのだ。

 でその眷属はどんな姿をしていたのかと聞くと、曖昧模糊とした答えしか返ってこなかった。


 トムテが気づいたのは霧のようなイメージで、ソファーに座っていた理恵さんを取り巻いたと思うと、あっという間に()き消えて、その場に居たはずの理恵さんも姿を消したという事らしい。

 神隠しと言うかどうかは別として、いずれにせよ何者かによって異界に取り込まれたと考えた方が良いだろう。


 一応の調査のための時間として、コペンハーゲンで三日を貰っていたんだが、果たしてそれで済むかどうかちょっと怪しくなってきたなぁ。

 そもそも異界の入り口や出口がどこにあるかは今の段階では全くわからないんだ。


 俺がこれまで取り扱ったケースでは、ごく近い場所に再度出現していたが、必ずしも同じ場所とは言えないんだよな。

 いなくなったのアキさんの家なんだが、そこに異界への入り口があるとは限らない。


 帰りの便は、一応11月4日正午過ぎのコペンハーゲン発で、羽田着は翌日の午前8時前を取っているんだが、さてどうなるか・・・。


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